オーパーツ
随分不可思議な言い方をするものだと
セキは首を捻ったが、
どうせ子供特有の言い回しだろうと
聞き流すことに決めた。
だが、彼はそうさせてくれない。
「君の存在はこの世界でのオーパーツ。
時空の狭間に迷い込んだ異世界人の
君が目の前の結界の森どころかこの世界から
抜け出れることなど出来はしない」
「なっ……!?」
「以前、髪の色の事を聞いたな?
これはまがい物ではない真の色。
加えて言うとこの目の色もな」
碧の髪、金色の眼が?
「有り得ない」
そうだろ?
と差し向けても、
冗談だとは笑わない少年。
「君のいた世界ではな」
「待て、何……言ってるんだ?
イゼル?」
言ってることが無茶苦茶で既に
セキの理解の範疇を遥かに凌駕している。
これが通常の状況ならまだこの手の
お遊びに付き合うのもやぶさかではないと
思える余裕もあったろう。
「では聞くが、何故君は森を出れない?
湖から離れようとして歩いたつもりで
暫くするとまた目の前に僕の家が
見えてくる筈だ。
その説明を君は出来るのか?」
「―――――っ」
……そうなのだ。
どうやっても森から抜けれない
現状がある上、ここに住んでいる彼が
何かしら知っている望みは捨てきれない。
今の話の中にヒントらしきものは
あったか?などと考えている自分に
ハッとした。
(い、いや、落ち着け。
迷うとこじゃないだろ、惑わされてどうする。
こんなの全部がおかしいんだ)
大体、異世界とか言われて易々と
受け入れられる人間などいるものか。
ましてやそう言ってるのは
年端もいかない子供だぞ。
考えるまでもなくそう思うのに
セキはどうしてもイゼルの表情から
嘘を言っているように見えない眼差しに
迷いを感じていた。
嘘だとして、その理由はなんだ?
もしかして単に寂しいから
遊び相手として引き止める為に?
精々考えられるのはその程度。
「俺、友人達と合流して一旦
家に帰ったら改めて遊びに来るよ」
だからそんな無理な設定作らなくても……
「だから帰れないと言っている」
「………………」
自分の言葉を読唇しながら
ゆっくり……ゆっくりと話す彼に
ここにきて随分印象が変わった。
最初は不遇の状況下にいる
庇護すべき可哀相な子供。
―――果たしてそうだろうか?
不自然な程の落ち着いた態度、
そして最も特出すべきはその喋り方。
この話が子供のような
言い方で飛び出すなら
それこそ乗ってあげれたのだろうが
異様に大人びたソレが邪魔をする。
何時の間にか子供と話している気が
しなくなってくるから不思議だ。
恐らく賢い子だと思う。
虚言癖だとしても
わざわざ分かり易い嘘を付くとは考え難い。
単に同情を得ようとしているのなら
そもそもこういう物言いを選ばない筈だ。
もっと別の何かがある気がしてならない。
何か頭の隅で不明確な
思考が湧きかけては消える感覚。
(何だろう……)
それが分からないから
余計モヤモヤする。
小さく溜息をした。
相手は子供。
どんなに口が達者でも
所詮は子供、いいか?子供なんだ。
セキは心の中で何度も
この言葉を繰り返しながら少年へ問う。
「ね……聞いても良い?
ご両親はどうしていないの?」
「そんなものは最初から存在しない」
「イゼル……」
「言った筈だ。
此処は君いた世界ではないと。
従って君のいう常識など通用しない」
「イゼル!」
真顔でそんな事を
からかうにも程ってものがあるだろ?
「兄弟だっているし、おかしいよ」
「受け入れがたいのなら
食事の後にでも、もう一度
外に出てこの森から脱出を試みてはどうだ」
「ああ、そのつもりだ」
「懲りないな」
無言で食事を終え
出ていこうとする背中越しに、
「無駄なことを――」
と、少年の声が聞こえた。
「………………」
そうやって辺りはとっぷり闇に包まれた時刻、
セキは再びこの家の玄関の前に立っていた。
数時間後再び戻ってくる羽目に
なるとか予想できるわけないから
さっき啖呵を切って出て行った手前
なかなか入りづらいものがある。
いっそ野宿でもして一晩だけでも
やり過ごそうかとも考えたが
それは手元にある程度の野営の
下準備があった上での事。
生態系の不確かな場所での
野宿は生命の危機だってある。
そうまでして意地を張るだけ
虚しいことだと考え直しおめおめと
この家へと舞い戻ってきてしまった。
少し悔しいがこればかりは
どうしようもない。
でも、だからといって少年の言い分を
認めたわけではなく不測の事態だから
しょうがないと、この道のりで
何度自分に言い訳したかしれない。
「はぁぁぁぁ」
大きく深呼吸をした。
さて…………それはそれとして、
どうやってこの扉を開けたものか。




