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管理記録5



何故?



何故、突然咲いた?




昨日まで芽吹いてすらいなかったのに。



毎日それこそ何度も観察していたんだ

些細な予兆も気付かないはずがない。






「此処は?」



「狭くて陽も当たらないが

暫く我慢して欲しい」



「それは構わないけど、

なにかマズイ事でも?」



セキを連れて入った場所は

家の裏手にある小さな家屋。



人が生活する上で不自由はないが

窓もなく、扉は特殊な方法でしか

開かない仕組みになっている。




「綺麗な花だったね……あれが関係してる?」



いかにも僕の様子を窺うような

言い方をするセキ。



「何も無い、気にするな」



「俺を匿うってことはイゼルに

不利益になるんじゃ――」



「別に問題がある訳ではない、

気にするなと言った筈だ」



君が死ぬより余程そっちの方が

楽だと伝える必要は無い。



「……分かった」



君は知らなくて良い事だと

言いかけた言葉ごと強引に切った。



動揺を悟られてはいけない。

あくまで冷静に対処しなければ

彼に不安を与えてしまう、が……



「……分かった、聞かないよ。

此処にいれば良いんだね」



そう言って笑った勘の良いセキの顔からは、

やはり何かを悟っているように思える。



「それとコレを渡しておく」



渡した腕輪をしばらく見ていたかと思うと

その顔を上げた。



「これって最近イゼルが

ずっと作っていたものだよね」



何時かの為にと作り始めたものの

あまりに時間が無く機能制限付きの出来に

なってしまったが、それなりに使えるはずだ。



「それを身につけて話せば僕へと通じる。

用があれば何時でも呼べ」



「用がある時、限定?」





「……何時でも、と言った」




と、突然、背後から羽交い絞めにされた。



「なん、だ?」



「こんな場所に閉じ込められる代償を

要求しても良い?」



「な……内容による」



囁くセキの声は限りなく甘い。


だからといってこんな時に

ゾクゾクと体が震えるほど感じている僕は

きっと、どうかしてる。



「これから毎夜、君を抱きたい」



「……っ!今だってほぼ、そうだろ」



一緒のベッドに寝ているから

当然そういう雰囲気になる事が多いし

事実、夕べだって……



「でも、毎日じゃない。

これでも君が疲れている時には

手を出さないようにセーブかけてた」



僕の腰に回されていたセキの手が

後ろへと移動する。



「ぁ……セ!」



「返答次第では君もこの部屋から

出れなくなるかもだよ」



「く……好きにすればいいだろ!」



「君の体を?」



「そうだ」



「毎晩?」



「そうだ!僕だって君が欲し……ん」




「ノーチェ……」



まだ昨夜の余韻が残っている体に

君から与えらる熱がどれほど

僕を狂わせているか思い知らせてやりたい。



切羽詰った今だって

君と繋がったまま、このままずっといれたら

そんな頭のおかしい事を本気で思う僕を

君は知らないだろう?



君以上に僕が君を欲してることも

知らないくせに。



軽々しく煽るな。




僕は、僕は―――君しかいないのに。








セキ一人を残した小屋を振り返る。


子供の頃は特定の時間にしか

開かなかったのを試行錯誤して

やっと前任者の仕掛けを解いた後、

改めて結界を施すことによって

開閉できるのは僕一人。


稚拙な考えであっても

いま他に方法がない以上

これに頼らざる得ない。



とはいえ、

それなりの時間稼ぎにはなるだろう。



僕が赴任してくる前から

歴代の管理者が密かに守ってきた場所。


最初その使い道が分からなかったが

今ならそれが分かる。



先人達の自分の職務における

困惑と疑念、或いは懺悔だったか

唯一の抵抗ととも取れる管理官の砦として

確かに存在していた。



これまでそれを冷ややかな思いで

見てきたくせにどうしても

取り壊すことが出来なかった。


皮肉にもまさかその自分が

使う日が来ようとは。



「…………」



感傷に浸ってる暇はない、

早急に手を打たなければ。









「雨は相変わらず?」



「今日はどんな事をして過ごした?」



そんな他愛もない話をぽつりぽつりと

僕達は話す。



お互い核心には触れないように

細心の注意を払いながら。




「蛍?」




「そう、綺麗だよ。

淡い光を放ちながら飛ぶんだ」




「へぇ、見てみたいな」




「見せるよ、いつかきっと」




「――うん……」




雨が止まなければ見れないのだと。


薄々此処での雨の意味を感じていた

君が口しなかったのはこの為だったんだと

知ったのは何時だったか。






「朝だ、また来……」



急に手を引かれ後ろに仰け反った格好で

セキに抱きしめられた。



「服が着れない」




「イゼーチェル、愛してる」





滅多に呼ばなくなったその名を

君が何故その時に口にしたのか

深く考えもしなかった。



僕は随分、君を甘く見すぎていた。






知っていたんだな。




動き出した世界はもはや

僕には止めようがなくて

足掻いていたことを。


君は自分の置かれた状況も

これから僕が何をしようとしてるのか

多分、何もかも。






そして、とうとう

その日がやってきてしまった。


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