表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワガママ王女、死に戻って全人類から愛されます!~今度の死因は絶対、老衰ですわ!~  作者: 八星 こはく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/42

第32話 王女として

「これがいいわ。オリヴィエによく似合うもの」

「……少し派手では?」

「これで派手なら、他の貴族たちは道化よ」


 イレーヌがそう言うと、オリヴィエは渋々、といった表情で頷いた。

 今回彼に選んだのは、紫を基調としたロングジャケットに白いシャツ、ジャケットと同色のパンツだ。

 瞳の色と同じ紫を中心にコーディネートを考えたため、かなりまとまっている。


 こんな姿を見たら、オリヴィエに恋する令嬢たちもいるかもしれないわ。

 格好いいし、逞しいし、強いし、護衛騎士なんて地位まで持っているんだもの。


 オリヴィエの生家であるリシャール伯爵家は、勢いこそないものの、歴史のある名家だ。特定の派閥に属してもいない。


 結婚相手として、オリヴィエは優良物件だわ。


 もちろんそれは、ただの貴族の令嬢からすれば、なのだが。


「殿下? どうかしましたか」


 黙り込んだイレーヌの顔をオリヴィエが覗き込んだ瞬間、部屋の扉がノックされた。

 傍で控えていたデボラが扉を開くと、アゼリーが気まずそうな顔で入ってくる。


「ごめんなさいね、イレーヌ。楽しく過ごしていると聞いていたから、邪魔はしたくなかったのだけれど」


 アゼリーは溜息を吐くと、困ったような顔でイレーヌを見つめた。


「ジュリアンが、話があるというの。少しきてくれないかしら?」


 ジュリアン……ティーグル王国の宰相である。アゼリーやイレーヌの機嫌をとることに全力を注ぐあの男がイレーヌを呼び出すなど、滅多にないことだ。


 なにかあったのかしら? ジュリアンがわざわざ、わたくしたちに話すようなことが?


「分かりましたわ、お母様。すぐに向かいます」





 内密な話がある、ということで、オリヴィエとは宰相室の前で別れた。

 部屋の中へ入ると、立って二人を待っていたジュリアンが深々と頭を下げる。


「王妃様、殿下。申し訳ございません、急にお呼び出ししてしまって」


 言いながら、ジュリアンは汗まみれの額をハンカチで拭った。こころなしか少し痩せたような気がするのは、イレーヌの勘違いだろうか。


「実は近頃、貴族たちから複数、同じ件の問い合わせを受けておりまして……」

「問い合わせ?」


 アゼリーが首を傾げる。ジュリアンへ向ける眼差しが柔らかいのは、アゼリーが彼に対して敵意を持っていないからだろう。

 この男には、人から好かれる才能がある……とまでは言わないが、少なくとも、人に嫌われない才能があるのだ。


 宰相という高い地位を得たのも、漁夫の利のようなもの。特定の派閥に属さず、しかしどこの派閥とも上手くやり、なおかつ適度に舐められた結果、彼は今の地位を手に入れたのだ。


「ええ。イレーヌ殿下のご婚約についてです。フェデリコ王子と婚約をする気なのか、他に候補者がいるのか等……私としては、大変困っておりまして」


 この言葉は嘘ではないのだろう。おそらくジュリアンのもとに、連日イレーヌとの婚約を望む貴族たちから問い合わせが殺到しているのだ。


「私としては、殿下にはぜひ、幸せな結婚をしていただきたいのです。主君が幸せであればこそ、臣下も安心して業務に励めるというもの。望まぬ結婚を勧める気などございません」


 ジュリアンの言葉に、まあ……! と感動したのはアゼリーだけである。

 イレーヌは内心冷めた目でジュリアンを見ていた。


 わたくしの婚約によって自分の地位が脅かされるのを恐れているだけだわ。

 有力な貴族を婿に迎えれば、その家がジュリアンより力を持つのは明白だもの。


 結婚とは、最も強固な家同士の繋がりである。息子のいないジュリアンからすれば、有力な貴族がイレーヌの婿におさまることは避けたいはずだ。


 国の未来より、自分の地位をいかに守るかを考えている。呆れた男だ。しかし、イレーヌに対し悪意がないことは確かだろう。


「わたくしも、イレーヌには好きな相手を選んでほしいわ。それが一番じゃない」


 アゼリーの言葉は、母親としては間違っていない。しかし、王妃としては問題がある。


 イレーヌが黙り込んだままでいると、ジュリアンがゆっくりと近づいてきた。

 やけに澄んだ瞳をイレーヌに向け、小さな声で話し始める。


「殿下は、オリヴィエ殿を気に入っていらっしゃるのでしょう? 私としては、とても賛成ですよ」


 仮にオリヴィエがイレーヌの婿になったとしても、リシャール家単独では弱すぎる。

 そこでジュリアンは、結婚に賛成することにより、リシャール家と手を組んで自身の影響力をさらに高めるつもりなのだろう。


 しかも、わたくしやお母様にも恩が売れる。ジュリアンからしたら、反対する理由がないわよね。


 おまけにオリヴィエを婚約者に指名すれば、イレーヌの評判には必ず傷がつく。恋愛感情で婚約者を選んだ王女だと噂されることは避けられない。


 ジュリアンにとっては、それも都合がいいんだわ。

 わたくしの人気がない方が、宰相としては好き勝手に動きやすいでしょうから。


 笑顔の裏で、ジュリアンはどうすれば自らの権力を維持できるかを熟考しているはずだ。

 だとすればイレーヌはこの場で、どう振る舞うのが正解なのか。


 処刑を回避するためには、イレーヌの絶対的な味方を増やす必要がある。

 そのために、結婚は一番の武器になるだろう。


「結婚は、家と家の結びつきですわ。わたくし個人の感情で決めるものではありません」


 表情を殺し、じっとジュリアンを見つめる。


「貴族たちにも伝えなさい。くだらぬ噂は慎むようにと。時期がくれば、正式な発表を行うわ」


 冷ややかな声を出したのは、ジュリアンを威嚇するためだけではない。

 そうしていなければ、王女としての仮面がはがれてしまいそうだったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ