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猫神様も恋をする

猫神様も恋をする 中編

作者: 響沙月


 ―5―


 こうして、神と人間の不思議な共同生活が始まった。

和海が提唱したいくつかの約束事さえ守ってくれれば、猫神は自由に行動出来た。

 例えば、和海以外の人間がいる時は、猫の姿になること。

和海がいない時は、部屋で大人しくしていることなど。

 ダメ元で提案した猫神にとって、その程度の約束事など大した負担にはなっていなかった。

「…ふむ。人間とは意外と楽しいものじゃの」

 今猫神は、和海に与えられた「げーむ」というものをプレイしているところだ。

大きな箱に繋がれた小さな箱。

それの電源を入れると、不思議なことに大きな箱に絵が映し出される。

そして小さな箱に繋がれた「こんとろーらー」というもので操作すると、絵が動き出すのだ。

「しかし中々難しいな…この『まりも』とやらは」

 『スーパーマリモシスターズ』通称マリモは、信殿堂が作る世界的に有名なロングセラーゲームソフトである。

年々新作が発表され、未だ人気の衰えない名作だ。

 …まぁ、猫神にその魅力がわかるかといえば、それは疑問だが。


「ただいまー。大人しくしてたか?凛」

「もちろんじゃ!和海、今日は何かお土産、ないのか?」

 凛、と呼ばれた猫神は、嬉しそうに帰ってきた和海に駆け寄る。

『凛』とは、和海が猫神にとりあえず与えた名前だった。

名前がないと何かと不便だから、だとか。

猫神的にもその響きは気に入っていたし、和海にそう呼ばれるのも嫌いじゃない。

「あはは。今日は凛が気に入りそうなモノは、特に買ってきてないかな…ごめん」

 無邪気に駆け寄ってくる猫神に苦笑いを浮かべながら、和海はその柔らかな髪を撫でる。

気持ち良さそうに目を細めるその姿は、猫そのものだ。

思わず神様であることを忘れそうになってしまう。

「和海、まりもとやらは面白いな!妾には少し難しいが」

「あ、早速プレイしたんだ?マリモは段々難しくなるからね…後で一緒にやろうか」

「本当か?!和海、約束じゃぞっ」

 数日ですっかり打ち解けた二人は、そう言って楽しそうに笑い合う。

種族、存在すら違う二人は、けれどいつしか互いを必要とし始めていた。


 ―6―


 時は流れ、雪が解け幾ばくか春の訪れを感じ始めたある日。

冬休みも残り僅かとなった和海はその日、大学近くのアパートへ帰る準備をしていた。

「…?和海、何処かへ行くのか?」

 それをしばらく黙って見ていた猫神は、不思議そうにそう尋ねた。

「あぁ、言ってなかったっけ?僕、休みの間少し里帰りしてただけだから、帰る仕度してるんだよ」

「…そうか…」

 和海の返答に、猫神は表情を曇らせる。

楽しい時間は、あっという間に過ぎ去ってしまった。

 また(・・)、一人になってしまうんだろうか?

(…―?)

 ふと頭を過ったそれに、猫神はきょとん、と首を傾げた。

そんな記憶はないはずなのに、何故か猫神はまた(・・)と自然と考えてしまった。

「―どうした、凛?」

「…何でもないのじゃ。それより、早く終わらせてまりもやろうぞ!」

 ふいに浮かんだそれを掻き消すように、猫神はぶんぶんと首を左右に振って和海に甘えた。

「…凛…?」

 いつもと違う猫神の様子に、和海は何とも言えない胸騒ぎを覚えた。



 ―7―


 明くる日。

「ただいまー。…あれ?」

 いつもなら和海が帰ってきたらすぐに駆け寄ってくる猫神が、見当たらなかった。

「凛…?珍しいな、出掛けてるのか…?」

 部屋にいないなんて、今までなかったのに。

和海はキョロキョロと室内を見渡すが、彼女の姿はどこにもない。

 ざわり、と、妙な胸騒ぎが和海を襲う。

「凛、凛っ…?!」

 思わず近所迷惑も気にせずに、猫神を呼び探し回る。しかし、どこを探しても猫神の姿は、ない。

 ―まるで、最初から存在していなかったかのように。

「…そんな…」

 ぺたん、と地べたに両膝を付く。

唐突に現れて、唐突に消える。

 なんて、なんて身勝手なんだろう?

「…せっかく、今日はお土産買って来てやったのに…!」

 バカ野郎。

そう呟いた和海の瞳から大粒の雫が1つ、2つと落ちて、雪解けでぬかるんだ地面を更に濡らしていった。


「すまんのじゃ、和海…」

 トボトボと家への道のりを歩く和海の姿を、猫神は悲しげな瞳で見つめていた。その横に静かに佇む影が、猫神を無言で促す。

それに頷くと、猫神は影と共にすぅっと空へと消えていった。

 後に残ったのは、まだ冷たさの残る春風だけだった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 7のあたり。凛が消えるあたりをもう少し書き込んだ方がいいと思います。 具体的には、主人公の凛が消えた事に関する心情の変化、この場合はおそらく喪失感を強く演出しないと、後々のシーンで読…
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