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ワガママ王女、死に戻って全人類から愛されます!~今度の死因は絶対、老衰ですわ!~  作者: 八星 こはく


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第41話 老衰する時

「殿下」


 アゼリーの部屋を出ると、廊下でオリヴィエが待機してくれていた。


「王妃様はなんと?」

「わたくしが事前相談をしなかったことを不満に思っていたようだわ」


 いつも通りに話そうとしても、目が合うだけでつい照れてしまう。先程は興奮していたせいで意識していなかったが、考えてみればずいぶんと大胆な告白をしたものだ。


 でもオリヴィエも、わたくしのことが好きなのよね。


「……殿下はあまりにも、突然すぎます」


 溜息を吐くと、オリヴィエは柔らかく笑った。


「本当に殿下は、目が離せない人ですね」


 呆れたような優しい声に心臓が飛び跳ねる。これからはもうオリヴィエにときめいたことを隠さなくてよくなるのだと思うと、ずいぶんと気が楽になった。


「目が離せないなら、一生傍で見ていればいいんだわ」

「とっくに、その覚悟はできていますよ」


 微笑んだオリヴィエが、そっとイレーヌの手を握る。初めてのことじゃない。今まで何度も、こうやってエスコートしてもらった。

 けれど、婚約者としてこの手を握るのは初めてだ。


「殿下に相応しい男になれるよう、頑張ります」

「……お母様にはもう言ったわ。二人で力を合わせて、国民のために頑張るって」


 これから先、きっとイレーヌには想像もできないようなことがたくさん起こるのだろう。それでもオリヴィエがいれば、なんとかなる気がする。


 だってオリヴィエは、絶対にわたくしを裏切らずに、ずっと傍にいてくれるんだもの。





 オリヴィエにエスコートされてパーティー会場へ足を踏み入れると、会場が歓声に包まれた。

 もちろん、その中には野次も含まれているのだが。


「イレーヌ様の美しい姿を見ていると、決闘に負けてしまったことがより悔しくなってしまいますね」


 真っ先に声をかけてきたのはフェデリコだ。派手過ぎる服に身を包んだ彼は令嬢からの熱い視線を集めている。


「できれば一曲お願いしたいところですが、やめておきます。そちらの過保護な騎士殿に睨まれてしまいますから」


 ははっ、と明るく笑うと、フェデリコは手に持っていたシャンパンを一気に飲んだ。優美な見た目とは裏腹に、この男は酒にも強いらしい。


「それにしても、ティーグル王国はいいところですね。優れた騎士を育成する土壌があり、貧しくても優秀であれば奨学金をもらって学ぶこともできる。さすがは歴史ある大国です」


 急にティーグル王国のことを褒め始めたかと思うと、フェデリコはにっこりと笑った。


「真剣に留学を検討していますよ」


 冗談なのか本気なのか区別がつかない。第二王子であるフェデリコが他国へ留学するというのは、おかしな話ではないのだ。


 でも、ずっとこの男がここにいるなんてまっぴらだわ。

 今回の短い滞在でさえ、この男のせいでいろいろと苦労したんだもの。


「それは光栄ですわ」


 当たり前のように嘘を口にして微笑む。フェデリコは頭を下げ、令嬢たちのもとへ去っていった。

 すぐに、誰がフェデリコとダンスをするのか、という争いが始まる。本人も満更でもない態度をとっているのだから、本当にいい加減な男だ。


「殿下。一曲、踊っていただけませんか」


 オリヴィエに誘われ、もちろんイレーヌはすぐに頷いた。


「もちろんよ! 一曲どころか、全曲踊るわ」

「……殿下は本当に可愛らしい御方ですね」

「えっ!? 今なんて!?」


 可愛い、って言ったわよね? オリヴィエがわたくしのことを、可愛いって!


「もう一回言ってくれないかしら? わたくし聞こえなかったみたいなの」

「……殿下が可愛いと、そう言ったんですよ」


 オリヴィエの頬が赤く染まっている。もっと! と欲張りたいけれど、さすがにそれはワガママ過ぎるかもしれない。


 手を取り合って、音楽に身をゆだねる。相変わらず少しぎこちないオリヴィエのダンスが愛おしい。


「……ねえ、オリヴィエ」


 踊りながら、オリヴィエに話しかける。踊っている最中はかなり距離が近くなるから、小声での会話が可能なのだ。


「絶対、長生きしてね」

「……どうしたのです、急に?」

「ずっと言おうと思ってたの」


 オリヴィエが死ぬところなんて見たくない。かといって、イレーヌも早死にするつもりはない。


 わたくしが老衰する時、オリヴィエには一番泣いてもらわなきゃ!


「わかりました。殿下のご命令、謹んでお受けいたします」

「可愛い婚約者のおねだりと受け取ってもらっても構わないのだけれど?」


 からかうように言ってみれば、分かりました、と大真面目に頷かれてしまった。





 パーティーが終わり、イレーヌが自室でまどろんでいると、セシリアが部屋にやってきた。

 イレーヌを見て、おめでとうございます、と頭を下げる。


「殿下がオリヴィエ殿を好きだとはずっと分かっていました」

「……そんなにバレバレだったかしら?」

「はい。とても」


 恥ずかしいが、それと同時に妙に心地よくもある。自分を理解してくれる友人がいるというのは幸せなことだ。


「これに目を通してくれませんか。パーティーの間、必死に考えていたんです」


 セシリアから紙の束を渡される。全ての紙にびっしりと文字が書かれていた。

 一枚目に大きな文字でタイトルが書いてある。


『イレーヌ殿下のご婚約の宣伝方法案』


「……宣伝?」

「はい。どうすればお二人の婚約が好意的に受け取られるのか、いろいろと考えてみました」


 ざっと確認すると、本当に多様な案が記載されていた。

 小説家を雇ってイレーヌとオリヴィエの恋物語を書かせるだとか、オリヴィエの強さを宣伝するための剣術大会を開催するとか。

 平民に向けたものから上級貴族に向けたものまで、様々なものがある。


「これ、パーティーの間に全部考えたの!?」

「はい」


 セシリアはあっさりと頷いたが、驚くべき仕事量だ。意見を出すだけでもかなり大変だっただろうに、企画書としてきちんとまとまっているのだから。


 やっぱりセシリアって、優秀過ぎるわね……。


「私、殿下の宣言を聞いてすごくわくわくしました」

「……わくわく?」

「はい。本当に殿下は私には予想できないことをする、パワーの溢れる御方だと。そんな殿下を支えていけることがとても嬉しくなったんです」


 セシリアはやたらと好意的に褒めてくれているが、今回に関しては、ただワガママを貫き通しただけである。


「殿下についていけばきっと、見たことのない景色をたくさん見られる。そう思いました」

「セシリア……」

「騎士団の皆さんも、私と同じようにわくわくしていましたよ」


 感謝の気持ちが溢れてきて、イレーヌは勢いよくセシリアに抱き着いた。


「ありがとう! いつかきっと貴女を、王国初の女性宰相にしてあげるわ!」

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