不変の想い
雨の夕暮れの陽が混じり、雨以外の
雑音が無い空間に二人きりでいるのは
酷く心地が良いものだとセキは感じていた。
だけど、
立ち上がってともすれば逃げようとするのを
自分によって封じ込まれているイゼルの
心情はどうなんだろうな、と苦笑しつつ。
「だいぶ陽も落ちてきた」
どうしたら良い?と含みを持たせた態度に
イゼルは唇を噛んでいたが、
もう時間がないよとの言葉に
漸く綻びをみせ始めた。
「外見は僕でも中身は空っぽだ。
あんなのは僕じゃない……アレを抱くな」
「それは嫉妬?」
「……ッ!」
さっきの言葉だけでも彼にしてみれば
きっと目一杯だと分かっているのに
どうしても、もっと追い込みたくなる。
「認めてくれたら彼には手を出さない」
「君は!!!」
抗議する両手を強く掴み直すと
イゼルはセキを睨んだ。
「認めろよ、ついでに好きだって
言ってくれて良いのに」
イゼルは瞳に涙を浮かべていても
なかなか決定的な言葉を
口にしようとはしない。
「そうか、分かった。
仕方ない、ノーチェなら……」
「くっ!」
素直じゃない君がかえって
こんなにも俺を刺激してること
全然分ってないんだな、とセキは
内心ゾクリとした。
「――良いのか?
もうすぐ夜になってしまうけど」
セキは掴んだ腕から指先へと
手を移動させ尚もイゼルを挑発的する。
それまで悔しそうに唇を噛んでいたゼルは
一旦視線を逸らせた後、
とうとう観念したようにセキを見返した。
「……その性格、変わらないんだな、セキ。
こういう時だけ君はそうやって
わざわざ聞かなくても分かることばかり、
いつも執拗に言わせようとしてた。
……昔も今も実に楽しそうだ」
「イゼルが本当に嫌だと思うなら
二度とやらない」
「嘘だ!その言葉、
何度聞いたと思ってる!?」
真っ赤になって怒る姿がたまらなくて
セキは思わず抱きしめてしまった。
男とか女とかもうどうでもいい。
好きになるはずだ。
過去の自分も君にどれだけ夢中だったか
容易に想像が付くくらいだから。
「人間そうそう性格は変わらないもんさ、
いや年月分意地の悪さに磨きが掛かってるかもな。
それでも好きでいてくれたんだろ?
――俺が今もそうであるように」
だから許してくれと、
その唇に軽くキスをしながら
言った言葉は君には届いていないだろうが。
読唇させる為に身体を離し
ワザとゆっくり口を動かす。
全てをその目に焼付けて欲しくて……
「大人の身体だったらこれくらいじゃ
済まないって……知ってるよな?」
読み取った君の顔の赤いこと……
「だ、黙れっっ、何も覚えてないくせに」
覚えてない、確かにそうだ。
記憶は一切ない。
だが、愛しいという気持ちが
止めど無く込み上げてくる。
多分……いやきっと
以前の自分もそう思っていたのだと
五感で分かるんだ。
何度も、出会う度に
君を好きになるだろう。
時間だ、視界が歪みだした。
「セ、セキ……」
「そんな可愛い顔されたら
約束するしかないだろ。
安心していい、彼には手を出さない」
イゼルであってイゼルとは違う
彼との時間が始まる。
それでも、
君だということには変わらない。




