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孤独を知ることは



孤独を知ったのは君の存在を知ったから。



寂しいと感じるのは君と出会ったから。



最初からずっと独りだった僕が

それらを知る術はなかった。










え?


―――違う、そうは言ってない。





幸せだったと言ったんだ。



誰かと一緒に過ごす幸せを

与えてくれたことに感謝している。



それが愛しいと思う人ならもっと

特別な時間であることも教えてくれた。



ああ、そうだな……君だからだ。

どうせ分かってて聞いてるんだろ?




……同時に喪失感も初めて経験させられたが。




だから、後悔はしていないって言ってる。






一人で平気だったか?




……相変わらず意地の悪い聞き方をするな。




今までのように生きれると

本気で思っているのか?



ずっと続く途方もない時間を

思い出だけで?


いっそ狂えればどんなに楽かと

想像しながら永遠の時を生きていた。





分かってる、これこそが課せられた罪、

逃れることは許されない。



これは罰なんだ。



決して君のせいではない。


自ら招いて掟を破った、僕の咎。



この世界にはこの世界の理がある。

それを捻じ曲げようするのなら

それなりの犠牲を払わねばならない。















静かだ――とても。





風の音も聖獣達の声も

今の僕にはもう届かない。



ただ、いつもの様に日が昇り暮れゆくのを

目にしては時の経つのを知るだけ。


それは記憶の始まりと終わり。

僕に夜の記憶は存在しない。



夜の僕は大人の姿をしているらしい。


但し着任当時の記憶しか持たない為、、

生きていく手段として、せめてもの情けで

耳は聞こえているのだと主は教えてくれた。



成る程、生きていくのに必死なのだろう、

朝、激痛で目が覚めることも多く

全身傷だらけだったり気分が悪くて

吐いたりした事は両手の指では

間に合わないほどだった。



どうやら主から洗礼を受けている頃のようだ。



(まだまだ薬草の知識が中途半端だな)



それでも床のいたる所に血溜りが

あった頃に比べると随分マシには

なっているようだが。



当時は時空獣や主との関わり、

狭間での責務の日々に追われていた。


それら全てが感情を削ぐ為の工程だと

身をもって知るのはもう数百年先か。



人が目の前で殺され返り血を浴びても

平然といれるようになったのは

どれくらい先だった?




何も知らない夜の僕と余計な記憶を持つ僕は

果たして一体どちらが幸せなのだろう。








いっそ僕も記憶を抹消しようかと

何度考えたかしれない。



(楽……だろう、きっと)



君は決して戻っては来ない。



それが分かっていながらのこの記憶を

持ったまま生きていくのは正直キツイ。


だが、いざ試みようとすると決まって

君の声が君の顔が邪魔をしてきた。







日没まで僕の目が扉の方を見ている時間が

どれだけだった君に想像が付くか?



この終わりのない世界で

たった独り、あのドアが開くのを

何年も何百年も待ち続けた。



戻ってくるはずのない君の幻影を追って

……それが僕の生きる唯一の理由だった。



滅多に降らない雨が降る度、

帰ってきたんじゃないかって

何度湖に足を運んだろう。



戻るわけないのに

期待しても無駄なのに。








だから――もう待つまいとやっと決めたんだ。




雨が降っているか何度も窓を見るのも

扉が開いていないか確認するのも、


例え雨が降ったとしても

すぐに森には行かないようにしようと。






あの日、



雨が降っているのに

気が付いたのは昼も過ぎた頃だった。



雨が中々やまないのに焦れて

自分で決めてルールを無視し

堪らず外に飛び出していた。







軒下で倒れている君を見つけた時、

息が止まった。



この僕が君を見間違えるはずもない。





子供の力で君を家に運ぶのは

時間が掛かったが、それでも気が付かない

ところをみるとかなり具合が悪るそうで

もし僕の耳が聞こえていたらもっと

早くに気付けていたのにと悔やんだ。




治療を施して顔色が戻り安心はしても

夜は頼りない僕に任せなければならない、

しかも記憶はないといえ、一度は君に

好きになって貰った姿をしているアレに

会わせたくはなかった。




夜の僕を見た君の反応は

どうだったのかとか何を話したのか

口に出せば崩壊が始まる。



あんなに待ち望んでいたことが

現実に起きているというのに、

君が目覚めて何か話しかけてると

気配では感じていても振り向けなかった。



振り向けなかったんだ。



まともに顔なんか見れれないくらい

信じられないほど嬉しくて

悟られないよう自分を抑えるのに

どれだけ必死だったか。



姿形は変ってしまった僕は

今どんな風に映るのか怖かった。



記憶を失くした君と

鮮やかな想い出を持つ僕。



君の世界ではたかだか数年、

数十年だったとして此処での経過とは

時間の流れがかけ離れているんだ。



態度が違うのは当たり前、

覚悟はしていた。




もう一度、君が僕を好きになる可能性は

ないとしても……




いま目の前にいることが奇跡で

それ以上望むべくもない。



それでも君が好きだった口調をなぞっては

その反応を呆れるくらい期待し

足掻いてる自分がいる。




―――どれだけ、


君に執着しているのか分かるだろ。





君をずっと見ていたら何もかも

言ってしまいそうで抑えるのに必死だった。









「……言えば良かったんだよ全部、イゼル」





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