<EP_001> 土埃と乾いた音
【俺たちは0円じゃない 穴だらけのスーツと石ころだらけの練習場】
<登場人物>
迫水真司
主人公。49歳男性。ジャガーズ早島GM。
平瀬隆造
ジャガーズ早島監督。55歳男性。
迫水の先輩。
沢田亮介
ミッドフィルダー。25歳男性。
窪田敏充
フォワード。38歳男性。
元日本代表。
青木
ディフェンダー。30歳男性。
ジャガーズ早島のキャプテン。
真野京子
ジャガーズ早島運営スタッフ。25歳女性。広報担当。
「戻ってきちまったな」
一月の仕事始め。土埃の舞う練習場を眺めて迫水は呟いた。
視線の先にはジャージに身を包んだ選手たちが自主練習に励んでいる。
緩慢な動きから蹴り出されるボールの乾いた音が土の練習場に響いていた。
声も出さず、土の上を転がるボールに近づいて蹴り返しては足を止める。
選手の間には冬の乾いた空気が漂っていた。
「おらっ!チンタラやってんじゃねぇ!そんなんで昇格できると思ってるのか!」
空気を怒声が切り裂く。声の主はやる気の見えない動きに唾を飛ばす勢いで檄を飛ばしていた。
男の顔を見て、迫水は選手名鑑を思い浮かべる。
「あれはキャプテンの青木か……」
そう独りごちて、プレハブ造りのクラブハウスへと入っていった。
クラブハウスの中では数人の運営スタッフが机に向かっていた。
エアコンを切っている室内は寒く、全員がベンチコートやブルゾンを羽織り、かじかんだ手で仕事をしていた。パソコンの打鍵音と、スタッフたちの手をこすり合わせる音が、冷たく静かな事務所に響いていた。
「おはようございます。迫水さんですよね?」
入ってきた迫水を若い女性スタッフが見つけて声をかけてくる。
彼女は小走りに迫水の元へと寄ってくる。その目には、新任GMに興味津々といった色がありありと浮かんでいた。
「おはよう」
「お待ちしておりました」
名札を見ると真野京子と書かれている。
迫水が短く答えると、京子は「ちょっと待っていてください。みんなに紹介します」と言って外へと駆け出していった。
「キャプテーン!新GMがいらっしゃいましたー」
クラブハウス内にも聞こえるほどの京子の大声とともに、男たちの足音が近づいてくるのがわかる。
「どうぞGM」
ドアが開けられ、京子が手招きをした。
迫水が外に出ると、事務所にいたスタッフも続いて外に出る。
長身の選手たちが並んでいた。青木以外は練習の後だというのに呼吸一つ乱さず、汗もかいていない。
選手の脇にスタッフも並び、相対するような形になる。
「こちらが、今年からGMに就任された迫水真司さんです」
京子が紹介すると、パラパラと、形ばかりの拍手が起こった。
「GM、ここで訓示を一つ」
急に振られて何も考えていなかった迫水は、数秒の沈黙の後、「今年一年、怪我なく頑張りましょう」と無難なことを言った。
訓示が終わると、青木が一歩前に出る。彼は周りと違って、顔を真っ赤に紅潮させ、全身から湯気を立てていた。
「迫水新GMに勝利を!そして、今年こそJ3昇格だ!」
拳を突き上げ、青木が高らかに宣言する。
京子も青木に続いて拳を力強く突き上げるが、それ以外の面々はただ義務的に拳を持ち上げるだけだった。




