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ワガママ王女、死に戻って全人類から愛されます!~今度の死因は絶対、老衰ですわ!~  作者: 八星 こはく


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第33話 自覚した心

「……姫様。大丈夫ですか。冷たい水をお持ちしましたよ」


 心配そうなデボラの声に、右手だけをあげて応じる。具合が悪い、と伝え、今日は朝から寝込んでいるのだ。

 仮病ではない。熱はないものの、朝から頭痛が酷く、かといって眠ろうとすれば悪夢に苛まれる。


 忌々しいあの予知夢だ。

 朝から何度、夢の中でオリヴィエが殺されたことだろう。


「枕元においておきますね」


 枕元の小テーブルにグラスを置いて、デボラが部屋から出ていく。そっとベッドから這い出たイレーヌは、グラスの水を一気飲みした。

 明日はアゼリーの誕生日パーティーだ。いつまでも寝込んでいるわけにはいかない。今日だって午後は、いつも通りクロエの授業があるのだから。


「……朝ご飯、オリヴィエと食べればよかったわ」


 今オリヴィエと会えば余計なことを言ってしまいそうで、今朝は顔を合わせていない。せっかく部屋まできてくれたのに、デボラに頼んで追い返してしまった。


 昨日からずっと考えているのは、自分の婚約相手についてだ。

 最終的な決定権を持つのがアゼリーである以上、イレーヌの意見を通すことは可能だろう。しかし、どんな相手を選ぶかは極めて重要だ。


 ジュリアンを始めとする高官たちは、いかに自分の利益になる相手をわたくしの結婚相手にするか、そればかりを考えているわ。


 彼らからすれば、イレーヌはお飾りの女王になるべきなのだ。そんなイレーヌが結婚を通じて力を持つことも、新たな味方を得ることも好ましくないのだろう。


「……こんな体制じゃ、革命が起こるのも無理はないわ」


 家臣は自らの利益ばかりを考え、国のために動こうという人間がいない。この状況を打破するには、イレーヌが自ら動くしかないのだ。


「だとすれば、やっぱりわたくしが選ぶべきなのは……」


 頭の中に浮かぶのはフェデリコの顔。

 彼を選ぶのが、現時点では最も賢い選択だろう。


 パンテーラ王国が味方につくのは大きいし、国内の貴族たちの力を抑えることもできる。

 お飾りではなく本当の女王を目指すイレーヌにとって、最も歓迎すべき相手のはずだ。


 なにより、確実に、予知夢で見たあの革命をなくせる。

 パンテーラ王国の協力がなければ、19歳の誕生日に死を迎えずに済む。


 でも。


 再びベッドにもぐりこみ、ぎゅっと目を閉じる。フェデリコの妻になった自分を想像するだけで、吐き気がした。





「姫様」


 少しの間、なんとか眠ることができたらしい。デボラに軽く身体を揺さぶられ、イレーヌは重たい瞼を開けた。


「オリヴィエ殿がきていらっしゃいます」

「えっ!?」


 思わず飛び起きて、壁にかかった時計で時間を確認する。

 まだ昼前で、オリヴィエは訓練中のはずだ。普段なら、呼んでもいないのに部屋へやってくる時間ではない。


 なにかあったの?


「通しますか?」

「あっ、えっと……」


 今日はまだ髪の毛も整えていない。着替えだって済んでいないから夜着のままだし、化粧だってまだだ。

 とても、人前に姿を現せるような状態じゃない。


「……見舞いにと、花束を持ってきてくださっていますよ」


 街に出かけて以来、オリヴィエは定期的に花束を贈ってくれる。どうやら彼は、イレーヌが花を好きだと勘違いしているようなのだ。

 ただ、イレーヌもその勘違いを正したことはない。


 花は別に好きじゃないけど、オリヴィエから花をもらうのは好きだから。


「……分かったわ。でも、その前に髪だけといてくれる?」

「分かりました、姫様」





「殿下。具合が悪いと聞きましたが、大丈夫ですか」

「……オリヴィエ」


 オリヴィエが抱えている大きな花束は、白と桃色の花で構成されている。春を思わせる優しい色味だ。

 花などに無縁そうなオリヴィエがこれを抱えて部屋までやってきた様子を想像するだけで、自然と頬が緩む。


「ありがとう。ゆっくり休んだから、回復したわ」

「俺にできることがあれば、なんでも言ってください」


 心配そうな眼差しで見つめられると、つい、手を伸ばしたくなってしまう。心の内を全てぶちまけて、不安なのだと彼に抱き着くことができたら、どれほど気が楽になるだろうか。


「殿下の辛そうな顔は見たくありません」


 オリヴィエの大きな手のひらが伸びてきて、頬に触れる前にとまった。


「悩みがあるのでしょう。……俺には、どうすることもできないかもしれませんが、なにかできることがあれば……」


 苦しそうな表情を浮かべたオリヴィエに、予知夢で見た光景が重なる。

 身体に無数の傷を負い、あらゆるところから血を流していた。

 そして、致命傷となったのは背後からの斬撃。


 革命が起きて死ぬのは、わたくしだけじゃない。

 オリヴィエだって、命を落とすのだ。


 だってオリヴィエは、わたくしの騎士だから。

 だけどわたくしは、オリヴィエに死んでほしくない。


「……分かったわ」

「殿下?」


 わたくし、オリヴィエが好きなんだわ。


 オリヴィエを大切に思うのは、唯一、裏切らずに自分を守ってくれたから。だからオリヴィエは特別で、他の誰とも違う。

 でも、それだけじゃない。もう、それだけでは済まないところまできてしまっている。


 自覚した恋心は、気を抜けばすぐに口から溢れてしまいそうだ。


 わたくし、貴方が好きなの。

 だから貴方には、絶対死んでほしくない。ずっと貴方と、一緒に生きていたいの。

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