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名前の由来

「運が良かったんだろう」



運?本当にそれだけ?




「なぁイゼル、どうやったら俺は

元の世界へ戻れる?

時の管理人というくらいだから

帰る方法だって知ってるんだろ?」



セキの言葉にイゼルは弾かれたように

顔を上げ、声も出さずに笑った。


それはセキが生まれて初めて目にする

類の笑い方でその表情に釘付けになった。




「……結局、君はそうなんだな」




人はこんなに悲しげに笑うことが

出来るのだと、初めて知った。







「…………」









「もう二つ、聞いておきたい

大事なことがある。


以前の君は大人の姿を

していたんじゃないのか?」



イゼルは反応を示さない。



「これはとても重要なことなんだ」



彼は自分の服の袖を掴んだまま

暫くして小さくだけど頷いた。



「やはり……そうか、ありがとう。


あと一つは、中身は大人だと知ってても、

やっぱり外見が子供だと、その……

言って良いものか流石に迷うな」




当のイゼルは顔こそ此方を向いてはいるが

聞いているのかどうか分からない、

そんな様子だった。



だから――多分、間違っていない。



セキは一呼吸入れ

極めて優しい声で彼に問いかけた。





「俺達もしかして

……特別な関係だった?」



途端、イゼルは目を大きくさせ

何度も瞬きをした。




「特別って何のことだ?

またアレの入れ知恵か」



「違うよ、イゼル。

君が教えてくれたんだ。


だってそうだろ?単にノーチェと一緒に

寝ていただけで君が過剰に反応する訳が

他にあるなら別だけど」



「単に聞いただけだ、

特に意味などありはしない」



冷静な声を出してるつもりだろうが

声の調子がおかしくなってる。


本人には分からないだけで

全然動揺を隠しきれてない。




「それとノーチェの名前の由来は何?

最初名が出たとき君は驚いていたよな」



「見間違いじゃないのか。

名前の事も前に知らないと言ったはずだ」




ホラ、また……




「果たしてそうかな?

素直に言わないところをみると

君の口からは言いづらいんだろ?」



「違うっ」


普段のイゼルらしくない

その慌てぶりは……



「やっぱりそういう意味か」



両手首を掴み顔をこちらに向けさせた上で

意地悪く聞き返すと耳まで真っ赤に。


それで大体察しがつくというものだ。





「ベッドでの呼び名だった?」




それで君がもっと赤くなって

唇を噛み締めてしまうのが分かっているのに

わざわざ口にしなくて良い事をいう自分は

相当なサディストかもしれない、とセキは思う。



無論、帰りたいと言った言葉に嘘はないが、

敢えてこのタイミングで口にしたのは

君の動揺を誘いたかったから。




見たかったんだ。



少なくとも今の自分が

一度も見た事がないその顔を……





“ノーチェ”という意味は“夜”



君を何度その名で呼んだのだろう。




「違う、勝手に思い違いをするな。

異世界の人間に干渉をしてはならない、

絶対禁忌だ。ましてや触れるなど」



イゼルが自分に言い聞かせるように

動かす唇にセキは指を乗せて止めた。



「やっぱり君に触れたんだな」



「―――!!」



「……触れただけ?」



「…………くッ」



「本当に?


俺がそれだけで満足できてたとは

思えないんだけど?

どんな風に触れたか教えてくれないか」



言いながら親指でイゼルの口をなぞる。



「……よ、せっ」



「君は俺と出会って心も体も成長し……

そして大人にしたのも俺、だろ?」



「……っ。

変な言い方をするな」




「ワザとだ、気付いているくせに」








だとすると、もうこれは

疑う余地もないか。



あの子供の頃の彼がこんな喋り方に

なるなんてと違和感を覚えていたが……


ノーチェの容貌でこんな風に

整然と話されたらと、以前も

想像しただけでゾクゾクしてた。


直面したらまず自分の理性を

保てるか自信が無い。



イゼル、思った以上に君は――




「その喋り方も、もしかして俺の所為?」




「そうだ」




……やっぱり、か。




今、イゼルとしての形成の一端が

自分に起因してると思うのは

単なる自惚れかと聞いたら、



君は何て答えるだろう。


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