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対比する二人


意を決して入った家の中にいたのは、



「セキ~~~~~っ!!」



飛びつかんばかりの勢いで

迎えてくれたノーチェだった。



「あ……」




そうか夜は――


という事は、今あの子は

もう一つの家の方に?




「……ただいま」



「わぁ、もういなくなったのかと

思ちゃったよ~」



「何処にも行かないよ」



いや、正しくは“行けない”のだが。



「本当?嬉しい!!」



心の底から嬉しそうに

喜ぶ姿をみて今日の疲れが

吹っ飛んだ気がした。



「あのイゼ……あ、いや」




“兄には僕のことは触れないで”




そうだった。


ここにいる以上最低限の約束は守ろう、

それがせめてもの礼儀だ。


兎に角、嫌味を言われずに

済んだことは有難い、としておこうか。



「いい匂いだね」



キノコっぽい見たこともない野菜が

沢山煮込まれているポトフらしきものは

強烈に食欲を刺激してきた。



「うん!いま温めるね。

一緒にご飯食べよう」




「美味い」



「わーい、もっと沢山食べて」



次々にテーブルに運んで来る

料理は見慣れない食材なのに

その腕を自慢するだけのことはあって

何を食べても本当に美味い。



ふと視線を感じるとノーチェが

ジッと俺の方を見ていた。


だが、その眼差しは弟とは違って

柔らかく微笑んでいる。



「何?ノーチェ」



「ボクの作ったものを美味しそうに

食べてくれてるの見てるの嬉しい」


「他にもいるだろ?そんな人」



途端、キョトンとした顔でノーチェの

動きが止まった。



「セキが初めてだよ」



「は?他に近所の人とか、家……」



家族とかの言葉を慌てて咬み殺す。



「ううん、ボクはずっと一人だから、

こうやって誰かと食べるの

セキが初めてなんだ。


一緒に食べるのって楽しいし

美味しいんだね」



セキはその極上の微笑みに

飲み込まれそうになった。




(う……わ、可愛い過ぎる)



男だと分かっていても

この顔には弱い。


本当に綺麗で、その上性格も可愛く

終始笑いを絶やさない一緒にいるだけで

癒し系のノーチェの言動に

心からほっこりする。



自分より少し若い歳だろうけど

表情が屈託なくて……

あの辛辣な弟とはえらい違いだと

ついつい比べてしまう。




だが、もしも……



もしも、これが記憶障害の

一端がそうせるものかもしれないと

考えると手放しに笑っていて良いものか

判断しづらいものがあるのだが。




夕食後一緒に食器を片付けて

夜遅くまで森の事やこの家の話をした。



しかし、彼の話は思った以上に

あやふやな点が多く、

その大半が要領を得ない。


色々情報を得てイゼルの話の

矛盾を探ろうとしたが、どうも

無駄に終わりそうだとセキは溜息をつく。


どうやら両親がいないらしい

という事だけは弟の話と合致しているようだ。



それ以外は、もしかすると彼自身

自分の置かれた状況というのが

実はよく解ってないんじゃないか?

という節がある。



というのも度々、



「よく分からないけど

そういう決まりなんだ」



と、何とも妙な言い方をするのが

セキは気になった。





「ノーチェは家と森以外は

何処かに出掛けたりしないの?」



もし行くとすれば

帰る活路が見出されるはずと

身を乗り出してはみたものの……



「うん、行かない」



「何で?退屈しない?」



「だって決まりだから」




やはり、またそれか。




「一体誰が決めたの?」



「分かんなーい」



と笑う。




一日の大半をこの家で過ごし

夜の散歩には出掛けたりするというノーチェ。



彼は一体どうやって

生計を立てているのだろうか?




所が、



「仕事?うん、やってるよ~」



「え?」



意外と言っては失礼だが

それには正直驚いた。



「何……してるの?」



「えへへ」



それまで聞けば何でも

取り敢えず答えてくれてた彼だったが

どういう理由かその話題に限って

ニコニコと笑い明言を避けられてしまった。












翌朝。




「それで?気は済んだか?」




「……今日こそは絶対見つけるよ」




テーブルには朝ご飯が用意されていて

食べれば?と促されてのこの流れ。



「見付かりはしないのに。

まぁ、お好きにどうぞ」



と、イゼルは薄らと笑った。



その笑い顔の冷淡な事といったら……

思わず後ろを向いて、


「君のお兄さんはすっごく

優しくてあんなに可愛いのになぁ」



こうも雰囲気が真逆だとこんな風に

大人気ない悪態を付きたくなっても

仕方ないだろとセキは自分を言いくるめた。




そうさ、


探索を諦めたわけじゃない。

来れたんだから出口は必ず

在るはずなんだ。




にしても―――



「端末さえ生きていれば色々

位置や情報が得られるのに

何で機能してないんだろう。

電波?いや地場がおかしいのか?」




「それ以前の問題だ」



セキの独り言にイゼルは

冷ややかな反応を示す。



「君らのいた次元が異なる世界に

そもそもその機械の企業や通信すら

存在していないのだから、

起動する事はあっても本来の役目を

果たせるわけもない」



「でもコレ最新式なんだけど。

繋がらない場所とか地上でなんて

有り得ない代物だから」



「……君は余程往生際が悪いのか、

或いは単に理解力に欠けているのか

いずれかだろうな。


何度でも言うが、

此処は“君のいた世界とは違う”」




呆れた様に言われて

セキもまた同じように言い返した。



「……あくまで此処は別空間と

言い切るんだね、イゼル」



「真実だからな」




「――の割にはよく知ってるね、

俺の世界の言葉も用語も。


異世界なんだろ?ココ。


なら、どうして君がそんな事知ってるの?」





「…………」





その問いに初めてイゼルは目を逸した。




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