ギャップ
まともに見れないくらいなのに
そのくせ目を奪われて仕方がないとか、
どうかしてるとしか言い様がない。
それでも彼の動きを目で追ってるうちに
不意に振り向かれてしまって
視線がバッチリ合ってしまった。
慌てて目を背けると
彼は小首をかしげて俺に近づいてきた。
「なになに?ボクどこか変?」
「いえ、全然!」
寧ろ、その逆だ。
綺麗だから……見れない。
本当に物凄く。
こんな経験は多分初めてだ。
ここ最近巷で流行りのセクサロイドでも
これ程完成されたボディも顔も
到底及びはしないなと不謹慎な
賞賛を彼に対して思ってしまった。
「何処から来たの?」
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてますよ」
心臓に悪いからあまり近づかないで欲しい。
(参ったな)
相手は男だぞ、とセキは
自分に強く言い聞かせつつも
どうしてもドキドキしてしまう。
昨今、同性婚など珍しくはないのだが
セキ自身そういった嗜好は全くない。
今までそうであったように
これからもその筈だとの認識は
変わらない。
ただ……
如何せん理性と感情は往々にして
反目するから始末に悪い。
(冷静になれ、この人は男だ)
それよりも、もっと大事な事があるだろ!
この人がもしかしたら俺を
助けてくれた人かもしれない。
きちんと礼だけはしておかなければと
半ば意識を強引にすり替えたセキは、
「助けて頂いて有難うございました」
邪な考えを払拭するように
努めて明るく礼を口にした。
所が、青年は訳が分からないと
いった風に頭を二、三回ゆっくり振る。
「え?そうなの?
まぁ、細かいことはどうでもいいからさ、
それよりお腹空かない?
ボクお腹ペコペコなんだ。
そろそろ起きるかなってご飯作ったし
一緒に食べよう、ね?早く!」
「え?わっっ!」
返事をする前にセキの腕を取り
グイグイとテーブルへと連れて行く。
「えへ。美味しそうでしょう?
ボク料理得意なんだ」
「は、はぁ」
確かに色々な料理が並んでいて
美味しそうだ。
しかし、さっきから思ってはいたけど。
何だろう……
気さくにというか見た目は雰囲気のある
美青年なのだがこれほどまでに
その外見を裏切るかと思わずには
いられない言動。
――このギャップは小さくない。
「アレ?えっと……あの子は?」
テーブルには二人分の食事しか
用意されていないようだけど、
そういえばさっきから姿が見えないし、
もう寝たとか?
「あの子って?」
「あ……」
そういえば名前聞きそびれてしまった。
「多分、君の弟さんだと思うけど、
さっきまで此処にいた子」
「ん~~~?弟?」
彼はまた不思議そうに首を傾げる。
って――まさか子供とか言わないよな。
「だってボク、
此処に一人で住んでるんだけど」
「は?いや、さっきまで
確かにいましたよ」
それも家族だとハッキリいえるほど
そっくりな感じの子が、と
セキは力説したのだが。
「夢の話なの?ソレ。面白いね」
そう一言で片付けられてしまった。
「じゃ、ご飯食べよう!
いっただきマ~~~ス」
ニコニコと微笑む表情に
嘘や誤魔化しが微塵も感じられない。
――夢?あれが?
「………………」
いや、違う。
セキは自分の親指に視線を向けた。
あの子の口元を触った感覚が
まだ指先に残っている。
そして―――
そこには小さな粒子が僅かに残って
光を宿したソレがキラキラと輝いていた。




