<EP_017> 就任会見
「おかえりなさい、GM」
「間に合ったようだな」
山梨からクラブハウスに戻ると京子がホッとした様子を見せた。
平瀬の監督就任の会見の日だったからだ。
「で?沢田は加入してくれそうか?」
「わかりません」
会見場に入る前に平瀬が尋ねてくるが、迫水の答えに盛大にズッコけた。
「おいおい、それじゃ困るんだよ」
「やる気の無い人間を引っ張ってくるほど、金はありませんよ」
「たく、使えねぇGMだな……」
平瀬のボヤキとともに会見場への扉が開かれ、二人は会見場へと入っていった。
平瀬が入ってくると、大量のフラッシュが焚かれる。
高校サッカーの問題児がJFLに入ってくるというニュースは世間の注目度が違っていた。
「高校サッカー界は制覇したからよ、今度はJリーグを制覇してやろうと思ったんだよ」
不敵な笑みを浮かべながら、意気揚々と喋る平瀬に会場内には失笑にも似たざわめきが走った。
平瀬の就任挨拶が終わり、質疑応答に移る。
「高校サッカーとJFLではカテゴリーが違うと思いますが、そこはどうお考えでしょう」
「カテゴリーが違う?はっ、やってることは同じサッカーだ。同じように勝つだけだ」
記者の質問に平瀬はいつものように答えていく。
「では、勝利のために手段は選ばないと?」
「あん?たりめーだ。勝利以外に何があるっていうんだよ。あのな、おたくらはオレのサッカーを汚いだのなんだの言うけどよ、オレはルールを守ってサッカーしてるんだぜ。オレに文句を言うなら、ルールを決めてるほうに言えってんだ、このスットコドッコイ!」
平瀬の喧嘩腰にも取れる態度に記者たちの顔が強張るのを見て、額の汗を拭うふりをして、迫水は頭を抱えた。
「平瀬監督の就任は以前から決まっていたのでしょうか?」
別の記者からの質問が飛んだ。
「いえ、決まっておりませんでした。先日、前監督の安達監督が退任された直後に平瀬監督の退任の報を見たため、急遽、お願いして引き受けていただきました」
余計な詮索を産まないように迫水は言葉を選んで話していく。
「平瀬監督を招聘した理由をお聞かせください」
同じ記者から続けざまに質問が飛ぶ。
「もちろん、勝つためです。勝たなければ上位リーグへの昇格はありません。そのために平瀬監督にお願いしました」
「では、今年でのJ3への昇格を狙うということでしょうか」
「もちろんです。歴史ある日本紡績サッカー部を母体としている以上、JFLのままではいられませんので」
記者の質問に、内心、自分の言葉が上滑りしているのを感じつつ、迫水は答えていった。
「ジャガーズには今季終了後に売却との噂がありますが、そこはどうお考えでしょう」
さすが、新聞記者である。どこからか漏れたのだろう。迫水にとって聞かれたくない質問が飛んできた。
記者の質問に平瀬や司会役を務めていた京子、会見場の後ろで見守っていたスタッフ全員が目を丸くして迫水を見た。
「そのような噂は存じておりません。また、本日は平瀬監督の就任会見でございます。噂の段階での質問には返答を控えさせていただきます」
心中では苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、迫水は平静を崩さずに答えた。
「では、皆様、平瀬監督の元、生まれ変わったジャガーズの活躍にご期待してくださいますよう、重ねてお願いいたします」
迫水は立ち上がり、頭を下げると強引に会見を打ち切った。
出る際に記者たちが追いかけてきたが、何も言わずに会見場を後にした。




