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噂の池

昼と夜。



それは秘密だと君は言う。








ちゃんと覚えてるよ。




この雨は決して降り止むことはないと

言ったのは―――君だった事を。





本当だって。





忘れないと誓ったあの日のことも。





――全部……全部、ね。





だから、信じて。




















その日はずっと楽しみにしていた山登り。

足元にはまだ見渡す限りの草原が

広がっていて夏ほどの匂い立つ香りは

なくともサワサワと揺れる姿は美しい。



天候は晴れ、多少の雲はあるけど

初秋の風が吹くこの心地よさと言ったら、



「ん―――――ッ」




大きな伸びをしてその空気を

肺一杯に吸い込むだけで日頃の

モヤモヤが吹っ飛ぶから不思議だ。




よく晴れた日の山登りほど

楽しいものは無い。


とは言っても雨期でもない限り

滅多に雨など降らないのだが、

そう思えるほどの快晴はセキの心を

浮き立たせるには充分だった。



最近色々立て続けに起こった事で

落ち込んでいたセキを励まそうと

気の置けない友人らと数ヶ月前から

予定していた登山は彼の唯一の

趣味でありそれを知っている

友人達が企画したものだった。



「セキ、途中珍しい池があるらしいぞ」



後ろを振り向きながら

知ってるか?と聞いてきたコウは

十年来の友人でこうやって山登りを

はじめ、釣りアウトドアと

よく連れ立って出掛けたものだ。




「珍しい?」



「そうなの。

あのね、普段はエメラルド色らしい

だけど湧水特有の溜池みたいに

碧くそれていてどこまでも透明な

池に変わるんだって」



まるでパンフレットを丸暗記したかのような

細かい説明に、ふーんと答えたものの、




「……それ本当か?」



同調するように

トウコが得意げに情報を披露するが

どうも胡散臭くて仕方がない。


まだ七色に見えると言ったほうが

光の屈折加減だろと突っ込めるのだが

澱んだ池が透明に?



「しかも!オマケがあってね、

幽霊も出るらしいの」



「…………へぇ」



いよいよ話が怪しくなってきた。



満面の笑みで話すトウコは

セミロングの茶髪、

大らかでサバサバした性格から

男女問わず友人が多くコウとは

付き合って今年で確か二年目に

なるといってた気がする。


その普段の彼女からは想像できないが

大のオカルト好きで、これまで

それらの類に付き合わされたのは

とてもじゃないが両手の指では

足りないくらいだ。



変色の池に幽霊とは……



成程、今日彼女が此処を

一押ししていた理由が漸く分かった。




「噂よ、伝説みたいなもので。

実際の写真があるわけじゃないし」



ああ、やっぱりそういうことか

どうりで眉唾っぽい訳だ。


大方、観光の話題として

ここらの町らで作り上げた

田舎らしい発想だとセキは思った。



「まぁまぁ落ち着いて。

今日のメインがすり替わってるよ?」



「コウ、もっとしっかり言えよ、

あくまで今日の主役はセキだって。


俺ら幽霊が目的じゃなくて

登山だからな、登山!」


メンバー残りの一人、キリトが

口を挟んだことで

トウコはバツ悪そうに口を尖らせた。



「……分かってるわよぉ」




「良いって良いって、

そんなに気を使うなよ。

皆がそれぞれ楽しめた方が俺も

楽しめるし、な?」



セキがそう言った途端、だよね?

と、彼女がこっちを見て舌を出す。



登る時間を競うでもなし

特別目標がある訳でもない今回、

こうやって仲間達と雑談混じりでの

山登り自体が楽しく、

参加しただけでもセキにとって

充分な気分転換となっていた。



自分は良い友人に恵まれていると

心の中で感謝すると共に……













「ふ~~休憩しようか」




三時間掛けて山の中腹辺りに

辿りついた頃、いつしか周りは

鬱蒼とした木々に覆われた森のように

変化し、多少の疲れも手伝ってか

誰ともなく言い出した休みの案に

異議を唱える者などいなかった。




「そうだな」



「ね、此処からだと例の池が

すぐそこまでだからそこで休もう」



「ハイハイ」



トウコの笑顔に引きづられ

一行はもう少しだけと正規ルートから

外れ池へと続く脇道に入って行った。



「獣道じゃん、うわっ、スッゲー藪っ」


「おかしいわねぇ、情報だと

小路は一本あるけどちゃんとした

道だって書いてあったけど」



「そもそもその情報が……」



怪しすぎるだろ。


とセキは心の内で思いながらもその後を追う。





皆の背を追うのに必死で、

気が付かなかった。




「あ、もしかしてアレか?」





ソレがあまりに小さかったから、

見落としてしまったのか。






「おおっ!噂の池だ!」





――或いは、必然だったのか。







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