俺の好きな会社の先輩はちょっとだけ?壊滅的に?料理が出来ない?らしい
会社の先輩とは、たまに自分が困ると相談に乗ってもらうために仕事帰りにスナバで話をすることが多かった。
今日もほぼ愚痴同然の相談事にのってもらっていた。
「今日も遅くまですいません。お腹が空いちゃいましたよね」
仕事が終わってから、スナバで2時間も喋ってしまっていた。
「帰ってごはん作るから、気にしなくて大丈夫だよ」
「先輩の作るごはん気になります」
先輩は仕事も出来るし、料理も上手いんだろうなぁ
「えっと、食べくる?」
予想外の角度から、先輩にお呼ばれしてしまった。行かない選択肢とかないんですけど?
「え?いいんですか?」
「会社の近くにマンションあるから、ここから近いよ?」
俺が聞いたのは、俺みたいな人間が先輩の家に上がってもいいのか?という疑問なのだが、先輩はマンションまでの距離はさほど遠くないという情報をくれた。
たぶん1時間歩くことになっても余裕で行きますけどね?
「そうなんですね!ギリギリまで寝れていいですね」
「え?」
なんだか先輩が妙な空気を向けるので、1回自分が言ったことを振り返った。
「(そんなに変なこと言ったか?出社ギリギリまで眠れる…」
えーと、もしかして、俺が今日泊まるとか思われた?!いいや、そんなわけ…
「え、いや、違いますよ?すぐ帰りますケドねっ」
「そうだよね(帰っちゃうんだぁ」
心なしか先輩が悲しそうに見えるのは何でなんだ?わからん。
「好きな食べ物とかある?」
先輩から、今日のメニューを聞かれて戸惑う。冷蔵庫にない物を提案してしまっても困らせそう。
「俺は特に好き嫌いとかないんで、冷蔵庫の余り物でもなんでも…ていうか、先輩が料理作ってる姿だけ見れたら幸せなんでっ」
「なにそれっ」
よく分からないけれど1笑いを稼いでしまった。入社した時から面倒を見てもらっているが、他愛もない事で笑顔を向けられると、社内で仲が良い方なのではないかと勘違いしてしまいそうになる。
「それじゃー行こっか」
と、席を立った先輩の後ろ姿が頼もしかったのは、ここまでの話なのである。
「少しだけ待っててね」
先輩のマンションまでたどり着くと、先輩は先に部屋に入って、一度片付けがしたいと言うので、扉の外で待つことにした。
「(突然来てしまってよかったんだろうか」
よくわからないけれど、何かを持って廊下を歩くドッドッドッという足音だけが、外まで響いている。
2、3分待たされて、中から先輩が扉を開いた。
「どうぞ」
玄関も廊下もとても綺麗そうだ。
「(なにをそんなに片付けたかったんだ?」
先輩は、すでにエプロンを付けてやる気満々だった。
リビングに通され、俺は席に座った。
「なにか手伝いましょうか?」
「大丈夫!大丈夫!」
さっそく先輩が料理に取りかかったようだ。自分がキッチンに立ったところで邪魔かもしれないな、と思い椅子に座ったまま待っていたのだが…大丈夫!と言ったところから、30分経過した頃……
「なんか、焦げ臭くないですか?先輩?!ケムリでてますよ?!」
「わ、わーーー!!」
スマホを見るのを止めて先輩の方をみると、気づくとキッチンから煙が上がっていた。
「火事ですか??!」
「ちょっと、焦げちゃっただけだよっ」
先輩が隠したフライパンには、真っ黒い塊がいた。
「先輩…?」
換気扇回さないと部屋に煙が…
「いつもは失敗しないんだけどね!おかしいなぁ」
それは、何が作りたかったんですか?とか聞いたら泣かせてしまうだろうか。
「た、卵焼きの甘いやつ作りたくて…」
「あ…あぁ、砂糖入ってる時って妙に焦げ付きますよね…ははは」
たぶん俺はソレ出されても食べますけど、先輩は食べれるんだろうか…
「もし、よければ手伝いますよ。冷蔵庫の中とか見ても大丈夫ですか?」
「え、あ、うー、あー」
見られたくはないんですね(苦笑
「えーと、じゃー冷凍のごはんとかいたりしますか?」
「うん。2人分あると思うよ?」
「卵もまだ残ってます?」
「あと2つ…」
…卵焼きに何個分の卵が死んだんだ?
「それじゃー冷凍ごはんをレンジで温めて置いてください。下のコンビニで材料少し買ってきます」
「え、あの」
「火事起こさない程度に待っててくださいね?」
会社の先輩を子供扱いしすぎてしまっただろうか…。
コンビニへ行こうとした俺を先輩が服の端を引っ張って振り向かせた。
「帰ってくる、よね?」
「はい。必ず帰ります。貴女の元へ」
…俺は、コンビニへ行ってそのまま死ぬのか?そういうフラグか?
先輩のマンションの扉を開ける。とくに雨も降っていない。先輩の家のマンションの階段を降りる。なんならコンビニは、マンションの1階だ。
俺は、スライスハムと鶏ガラスープの元を買ってマンションへ帰ってきた。
キッチンへ戻ると、先ほどの卵焼きを捨てようとする後ろ姿に出くわした。
「なにを、しようとしてます?」
俺は、先輩の手を掴んで、その背中越しに質問する。
「え、断面見てみたら、中まですごく黒くて食べられないかなって」
「それは、俺が食べるんで、捨てなくて大丈夫です」
「でも…」
先輩の持っているお皿を取り上げて、キッチンに戻す。
「ごはんは温めてありますか?」
「あ、ここに」
「ありがとうございます」
まな板と包丁を借りて、いま買ってきたハムを細かくする。(てきとう)
…フライパンが焦げ付きてることを忘れていた。
「卵を2つ割って、といておいてもらってもいいですか?」
フライパンを軽くすすいで、とりあえず油を引いた、油が温まってからハムをパラパラといれる、そこへご飯を投入した。
目の前にある塩とコショウを少しふる。
「わ、わー」
「はい。ココに卵を入れてください」
と、先輩の前にフライパンを差しだす。
「え、入れるの?」
「どこからでもいいのでザーっと、どうぞ」
「ザー」
卵のカラが入っていそうな事は、とがめないほうがきっといいだろう。
ご飯と卵を混ぜたら醤油を少し周りから入れたらチャーハンが完成した。
「先輩、ポットのお湯借りてもいいですか?」
そこへカップにコンソメスープを入れてお湯を入れる。
「簡単なチャーハンとスープですが、どうぞ」
「手際いいんだねっ」
先輩の目がキラキラとしている。
「デザートにプリンかヨーグルト買ってきましたが、どちらがいいですか?」
さらに、先輩の目がキラキラとしている。
会社では、あんなに頼れるお姉さんなのに、キッチンの前に立つと全然ダメなギャップに、こっちの心臓が持ちそうにありませんよ。
「おいしぃ!!お婿さんにほしい!」
「俺は主夫になるんですかね」
「こんなご飯毎日食べたいもんっ」
あまりにも先輩のセリフがプロポーズする男子すぎる。
「大学時代に一人暮らしだったんで、自炊の成果ですね」
「私も大学時代、自炊してたよ?」
よくご存命で…………。
「塩とコショウの分量が分からないときは、スープの元とか入れても美味しいですよ」
俺は、真っ黒い卵焼きを口にする。
バキバキ、ジャリジャリ、ごくん。と、おおよそ食事にしては、変な効果音とともに。
「先輩のおうちは甘い卵焼きだったんですか?」
「ううん。甘くないやつ。なんか、男の子って甘い卵焼き…好きでしょ?」
「ほぼ卵焼きブリュレみたいな感じでしたけどね。新感覚で流行りそうですね」
チャーハンを口に運びながら、先輩が微笑む。
「君って優しいんだね」
「俺が優しいのは先輩にだけですけどね」
俺の言葉が聞こえなかったのか、先輩にスルーされる。いま、けっこう良いこと言いましたよ?俺。
「もう、帰っちゃうんだよね?」
「勝手にキッチンを使ってしまったので、洗い物まではさせてください。先輩は、食後のプリンでもヨーグルトでも食べていてください。」
俺は2人分の食器を両手に持つと流しへ向かった。
使ったフライパンやまな板、包丁など、使ったものを洗っていく。
先輩がデザートを食べ終わる頃には、全てが終わってしまった。
「それでは、お邪魔しました」
「えーもう帰っちゃうのー?(冷蔵庫にお酒でも入れておけばよかった」
「また、明日も会社で会うじゃないですか」
「そうだけど」
ささっと玄関まで行く俺を先輩が見送ってくれた。
「また、ご飯作りに来てくれたら嬉しいかも」
「簡単なものしか作れませんよ?」
俺の中での簡単は、先輩の中での極上に分類されていそうだけど。
俺からしても卵焼きブリュレは、生涯忘れられない味で間違いない。
〈おしまい〉




