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ワガママ王女、死に戻って全人類から愛されます!~今度の死因は絶対、老衰ですわ!~  作者: 八星 こはく


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第35話 単純な話

「それはよかった。では明日の朝……パーティーの前に、決闘といこうか。観客はどうする? 君としては、負ける姿を見られたくはないかな?」


 オリヴィエなら、フェデリコのこんな安っぽい挑発には乗らない……なんてことはなく、オリヴィエは鋭い眼差しをフェデリコへ向けた。


 こういう表情も男性的で魅力的……ではなく、大問題である。


「ちょ、ちょっと待ってください! そんなの勝手に……!」

「殿下」


 オリヴィエの目は、完全に据わっている。なにがきっかけになったのかは分からないが、どうやらオリヴィエはやる気になってしまったらしい。


「パーティーの前に、催しとして剣術の試合を行う。珍しい話じゃないでしょう?」


 オリヴィエの言う通りだ。珍しいことではない。

 剣術を得意とするフェデリコが隣国からきたのだから、彼のためにそうした催しを開くのも悪くないだろう。


 でも、相手がオリヴィエなのはおかしいじゃない……!


 オリヴィエではなく武官になったばかりの年若い者や貴族の子弟であれば、フェデリコの引き立て役を任せられる。

 だがオリヴィエは騎士団きっての実力者であり、なにより、イレーヌの護衛騎士だ。


 要するにこの決闘は、どちらも負けられない戦いなのである。


「で、でも……」

「イレーヌ様。オリヴィエ殿もこう言っているのです。認めてはくれませんか? 勝者への褒美がイレーヌ様をエスコートする権利なら、どちらがエスコートしても、それほど騒がれることもないでしょう?」


 もし決闘もなしにフェデリコがイレーヌのエスコート役を務めれば、かなりの騒ぎになる。

 本格的に婚約者として決まったのか、と各方面から問い合わせが殺到するはずだ。

 しかし決闘の勝者に与えられる褒美ということであれば、余興の一環だと皆も納得するだろう。


「殿下。ここまで言われて、断ることはできません。殿下の護衛騎士が、勝負から逃げた臆病者に成り下がるわけにはいきませんから」


 確かに、もしわたくしが勝負を頑なに断れば、フェデリコ様がそういう噂を流すのは簡単だわ。

 そしてそれは、わたくしにとってもオリヴィエにとっても、この国にとっても望ましいことじゃない……。


 ハッとしてフェデリコを見つめると、彼は余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。

 おそらく提案した時点で、こちら側が断れないことを見越していたのだろう。


 なんて厄介で、ずる賢い男なの!?


「イレーヌ様。そんな顔をしないでください。僕はただ、イレーヌ様にアピールをしたいだけなんですよ。貴女が、強い男が好きだという噂を聞いたから」


 立ち上がると、フェデリコはとびきり甘い笑みを浮かべた。そして優雅に一礼し、部屋を出ていこうとする。

 フェデリコを呼び止めたのは、オリヴィエだ。


「部屋までお送りいたします、フェデリコ様」

「それは光栄だ。まさか王女様の護衛騎士が自ら、僕のような客人を送ってくれるとは」


 イレーヌが制止する間もなく、二人は部屋を出ていってしまった。すぐに戻ります、とオリヴィエは言ったけれど、イレーヌとしては不安でしょうがない。

 オリヴィエがフェデリコと二人きりで過ごしていると考えるだけで、胃に穴が開いてしまいそうだ。


「ちょっと待って。本当にこれ、どういう状況なの……?」


 こんな予知夢は見たことがないし、想像したことすらない状況だ。

 イレーヌが自分の行動を変えたことで、未来も大きく変わってしまったらしい。


「落ち着いて。ただの余興よ。そう、ただの……」


 何度そう言い聞かせても、血まみれのオリヴィエの姿を思い出してしまう。どうすればそんな未来を避けられるのだろうか。どうすれば、オリヴィエのことを守れるのだろうか。


 こんな時、賢いセシリアなら、すぐに最善の答えを導き出せるのかもしれない。しかし、イレーヌには分からなかった。


「……オリヴィエは勝てるのかしら」


 もしオリヴィエが負ければ、イレーヌはフェデリコにスコートされてパーティーへ向かわなければならない。

 それだけじゃなく、フェデリコに負けてしまったオリヴィエの腕を心配する声だって上がるだろう。


 いや、そんなことより、もっと単純な話だ。


 わたくしは絶対、オリヴィエが負けるところなんて見たくないのよ……!

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