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ワガママ王女、死に戻って全人類から愛されます!~今度の死因は絶対、老衰ですわ!~  作者: 八星 こはく


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第31話 わたくしの幸せって?

「姫様、プレゼントが届きましたよ」

「……また?」

「姫様、今度は手紙が届きました!」


 ひっきりなしに贈り物が届き、メイドたちが右往左往している。鬱陶しいが、無視するわけにもいかない。

 急に増えた贈り物は全て、年齢が近い男……及び、その両親からだ。


 これも全部、フェデリコ王子のせいだわ!


 そのフェデリコからは今朝、大きな花束が届いた。花瓶に飾る気にもなれず、花束はまだ部屋の隅においてある。

 茶会に誘われてからというもの、フェデリコがやたらと絡んでくるのだ。何度も食事に誘ってきたり、偶然を装って声をかけてきたり。


 そんな状況が続いたせいで、フェデリコがイレーヌの婚約者になるのでは……という噂が広がり、焦った貴族の子弟たちがこぞってイレーヌの気を引こうとしている、というわけだ。


 贈られてきたプレゼントの種類は様々である。目を見張るほど高価な物、入手困難な珍しい品、気持ちのこもった直筆の手紙、デートに誘うための舞台のチケット。


 これを全部寄付に回したら、いったいどれくらいの額になるのかしら?


 そう思うものの、プレゼントを売るわけにもいかない。結果として、どんどんイレーヌの部屋が狭くなっていく。


「そろそろ姫様も、婚約者が決まってもおかしくない年齢ですからね」


 プレゼントを整理しつつ、デボラが言った。彼女の言う通りだ。

 王侯貴族の令嬢は、15歳から20歳にかけて結婚する者が多い。婚約者自体は幼少期から決まっている者も多いが、王女は基本的にそうではない。

 結婚する時に最もよい条件の相手を選ぶためである。


「王妃様もきっと、姫様の婚約相手に頭を悩ませていることでしょう」

「……そうかしらね」


 目を閉じ、予知夢のことを思い出す。

 18歳になっても、あの時イレーヌには婚約者がいなかった。イレーヌ自身が結婚を先送りにしたがっていた上に、反体制派の存在が裏で大きくなっていたからだろう。


 結婚は、一度しか使えない強力な武器だ。誰と……いや、どこの家との関係を深めるかは、今後のことを考える上で重要である。


「……姫様」


 イレーヌを見つめるデボラの瞳が少しずつ潤んでいく。貴族出身の彼女は、結婚のことをよく分かっているのだ。


 わたくしは王女よ。しかも、ただの王女じゃなくて、この国の王位継承者。

 処刑を回避するためにも、結婚で失敗するわけにはいかないわ。


 フェデリコにせよ、他の相手を探すにせよ、ティーグル王家にとって最適な人物と結婚する必要がある。

 分かっているのだ、そんなことは。


「ねえ、デボラ。婚約者ができたら、婚約者以外の男性と2人で出かけたり、食事をするのはだめよね」


 分かっていることなのに、つい問いかけてしまう。デボラは気まずそうな表情で頷いた。


 不公平だわ。わたくしが王子であれば、何人の令嬢に手を出したって、文句を言われることもないのに。





「オリヴィエ。明日、日中に時間をもらえないかしら?」


 部屋で夕飯を食べている最中、オリヴィエにそう尋ねた。日中は訓練があることは分かっているが、たまにはいいだろう。


「どこかへ出かけるのですか?」

「いいえ。パーティー用の服を選ぼうと思って」


 イレーヌの言葉に、オリヴィエは不思議そうな顔をした。


「オリヴィエの服を選んであげるわ」

「……俺の、ですか」

「ええ。今度のパーティー、わたくしをエスコートするのは貴方じゃない」


 アゼリーの誕生日パーティーはもう2日後だ。イレーヌのドレスに関してはもう決まっている。

 おそろいがいい! とアゼリーがごねたからだ。


 イレーヌが誰かと婚約するまで、公的な場でのエスコート役はオリヴィエのものだ。

 あと何回、オリヴィエにエスコートされてパーティーへ出席できるだろうか。そんなことを考えただけで、なんだか泣きたくなる。


 処刑なんてまっぴらだわ。

 でも、そのためにわたくしは、好きでもない男と結婚して、好きでもない男の子供を産まなきゃいけないの?


 王女として当たり前のことだ。それを嫌だと思うなんて、やはりイレーヌはワガママなのだろうか。


「……殿下?」

「ちょっとぼーっとしちゃって。疲れているのかもしれないわ」

「無理はなさらないでください、殿下」


 紫色の瞳に見つめられると、鼓動が早くなるのに、なぜか安心する。この瞳に映るのが、ずっと自分だけだったらいいのに。そんなことを考えてしまう。


 わたくしが誰かと結婚するように、オリヴィエも、誰かと結婚するのよね。

 その子のことを、オリヴィエは本気で守りたいと思うようになるのかしら。騎士としてではなく、一人の男として。


 そんな未来を想像するだけで胸が痛む。けれど、イレーヌにはどうすることもできない。


「夕飯を食べたら、今日は早くお休みください。きっと疲れがたまっているんでしょう」


 じゃあ、眠るまでオリヴィエが傍にいて。


 つい口から飛び出しそうになったワガママを必死に飲み込む。自分はなにを望んでいるのだろう。


 処刑回避のためにワガママをやめ、自分の気持ちを封じ込める。このまま順調にいけば、処刑を回避するどころか、名君なんてものも目指せるかもしれない。


 でもそれで、わたくしは幸せになれるのかしら?

 長生きして、国民に死を惜しまれる。それがわたくしの幸せなの?

 本当の気持ちも、本当の自分も抑え込んで、ただ好かれるためだけに動いて、そんな人生に意味があるの?


 処刑を回避して、老衰を目指す。自分で決めた目標だ。それなのに今、分からなくなっている。視界が歪んで、胸が苦しい。


「……オリヴィエ」

「殿下、どうかしましたか?」

「わたくし、もう食事はいいわ」


 とりあえず今日はもう、眠ってしまおう。なにも考えたくないから。

 泣きそうな顔を隠すように、イレーヌは床を睨みつけた。

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