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答えたくない

この後に及んで未だ隠そうとする態度に

何一つ信用されていないのだと

言われた気がして苛立つ。



「何故嘘をついた?

最初に言ってくれれば良かったんだ。

なのに君はあたかも兄がいるように

振舞っていた、それは何故だ?」



が、イゼルは依然として無言を貫く。



「イゼル!目を逸らすな、答えろ。

言う機会は何度もあったはずだ、何故だ!?」



セキは思わず立ち上がっていた。



「ノーチェの姿の君は

……俺をからかっていたのか?」



自身普段直情的な人間ではないとの

自負があった筈なのに。


それが今はどうだ?……と、

気付いているが歯止めが効かない。




それだけ

心配していたのに、


本気で君達のことを。



それでも!?


という気持ちが先走るからだ。





「では聞くが、最初からアレと僕が

同一人物だと言ったら信じたのか?」


だが感情的になる自分とは裏腹に

イゼルの声は静かでいつにも増して

落ち着き払ったものに思えた。



「それは……」



「僕がここを異世界だと言った時の

自分の反応をよもや忘れた訳ではないだろ?


それを受け止めるのに精一杯だった君に、

更に僕が二人存在すると告白する

利点は何処にある?


言えばセキ、きっと君はこう思ったろう。


“この子供はおかしい、危険だ”とね。


……反論してくれて構わない、出来るならな」




「―――ッ」




そこを突かれては流石のセキも

言い返しようがなく言葉に詰まる。



「見た目で僕を子供だと判断した君が

そんな話に耳を貸すとは思えなかった。

今だって……半信半疑にも至ってないんだろ」



「……ちが」



その見透した言い方が癪で、



「にしても、自分相手に手紙とか、

随分手の込んだことするんだな。

ご丁寧に怯えた演技までして」



そう言い返すと、



「……怯えていたというなら

功を奏したようだ。


アレは僕の事を知らない、

誰から来たのか分からなくて怖いんだろう。


あの中身は君が感じた通り子供で

僕が演技しているわけでもなんでもない」



そんな事を言い出した。


言い逃れでもするつもりかと

セキはさらに追求に出た。



「知らないって……変だろ、

そんな理由通じるとでも思うのか?」




「事実だ。

器は本来の僕だろうが中身が別物。

記憶すら共有していないから、

ああするしか伝える手段が無かった」



「え?」



頭が混乱する。


意味が分からない、

二人の君が……何だって?




「信じられないというなら話は

ここで終わりだ、セキ」




「い、いや、ちゃんと信じてる」



例の観察眼で自分の思考を

読み取られてるのだと悟って

慌てて否定した。


そう答えるしか今は選択肢が無い。



実際は全く合点がいかないが、

ここで否定しなかれば再びイゼルは

口を閉ざしてしまうだろう。


それに、なりよりこの時点で少なくとも

イゼルが自分に嘘をいうメリットが

セキには思い付かなかっただけなのだが。





「なぁ……中身が違うって、

イゼル、君なんだよ……な?

でも君はノーチェの存在を知っているのに

ノーチェが君を知らないのはおかしくないか?」



「知らないのも無理はない、

過去の存在が未来を知る術はないからな。

所詮、子供の記憶だ」



「子供の記憶?

もっと分かるように言ってくれ」



「アレは僕の過去」



「は?過去?」



「そう何も知らない頃の僕だ」



「そんな事――」



要するに中身が入れ替わってると

言いたいのか?


過去と今の自分が???



有り得ない。



でも、もしそうだとしたら

時々ノーチェの事を探るような質問を

してきた説明はつくが……で、でも。



「当然、同じ空間に同時には存在し得ない」



イゼルはセキの動揺をよそに

淡々と話を続ける。




「セキが入れ替わりを目にしないのは

僕が“アレ”へと変化する時

僅かだが時空に歪みが生じる、

常人ではその変化の煽りを食らい

耐え切れなくて気を失うからだ」



……だから、

離れた森の中にいる時には

気を失わずにいれた?




まだだ、まだ疑問は尽きない。



「夜の“君”はイゼルとは名乗らなかった。


それに……さっきから

気になってるんだけど君は頑なに

彼を“ノーチェ”と呼ばないな。

まるで避けてるみたいだ」



気のせいかもしれないが

思えば最初その名を口にした時、

僅かに彼が驚いた様にも見えた。



「答えられない」



「はぁ!?」



また、そこに戻るのか!?


ブチッとセキの中で何かがキレた。




「いい加減に言えよ、どうして隠す?

そもそも君は何者で此処で何をしてる?」



「答えられない」



「何故二人の君が存在する?」



「答えられない」



「じゃ、あの手紙の内容の意味は何だ?」



「答えられない」



「何故、彼はイゼルでは無く

ノーチェと名乗った?」



「分からないっっ!!!」




それは初めてイゼルから

発せられた感情的な言葉で外れた声を

耳にした初めての瞬間でもあった。




「…………」




「………………ハァ」





セキは後ろの椅子にドカリと

身体を落とした。



「俺が……そんなに信用できないか?」



もうここまで来ると

怒りというより落胆に近い。



「なぁ……この雨も何か関係してる?

どうして降り止まない?

イゼル、君は知ってるんだろう?」



「答えたく、ない。

その先は今の君にはまだ。


……仮に知ったところで君には

どうすることも出来ない」





絞り出すように俯いた彼に

それ以上何を求める事が出来たろう。



今更言い訳じみているが、イゼルが

何処までも平然と自分を受け流すと

思っていた……こんな風に追い詰める

つもりはなかった。



セキは下を向いたままの彼の頭に手を乗せ、



「……もういい、分かった。

じゃいずれは教えてくれるって事で

引き下がるよ、悪かった」




イゼルの枷になっているものが

分からない以上、



―――待つしかないのか。


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