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猫神様も恋をする

猫神様も恋をする 中編

作者: 響沙月
掲載日:2011/03/25


 ―5―


 こうして、神と人間の不思議な共同生活が始まった。

和海が提唱したいくつかの約束事さえ守ってくれれば、猫神は自由に行動出来た。

 例えば、和海以外の人間がいる時は、猫の姿になること。

和海がいない時は、部屋で大人しくしていることなど。

 ダメ元で提案した猫神にとって、その程度の約束事など大した負担にはなっていなかった。

「…ふむ。人間とは意外と楽しいものじゃの」

 今猫神は、和海に与えられた「げーむ」というものをプレイしているところだ。

大きな箱に繋がれた小さな箱。

それの電源を入れると、不思議なことに大きな箱に絵が映し出される。

そして小さな箱に繋がれた「こんとろーらー」というもので操作すると、絵が動き出すのだ。

「しかし中々難しいな…この『まりも』とやらは」

 『スーパーマリモシスターズ』通称マリモは、信殿堂が作る世界的に有名なロングセラーゲームソフトである。

年々新作が発表され、未だ人気の衰えない名作だ。

 …まぁ、猫神にその魅力がわかるかといえば、それは疑問だが。


「ただいまー。大人しくしてたか?凛」

「もちろんじゃ!和海、今日は何かお土産、ないのか?」

 凛、と呼ばれた猫神は、嬉しそうに帰ってきた和海に駆け寄る。

『凛』とは、和海が猫神にとりあえず与えた名前だった。

名前がないと何かと不便だから、だとか。

猫神的にもその響きは気に入っていたし、和海にそう呼ばれるのも嫌いじゃない。

「あはは。今日は凛が気に入りそうなモノは、特に買ってきてないかな…ごめん」

 無邪気に駆け寄ってくる猫神に苦笑いを浮かべながら、和海はその柔らかな髪を撫でる。

気持ち良さそうに目を細めるその姿は、猫そのものだ。

思わず神様であることを忘れそうになってしまう。

「和海、まりもとやらは面白いな!妾には少し難しいが」

「あ、早速プレイしたんだ?マリモは段々難しくなるからね…後で一緒にやろうか」

「本当か?!和海、約束じゃぞっ」

 数日ですっかり打ち解けた二人は、そう言って楽しそうに笑い合う。

種族、存在すら違う二人は、けれどいつしか互いを必要とし始めていた。


 ―6―


 時は流れ、雪が解け幾ばくか春の訪れを感じ始めたある日。

冬休みも残り僅かとなった和海はその日、大学近くのアパートへ帰る準備をしていた。

「…?和海、何処かへ行くのか?」

 それをしばらく黙って見ていた猫神は、不思議そうにそう尋ねた。

「あぁ、言ってなかったっけ?僕、休みの間少し里帰りしてただけだから、帰る仕度してるんだよ」

「…そうか…」

 和海の返答に、猫神は表情を曇らせる。

楽しい時間は、あっという間に過ぎ去ってしまった。

 また(・・)、一人になってしまうんだろうか?

(…―?)

 ふと頭を過ったそれに、猫神はきょとん、と首を傾げた。

そんな記憶はないはずなのに、何故か猫神はまた(・・)と自然と考えてしまった。

「―どうした、凛?」

「…何でもないのじゃ。それより、早く終わらせてまりもやろうぞ!」

 ふいに浮かんだそれを掻き消すように、猫神はぶんぶんと首を左右に振って和海に甘えた。

「…凛…?」

 いつもと違う猫神の様子に、和海は何とも言えない胸騒ぎを覚えた。



 ―7―


 明くる日。

「ただいまー。…あれ?」

 いつもなら和海が帰ってきたらすぐに駆け寄ってくる猫神が、見当たらなかった。

「凛…?珍しいな、出掛けてるのか…?」

 部屋にいないなんて、今までなかったのに。

和海はキョロキョロと室内を見渡すが、彼女の姿はどこにもない。

 ざわり、と、妙な胸騒ぎが和海を襲う。

「凛、凛っ…?!」

 思わず近所迷惑も気にせずに、猫神を呼び探し回る。しかし、どこを探しても猫神の姿は、ない。

 ―まるで、最初から存在していなかったかのように。

「…そんな…」

 ぺたん、と地べたに両膝を付く。

唐突に現れて、唐突に消える。

 なんて、なんて身勝手なんだろう?

「…せっかく、今日はお土産買って来てやったのに…!」

 バカ野郎。

そう呟いた和海の瞳から大粒の雫が1つ、2つと落ちて、雪解けでぬかるんだ地面を更に濡らしていった。


「すまんのじゃ、和海…」

 トボトボと家への道のりを歩く和海の姿を、猫神は悲しげな瞳で見つめていた。その横に静かに佇む影が、猫神を無言で促す。

それに頷くと、猫神は影と共にすぅっと空へと消えていった。

 後に残ったのは、まだ冷たさの残る春風だけだった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 7のあたり。凛が消えるあたりをもう少し書き込んだ方がいいと思います。 具体的には、主人公の凛が消えた事に関する心情の変化、この場合はおそらく喪失感を強く演出しないと、後々のシーンで読…
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