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君を知りたい


「俺は前に此処に来て君と出会ってる。

しかも恐らく長い時間を共に……」



イゼルは足早に窓際に移動したかと

思うと窓を開け暫く庭先を眺めていた。



「……その根拠は?」



「前から疑問に思っていた。

俺の世界の事情や語句をそうも

詳しく知っているんだろうって」



「君の他にも同じ世界から

来た者がいたからと答えたら?」


すかさず挑戦的な言い方で

返したイゼルのその返事自体、既に

仮説としての答えだとセキは気付いていた。



「読唇は流石の君にもすぐには

出来ないらしいじゃないか」



「もう一人の僕から情報など

当てにならないだろ」




「そうかな?

能力の差は歴然だとしても

言葉の理解を音として捉えるという

根本的な所は変わらない筈。


だとしたら初めて来た俺の言葉を

どうやって正確に理解出来した?」



「…………」



彼がこうやって即答しない事も

もう学習済だ。


それでもセキの中で確信に変わったのは、



「最大の根拠は君が否定しないことだよ」





「成程、確かに」



「へぇ、認めるんだ?珍しいな」





「……何一つ覚えてないくせに」



溜息ともつかぬ小さく聞こえた声に

含まれた意味が果たして何を思っての

言葉だったか、その時の俺が

もし分かっていたなら、きっと――





「で、だから何?」



「何って……え?」



もっと別のリアクションがあると

期待していたセキにとってこんな

簡単に流されるとは予想外だった。



「君と過去に会っていたから

どうだというんだ」



「いや別にその……まぁ」



言い淀むセキをイゼルは

瞬きもせずに見ていた。



「悪いが、少し外に出る」



「イ、イゼル?待って」



「追ってくるな。

今は多分森に入っても君を守れそうにない」



「やっぱり君が?」



以前、ノーチェが平気で森に入ってる事を

驚いていたが、やはりイゼルが絡んで

いたのか。




「死にたくなければ

今日森に入らないことだ」



そう言い残して、

雨具も着けずイゼルは飛び出したっきり

日が落ちても戻ってはこなかった。












深夜になってノーチェが慌ただしく

家のドアを開けて入って来た。


「ノーチェ!!

どこに行ってたんだ?心配したんだぞ」



「ボクだってよく分からないよ~、

目が覚めたら何故か湖の傍で寝てたんだって」



びしょ濡れでクシャミが止まらないノーチェを

暖炉のそばで着替えさせ、温かい飲み物を

差し出すと、ゴクゴクと喉を鳴らして

一気に飲み込んだ。



(体温が上がってきたな……)



さっきまでガタガタ震えていたのが

大分おさまってきたようだと

セキは安堵の溜息をついた。



「あ、でもでも聞いて!

起きた時ね、真上の木にビューィジが

いたんだ、あんな近くまで来てくれたの

初めてで嬉しかった」


とシーツに包まって無邪気に

はしゃいでいるノーチェを見て

その光景が浮かぶ。



「そうか、良かったな」



きっとイゼルを案じてあの鳥は

その場を離れなかったんだろう。




「うん!!」




「……無事で良かった」



セキはノーチェを抱きしめた。
















「君のことが知りたい」





イゼルを目の前にしてセキはそう切り出した。





「くだらない」



「か、どうかは俺が決める。


昨夜から君のことばかり考えて眠れなかった。

どうしても言えないことは

省いて構わないから教えて欲しい、頼む」



イゼルはまた窓の外を見て

暫く考え込んでいるようだった。



数十分くらい経った頃だろうか

セキの決心が変わらないと悟って

漸くその重い口を開いた。



「僕はこの世界担当の管理官“狭間の番人”だ。


そして本来与えられた名はイゼーチェル。

“イゼル”は君が響きがいいからと付けた名だ」



「俺が?」


イゼルは頷いた。



「もう一人の僕が言ったと思うが、

何故あの森には毒を持った生物が

沢山いるのか疑問に思ったことはないか?



この場所は境界、所謂狭間の世界。

異物、不正に越境してきたモノを

狩る場でもあるんだ。


雨が降ってもすぐに止む。


それはソレを森が処理したという証」




「処理……」




「その中でもビューィジは特別種。


この時空森の主だ。

あの時空獣に認められて漸く一人前の

“狭間の管理官”となれる。


夜にいるアレは

前にも言ったとおり僕の過去」



何故二人いるのかという点については

イゼルは触れなかった。



「見掛けは僕でも中身はまだ何の能力も

持ち合わせていない抜け殻のような

もう一人の僕に違和感を感じて近寄りもしない。


それが時空森の護り主たる所以。



あの頃の僕は管理官として着任した

名ばかりの番人だった。


自己回復はおろか薬草の知識も

森の制御も出来ず、護り主との

接触もままならない何もかもが

半端な使えない子供だった。


アレが職業を言えなかったのは

隠してたというより、そんな自分を恥じて

口に出来なかったかったのだろう」




森に潜む生物が異世界から紛れ込んだ者を

抹殺しているということか。



しかも雨がそんな役割を担っているなら

自分がいる限り止むわけがない。




だとしたら、



「何故俺は無事だったんだ?」



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