死神と少女
「愛理!?愛理!!」
遠くで、あたしを呼ぶお母さんの声がする。
気のせいかな…?
真実を確かめるためあたしはゆっくりと瞼をあげた。
少し茶色がかった黒い双眸は途端白い世界を映す。
「ここは…」
起き上がろうと腕に力を込めた。
が、どういうわけか起き上がれない。
「…っ」
それだけじゃなく 、頭や身体全体に痛みが走った。
何かに引き裂かれたような、鋭い痛み。
「…っ!」
声にならない声が口から出る。
一体あたしの体はどうなってしまったんだろうか。
いつもとは違う自分の体に違和感を覚え、恐怖に震えた。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ!!
とてつもない恐怖感があたしを襲う。
あたし、どうなっちゃうの…!?
唯一自由のきく瞳でもう一度辺りを見回した。
両脇にあるのは、赤い薔薇。
正面にあるのは白い空間。
そして微かに感じる浮遊感。
…分からない。
ここはどこで、なんでここにいるのか。
…分からない。
思い出そうとしても、頭痛が走って思い出せない。
まるで思い出させたくないように…
「おや、目が醒めたみたいだ」
「え…?」
ふいに男の人の声がし、そちらへ視線だけ向けると、ガラス玉のように綺麗な赤色の瞳と目があった。
…綺麗。
素直に、そう思った。
赤い瞳だけじゃなく、それを引き立てている白い肌、小さい顔。
高い鼻に凛々しい眉。
髪は混じりけが一切ない漆黒。
あまりにも美しすぎて、目が離せなかった。
なにか術にかかったみたいに、彼から目が離せない。
男はそんな少女を愛しそうに目を細めて見ると、少女の頬に手を添えた。
「汝、名はなんという 」
「…愛理」
「そうか。愛理か。いい名だ」
「・・・ありがとう」
近くで見ると、更に綺麗だ。
「貴方の名前は…?」
愛理がそう問うと、男はクスリと笑った。
「我が名はルシス。
―君の魂を戴きにきた」
「え?」
今、なんて言った??
たまし、い…?
「嘘でしょ…?」
「嘘じゃない。―ほら」
そう言って男は手のひらから大きな大きな鎌を出した。
「まぁこれは飾りだけどな」
すぐにその鎌は消え、笑顔のルシスが愛理の瞳を射抜く。
「君は居眠り運転のトラックに退かれ、瀕死の状態に陥っている」
今がそうだ、とルシスは言った。
そのルシスの言葉に愛理の疑問は消えた。
「じゃあ、私は死んだのね…」
「まだ、だ。さっきも言っただろう?君は瀕死の状態だって」
「・・・・」
「君に選択の時間をあげる。我に魂を捧げるか、あちらの世界に戻るか」
ー初めからわかっていた。
ルシスが現れた瞬間から、ずっと。
一目で彼に心を奪われた事も、彼が欲しいと願った事も。
利用されるだけでもいい。
どんな形であろうとも、彼の傍にいられるのならそれでいい。
その為なら、元いた世界になんて戻れなくていい。
(もう、何も考えられないの)
「…決まったようだね」
ルシスは怪しく笑った。
だがそれさえも妖艶に見え、愛理は心の中で苦笑した。
(あたしってば・・・重症ね)
「で?愛理はどうしたい?」
ルシスの赤い瞳と、愛理の黒い瞳が交わる。
愛理は小さく息を吐くと、
「ワタシは…貴方にこの魂を捧げる」
先程まで動かなかった右腕が自然と彼を引き寄せ、その唇に自分の唇を押し付けた。
ルシスの目が、大きく見開く。
しかしやがてルシスも目を閉じ、ゆっくりと愛理の唇の感触を確かめるように長い長い口付けを交わした。
「一目君をみた時から僕の心は君に奪われてたよ」
ルシスが愛理の耳元でそう甘く囁いた。
「ふふ…両想いね」
My mind is regrettable of you ..the missed.., seems to go mad, seems to go mad, andI want to love you still.
鎖で繋いだ
逃げられない様に
早く僕のモノにしたくて
誰にも見せない
誰にも教えにない
愛しい愛しい君
今日も俺だけを魅て
そして俺の為だけに鳴いて
死神と少女 エンド