第18話 派手なものが好きなの!
「で、オリヴィエは、どんな叙任式にしたいの?」
サンドイッチを食べながら、再度そう尋ねる。
オリヴィエが注文したサンドイッチはかなりボリュームがあって美味しい。
揚げたてのパンに肉とハム、それから卵や野菜が挟まっていて、食べ応えは十分。日頃食べている料理とは違うものの、これはこれでありだ。
これを3つも食べるんだから、オリヴィエの胃袋は恐ろしいわね。
「殿下はどうしたいんです? 俺としては、特にこだわりはありません」
予想通りの答えだ。オリヴィエはどうせ、行事等には興味がないと思っていたから。
やたらと大きな一口でサンドイッチをあっという間に平らげたオリヴィエに焦り、イレーヌも食べるペースをあげる。
ついむせてしまうと、オリヴィエが自然な動作で水の入ったグラスを渡してくれた。
なかなか紳士的じゃない。
それなりに長い時間を共にしていたのに、そんなことも知らなかった。
「わたくしも、特にこだわりはないわ」
「本当ですか?」
疑っているような眼差しを向けられ、とっさに目を逸らす。こんな反応をするのが悪いとは分かっていても、どうしようもない。
前は、とにかく派手で豪華な式にしたかったのよね。
わたくしはそういうのが好きなのよ。
趣味嗜好自体は変わっていないけれど、他人からの目を考えれば、やたらと豪華で金のかかる儀式は避ける必要がある。
わたくしが儀式を楽しむことより、嫌われないことの方がずっと重要だもの。
「あまり費用をかけずに済ませてもいいんじゃないかと思ってるの。オリヴィエにあげる剣に関しては、きちんと実用的な物を選ぼうかと……」
「確かに、やたらと豪華にする必要はないかもしれませんね」
「……ええ」
自分の意見に賛成してもらったのだから、もっと喜ぶべきだ。分かっているのに、上手く笑顔を作れない。
だって、わたくしとオリヴィエの叙任式は一生に一度しかないのよ!?
そんなの、そんなの……ド派手にやりたいに決まってるじゃないの!
「ですが、殿下」
「な、なにかしら?」
「せっかくの機会ですし、派手なものにしてもよいのでは? 派手な叙任式が、必ずしも費用がかかるわけではないでしょう」
「えっ!?」
オリヴィエの口から『派手なもの』という発想が出るとは思っていなかったから、驚きのあまり立ち上がってしまう。
そんなイレーヌを見て、オリヴィエは優しい微笑みを浮かべた。
「殿下は、派手な儀式がお好きのようですね」
「ち、違うわよ、別にそういうわけじゃなくて……!」
立ち上がったことで周りからの視線を集めてしまったため、慌てて座りなおす。
「偉いですね、殿下は」
「……偉い?」
「本当は、派手なものも豪華なものも好きなんでしょう。聞きましたよ。ワガママ王女、と呼ばれていたとか」
「……うっ」
消したい過去だが、今さらどうしようもない。さすがにオリヴィエも、その事実を知らないわけではないのだろう。
知らなかったとしても、護衛騎士になるってなったら、いろいろと話は入ってくるでしょうし……。
「すごいことですよ。望めばなんでも手に入る立場でありながら、欲しいものを我慢しようとしているなんて」
「……別に、すごくないわ」
わたくしはただ、処刑を回避したいだけ。
その一心で動いているだけだ。
「いえ、すごいです。それに、偉いですね」
偉い、なんて、王女相手に失礼な言葉だ。
そう咎めることは簡単なのに、今口を開いたら、もっと言ってくれない!? とねだってしまいそうだ。
「でも言ったでしょう。俺に遠慮する必要はないと。費用は抑えつつ、派手な叙任式にする方法を考えましょう」
「……そんな方法、あるのかしら?」
「道はあるはずです」
たぶん、オリヴィエだって何も思いついていないのだろう。それなのに自信満々な顔をしているのは、イレーヌを安心させるためだろうか。
「……ありがとう、オリヴィエ」
「殿下の騎士として、俺は当たり前のことをしているだけです」
騎士として当たり前。立派な心がけだ。
それなのにオリヴィエの言葉にほんの少し寂しくなった自分がいる。
わたくしって、本当にワガママね。
◆
「お金をかけずに、派手な叙任式がしたい、ですか」
イレーヌの希望を聞いたセシリアは、分かりました、とあっさり頷いた。
「パレードを行うのはどうです? 馬車は王家が所有している物を使えばいいですし、特に費用はかかりませんよ。それどころか、パーティーより安上がりです」
しかもセシリアは、紅茶を飲みながらすらすらと案を口にした。
イレーヌもオリヴィエも、全然解決策が思いつかなかったというのに。
持つべきものは賢い友達だわ……!
「殿下、どうしてパーティーにお金がかかるか、分かりますか?」
「え? たくさんの人を呼ぶから?」
「違います。貴族の移動費なんて支給していないでしょう」
失礼なほどはっきり言われることにも慣れた。セシリアに悪気がないことが分かってきたからだ。
派手なパーティーにはお金がかかる。
だけど、具体的にどうしてお金がかかるのか、なんて考えたことはなかったわ……。
「まずは人件費です。給仕係になるメイドは日頃から宮殿勤めのメイドですが、彼女たちが普段している仕事ができなくなるので、その穴を埋めるために臨時メイドも雇うんですよ」
「そうなの!?」
「そうです。そして、パーティー用の食事やお酒の用意、楽団への給与支払いもあります」
パーティーにやってくる貴族は、日頃から高価な食事に慣れきっている。
そんな彼らを満足させる食事を大量に用意するのは大変なのだ、とセシリアは説明してくれた。
「パレードなら、そのような費用は発生しません。にも関わらず、国民を巻き込んだ派手な儀式になります」
「まあ……!」
それ、最高じゃない!
「セシリア! 貴女って天才ね! そんな考え、全然思いつかなかったわよ!」
ありがとう! とセシリアに思いきり抱き着く。セシリアはしばらくの間戸惑っていたものの、安心したような笑みを浮かべた。
「よかったです、殿下のお役に立つことができて」




