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銀の鳥

ホラと手渡された包みに

靴紐を結び直していたセキは顔を上げた。



「何?コレ」



「昼食。

どうせ今日も行くんだろう?」



見落としはないか、新たな発見が

あるかもしれないと昼間、セキは

森に出ては日が落ちるまで手掛かりを

探すのが日課になっていた。


没頭するあまり昼食を摂らない事も

しばしばだったがそれをイゼルに

特別話したことはなかったのだが。




「……ありがとう」



だが、その感謝の言葉は

イゼルの背中へと消えてしまった。


無愛想で滅多なことでは表情を

動かさない少年にとってセキの返事は

別に必要ないようで渡すとすぐ

家の中に戻って行こうとする。




「イゼル」



咄嗟に手を掴むと、少年は微かに

驚いてセキの顔を見返した。



「ありがとう。助かるよ、イゼル。

ねぇ、もし良かったら君も一緒に行かないか?

気分転換にもなるし」



「きぶん……何?」



「気分転換、要は一緒に外に出よう

っていうお誘いだよ」



イゼルはセキの言葉を

自分の口の中で言い直し、ややあって

意味を理解したようだった。




「別に、行っても良いけど」



相変わらずのローテンションだが

すんなり承諾してくるとは思わなかった

だけにセキはいつになく嬉しくなった。



二人こうして外を歩くのは

初めてだから新鮮で普段あんなに

雨具を煩わしいと感じるのが

嘘のように足取りも軽く感じる。



(気分は遠足の付き添いの父兄だな)




「この植物は何ていう名前?」



「知らない」



「この虫は?」



「さぁ」



何年住んでるの?

君は興味とかそういうの湧かないの?


それとも面倒臭くって答えないだけ?



「……じゃ、あそこの鳥の名前も

知らないんだよね」



どうせ、分からないと言うんだろと

意地悪で聞いてみた。



「ピュィージ」



「って種類の鳥?」



「違う、名だ」



「へぇ……友達かい?」



イゼルがそっちに向かって手を差し伸べると

鳥は真っ直ぐに彼の元に飛んできて

頭の上にちょこんと立った。



(……可愛い)



鳥単体でというより上に乗られている

状態のイゼル込みで。




「綺麗な声で鳴くんだね」



「……うん、そうだったな」




寂しそうな言い方は

かつて聞こえていた頃の音色を

思い出しているのかもしれない。


人の言葉は読唇出来ても

動物は流石に出来ないからな……




「しかし不思議な色だな」


遠目にはくすんだ白に見えていたけど

体幹は銀色で羽先が紫、目の色が金色。



手を伸ばしかけてイゼルに止められた。



「危ない、手を出――」



だが、それは遅くて、



「ッ!」



噛まれそうになったセキを

庇ってイゼルの左の小指がクチバシに

飲み込まれていた。



「イゼル!!!」



急いで鳥を払いのけるとバサバサと羽音を

立てて、真上の木へと飛び上がった。



「大丈夫か?血が出てる」



「問題無い」



そう言ってイゼルは顔を上げた。



「ピュィージ、大丈夫だから、

心配しなくて良い。

脅かして済まなかった」



鳥はイゼルに応えるように

数度短く鳴くと家の方角に

飛んでいってしまった。



「あの鳥何回か鳴いていたよ」



「何度?短く?長く?」



「短く、四回」



「……良かった」




取り敢えず応急手当を施したものの

イゼルの傷を心配して戻ろうかと

提案したのだが、頑なに彼が大した事ない

といってきかないのでとうとう説得を諦めた。




それから暫く奥へと進み

自分が倒れていた場所辺に

到着するといつもの様に探索を始めた。


昨日無かったものが今日簡単に見つかるとは

思えないが、それでも何かしなければ

帰路は完全に絶たれてしまう。






「そんなに―――のか?」






何時も一人でしか来た事がなかったから

搜索に没頭するあまり後ろのいる

イゼルの存在をすっかり忘れていたセキは

その声に一瞬驚く。



「え?何?」



雨まじりにイゼルが何か言ったように思えて

振り向いたが、少し離れた彼の視線は

セキの方とは真逆の湖の方に向けられていた。



(……聞き違いか?)




暫く俺の探索を見ていたイゼルは

暇を持て余したのか単に飽きたのか、



「先に戻る」




と、告げてそそくさと

家へと戻っていってしまった。











帰ってくる頃には何時の間にか

日がとっぷり暮れていて

この時間だとイゼルではなく

代わりに兄のノーチェがドアの傍で

俺の帰りを待っている……筈だった。



そう、いつもなら―――



セキの姿を確認すると満面の笑みで

これでもかってくらいに手を

振っているのが見えてて。



……何かもう尻尾とかあったら

グルングルン回ってそうな勢いだなと

セキは笑いそうになったのは

一回や二回ではない。



(あの可愛さは例えようがないよな……

弟にその半分でも分けて上げて欲しいよ)




アレ?いない?


どうしたんだろう?




家の明かりが消えている。

こんな事は初めてだった。



「ノーチェ?いないの?」



心もとない暖炉の明かりを頼りに

キッチン兼居間を見渡すも

その影は見当たらない。


寝室は更に真っ暗で

明かりを灯すとそこには――




「ノーチェ!?」



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