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ワガママ王女、死に戻って全人類から愛されます!~今度の死因は絶対、老衰ですわ!~  作者: 八星 こはく


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第6話 退屈そうな騎士

「お綺麗です、姫様……!」


 誕生日パーティーのために身支度を整えたイレーヌを見て、デボラがうっとりとした声を漏らした。

 特注のドレスでないとはいえ、今日のために用意したドレスはかなり華やかな物である。


 イレーヌは、桃色の髪と水色の瞳を持つ美少女だ。どんな色のドレスでも似合うが、彼女の美しさを最も際立たせる色は純白である。

 それを熟知している母によって、今回は真っ白なドレスが選ばれた。


 袖や裾には繊細なフリルとレースが縫いつけられ、ところどころに宝石が散りばめられている。

 宝石といっても、当初予定していたような高価な物ではない。

 それに、ところどころ、偽物の宝石も混ざっている。


 でもまあ、物の値段って、遠目から見たら意外と分からないものね。


 鏡に映る自分を見ながら、イレーヌはそんなことを考えた。

 宝石の質やドレスの生地の質は、もちろん近くで詳しい人間が見れば分かる。しかし、遠目にはその差は分からない。


 それにわたくしは、どんなドレスだってとっても可愛いもの!


 予知夢でも、美貌だけが取り柄、と散々悪口を言われていた。裏を返せば、イレーヌの美貌には誰も文句を言えないということだ。


 当たり前だが、美貌は武器になる。しかし同時に、反感を買う可能性もある。


 今日のパーティー、慎重に動く必要があるわね。





 会場に入ると、大歓声がイレーヌを包んだ。当たり前だわ、と内心思いつつ、穏やかな微笑みを保って広間の中心へ向かう。

 病弱な父は、今日のパーティーも欠席だ。そのためパーティーの主催者は王妃のアゼリーである。


「イレーヌ!」


 駆け寄ってきたアゼリーは、真っ赤なドレスに身を包んでいる。これほど派手な色が似合う者は、この会場の中でもそうはいないだろう。


 このドレスは、アゼリーのお気に入りのドレスだ。

 だから、娘の晴れ舞台である今日、アゼリーはこのドレスを着てきた。


 前ならあり得ないことだわ。お母様が、一度着たドレスでパーティーに出席するなんて。


 アゼリーは基本的に、パーティーのたびに新しいドレスを仕立てる。気に入った物は後日着用することもあるけれど、一度着ただけで捨ててしまうドレスも少なくない。

 気に入った物ですら、パーティーには二度と着ないのだ。


 そんなアゼリーが、今回は新しいドレスを作らず、その分の金を寄付に回した。イレーヌに倣って、と彼女が笑顔で言えば、他の貴族も見習わないわけにはいかない。

 結果として、貴族の間で寄付が大流行した。


 この件で、だいぶ平民からの印象はよくなったはずよ。


「みんな、貴女を待っていたわ。もう準備はできているの」

「ありがとうございます、お母様」


 パーティーの経験はないけれど、リアル過ぎる予知夢で何度も経験している。

 今さら緊張なんてしないが、わざと緊張しているふりをして、震える手でグラスに手を伸ばした。


「皆様、本日はわたくしのためにお集まりいただき、ありがとうございますわ」


 腹から声を出して挨拶し、できる限り多くの参列者と目を合わせる。

 もちろん、目が合うたびに笑うことも忘れない。


「それでは、乾杯!」


 そう言った瞬間、イレーヌは壁際に立つ一人の青年に気づいた。

 日に焼けた鍛えられた身体には、パーティー用の正装は窮屈そうだ。邪魔なのか、長い黒髪はいつも通り後ろで一つにまとめられている。


 オリヴィエじゃない!


 駆け寄って肩を叩きたくなる衝動を抑え、イレーヌと乾杯したくて近寄ってきた一人ひとりとグラスを重ねる。

 しかしイレーヌの頭の中は、オリヴィエのことでいっぱいだった。


 オリヴィエはこないでしょうね。

 パーティーなんて面倒だから、今すぐ帰りたい、とでも思ってるはずだわ。


 オリヴィエは伯爵家の次男だ。長男以外の貴族は、文官や武官として働くか、婿養子として他家の娘と結婚する。

 オリヴィエは騎士になる道を選び、王家直属の騎士団に入団した。


 そして、真面目さと家柄のよさが評価され、王女付きの騎士という名誉を賜ったのである。


 まあ、オリヴィエはちっとも望んでいなかったんでしょうけど。


 おそらくオリヴィエは、実戦から縁遠い王女付きの騎士になどなりたくなかったのだ。

 それでも彼は仕事だからと、最期までイレーヌのことを守ってくれた。


 いつも仏頂面で、愛想よく笑ったことなんて一度もないし、わたくしの美貌を前にしても平然としていたのに。


 せっかくだし、落ち着いたら話しかけてみようかしら?





 って、ぜんっぜん、落ち着かないじゃない……!


 イレーヌと話をしたい貴族たちの行列がやっと終わったかと思えば、次はダンスに誘いたい令息たちに囲まれてしまった。

 しかも、その中には婚約者がいる令息もいる。


 ああもう、そういうの、本当にやめてくれないかしら!?

 婚約者らしき令嬢たちが泣きそうな顔してるじゃないの!


 前のイレーヌなら、得意げな顔で婚約者持ちの男とダンスを踊ってやっただろう。

 婚約者に勝ち誇った笑みを向け、美貌を誇示していたに違いない。


 わたくしって、本当に阿呆だったのね……。


「イレーヌ殿下。私と踊ってくれませんか」

「いえ、私と!」

「いいえ、私と踊ってください!」


 必死な顔で手を差し出してくる令息たちを観察する。

 全員がそれなりの家の息子だが、もちろん、王女であるイレーヌと釣り合うレベルではない。


 婚約者のいない者全員と踊る、というのは無理だ。時間がない。

 かといって、選びたい男もいない。


 だってここにいる全員、都合が悪くなったら、わたくしを裏切って敵国についた連中ですもの!


 ふとオリヴィエのことを思い出し、イレーヌは必死に彼の姿を探した。

 相変わらず壁際に一人でたたずみ、退屈そうにグラスを傾けている。


 ……決めたわ。


「ごめんなさい、皆様。わたくし、もう踊る方は決まっていますの」


 イレーヌの言葉に、令息たちだけでなく、広間にいる全員が驚いた。

 当たり前だ。イレーヌにはまだ婚約者がおらず、ぜひうちの息子を! と気合が入っている者ばかりなのだから。


 そういう貴族同士の争いに巻き込まれるのもまっぴらよ。わたくしに得がないんだもの。


 驚いて何も言えなくなってしまった令息たちを放置し、イレーヌは真っ直ぐにオリヴィエの前へ向かった。

 そして、笑顔で手を差し出す。


「ねえ、貴方。わたくしと踊ってくれない?」

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