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お茶をどうぞ



「否定、しないのかい」



少しからかい気味に言ったセキの言葉を

イゼルは視線を外すことなく見ていた。




「―――イゼル、どうした?」




普段とは違う彼の様子に戸惑う。




「何も」




随分時間が経ってやっと一言

それだけ言うとまた黙ってしまった。



「…………」



“何も”って顔じゃないだろ

さっき一瞬泣いているように見えた。






朝食の後、いつもの様に

森に行かない俺にイゼルが声を掛けてきた。



「今日は出掛けないのか?」



「ああ、今日はお休み。

たまにはのんびりしょうと思ってさ」




「ふーん……」




実の所、様子がおかしいイゼルを残して

出かける気分にはなれなかった。



雨の降る音の中、たまにパチッと暖炉の

薪がはじける音が聞こえるくらいの

静かな空間で時間を共有しあうのも

たまには悪くない。



イゼルは薬草を調合をしているとかで

薬研ぽいのをゴリゴリと時折動かしている。



一方セキは、唯一持ってきていた本を片手に

ソファに寝転がって読んでいる体で

これまであった様々な出来事を

頭の中で整理していた。



この世界での事、イゼル達の事

見えそうで見えない何か。



見逃していることはないかだろうか?







朝、昼、夕、夜。


時間は経過し変化も訪れる。




でも、何かがおかしい。



最初から何もかもが。



まるで自然の摂理を無視したかのような

降りやまない雨。




この世界で会った

兄弟と称する二人の人物。


一人は兄と言い、片方は弟はいないと言う。


この食い違いは何を意味しているんだろう?



どちらかが嘘ついている。

若しくは両方ともが……の可能性だって。



イゼルの話では兄に会わないように

してるっぽい言い方だったけど。



そもそも毎回不思議に思っていたが

あの兄弟はどういうタイミングで

部屋の行き来をしているのだろうか?



彼らはいったい何者なんだ?


他の住人は何故いない?






(あ…………また)



本を読んでると思っているだろうイゼルは

その手を止め、時々自分の方を見ている

視線にセキは結構前から気付いていた。


こちらがページを捲ると我に返ったように

作業に戻っている、そんな事が何回か。


だからといって何か用事がある風でもなく

ただ見られているという感覚。




「イゼル、何か話したいことでも?」



何度目かの時、本を避けて聞くと

イゼルは慌てて視線を逸した。


どうやら見えなかったふりを

決め込んだらしい。



(いま目が合ったくせに)




見なければ答えられないと

言わんばかりに

分かり易い態度に出るイゼル。



俺が気付いてないとでも思ってる?






イゼル―――



君の存在は特に異質だ。





彼の立ち振る舞いは

子供のそれをまるで感じさせない。


自分も何時の間にか子供相手の

話し方をやめてしまった。




兄のノーチェは綺麗で可愛くて

素直で純真で……



でも、どうしてだろうね、


どちらかというと

いま君の方が気になるんだよ。





「セキ、お茶飲むか?」



「ありがとう」



向かい合って飲む仕草が

優雅で様になっている。



本当に不思議な子供だ。




「君は幾つなんだ?」



イゼルは途端、呆れた様に溜息をついた。



「……君はよくよく人の話を

聞いていないようだな。


世界が違うと言わなかったか?」



「聞いたよ、もう何度もね」



今更それを否定しようとも

思わないくらいに。



「では、余程思考が浅いとみえる。

時間の概念が違うとは考えもしないのか?

自分の世界の時間軸にどう当てはめる気だ?」



「あ……」



「意味がない質問だとは思わないか?

それでも聞きたいなら言わなくもないが」



「君こそ。俺が本当に知りたい事に

抵触しそうになるとはぐらかすくせに

それ以外の事には素直に応じるよな」



「何のことかサッパリ分からない」



「フリだろ。

何を隠してる?言えよ、全部」



「質問の意図が分かり兼ねる」



そういって意味ありげに俺を見るだけ。




「…………っ」




この少年は頭が切れる、

俺が何を問いかけても

易々とは口を割らないだろう。



だが兄の方は素直な分、隙がある。

そこから探るしか突破口はなさそうだ。


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