第14話 譲れないワガママ
アゼリーに頼み込んで、オリヴィエの面接に同席させてもらうことにした。
どんな経緯で履歴書が提出されたのかは分からないが、面接を行えば、彼のやる気のなさが母にバレてしまう。
だからわたくしが同席して、なんとかフォローしようと思っていたのだけれど……!?
なんなの、その格好は!?
母から、面接にくる男たちの格好がやたらと着飾ってくることは聞いていた。しかしそれは、少しでも王妃に好かれたい者たちの努力だ。
やる気のないオリヴィエは、普段着か、騎士団の制服でくるものと思っていた。
だが実際、オリヴィエは美しく着飾って面接にやってきた。
日に焼けた肌には、純白がよく似合う。それに髪を下ろすだけでいつもと少し印象が変わって、色気すら感じてしまう。
オリヴィエって、顔がいいのね……!?
元々、不愛想だがそれなりに整った顔をしている、とは思っていた。しかしこれほどまでとは。
「殿下。俺の服装に、なにか問題でもありましたか」
首を横に振り、いいえ! と力強く答える。問題なんて全くない。どういうつもりかは知らないけれど、これならやる気があるように見えるだろうから。
「み、見慣れない格好だから驚いただけよ」
「そうですか。似合わない格好で申し訳ありません」
「似合いまくってるけど!?」
つい本音が口に出てしまう。オリヴィエは何度か瞬きを繰り返し、そうですか、と呟いて目線を逸らしてしまった。
わたくしとしたことが、この場で王女らしくない振る舞いをしてしまったわ……!
「イレーヌ。貴方は誕生日パーティーでオリヴィエをダンスに誘っているわよね。その後も交友はあるのかしら?」
「騎士団の訓練を視察に行った際にもお世話になったんですの、お母様」
へえ……と頷いたアゼリーが、真剣な表情でオリヴィエの観察を始めた。
この面接が始まる前に、今まで面接に参加してきた者についていろいろと聞いた。
オリヴィエのように騎士として働いている者もいれば、現在はまだ働いていない貴族の次男以下の男や、文官として働いている者もいたという。
わたくしの騎士になりたい、と思っている人が多い状況は悪くないけど、わたくしの騎士はオリヴィエだけなのよね。
失敗ばかりだった未来において、イレーヌが決めたことではないが、オリヴィエを騎士にしたことだけは正解だった。
だから、ここで間違えるわけにはいかない。
「どうして貴方は、イレーヌ付きの騎士を志望しているの?」
アゼリーの質問に、オリヴィエはすぐに答えた。
「殿下のことを近くでお守りするためです」
「騎士の仕事は護衛だけじゃないわ。それに、護衛には他の騎士だって参加するの。貴方が剣術に優れていることは分かるけど、他にはどういった部分でイレーヌの役に立てるの?」
ちょっとお母様! そんな言い方して、オリヴィエが気分を悪くしたらどうしますの!?
喉元までそんな言葉が出かかったが、ぐっと飲み込む。アゼリーの質問自体は、間違っていないからだ。
王女付きの騎士は常に王女に付き従い、その護衛を行う。しかしもちろん、王女の護衛役が常に一人、というわけではない。
単純な強さだけが騎士を選ぶ理由にはならない……という考えも間違ってはいないのだ。
「殿下が望むことはなんでもします。体力はあるので、いつでも対応できます」
なんでも……って、なんでこんなにオリヴィエはやる気なの!?
もしかして、わたくしの印象がよくなったから!?
「それに、どんな状況になろうと、誰が敵になろうと、一生殿下を守る覚悟はできています」
真っ直ぐな眼差しは、アゼリーではなくイレーヌに向けられている。
夢で見た光景が頭の中に浮かばなくたって、きっとオリヴィエのことを信じたくなっただろう。
「分かったわ。じゃあ、次は語学力やダンスのスキルあたりに関しても話を聞きたいのだけど……」
次の質問に移ろうとしたアゼリーの言葉を、待ってくださいませ! とイレーヌは遮った。
いきなり立ち上がった娘を見て、アゼリーが不思議そうに首を傾げる。
王女付きの騎士を決める権限は王妃にあり、たとえ王女本人であっても、本来は口を出すべきではない。
セシリアが何度も言っていたことだ。国のトップは一人であるべきであり、後継者であろうと、権力を持ちすぎるのはよくないと。
分かっている。分かってはいるのだが……。
「イレーヌ? どうかしたの? なにか、他に聞きたいことでもあった?」
「お母様に、お願いがありますの」
イレーヌの言葉にアゼリーは瞳を輝かせ、手に持っていたペンをテーブルに置いた。
ワガママ王女を卒業したイレーヌは、最近、アゼリーになにかをお願いすることが減っている。
以前は新しいドレスが欲しい、宝飾品が欲しい、どこへ出かけたい、お茶会を開きたい……とあらゆるワガママを口にしていたイレーヌが、である。
そのためアゼリーは、娘のワガママを聞く機会を欲していたのだ。
「なにかしら!? イレーヌ、なんでも言ってごらんなさい!」
可愛い娘からの久しぶりのお願いに、アゼリーの頭からは騎士選びのことが出ていってしまったに違いない。
「わたくしの騎士として、オリヴィエを選んでほしいんです」
「……オリヴィエを?」
「はい。わたくし、オリヴィエ以外の騎士は嫌ですわ!」
室内にはアゼリーだけでなく、メイドも控えている。なにより、オリヴィエがいる。
ここでワガママな発言をするべきではない。頭の冷静な部分ではそう分かっていた。
だけど……この場でどうしても、オリヴィエしかいないって伝えなきゃ。そう思ったのよ。
理由は分からないが、オリヴィエは真剣にイレーヌ付きの騎士になることを望んでいる。
そんなオリヴィエに対し、この場で真摯に向き合うことが、王女としての礼儀だと思ったのだ。
「まあ、イレーヌ……!」
アゼリーの頬は赤く染まり、口元は緩んでいる。壁際のメイドたちもなぜか全員、にやけた表情をしていた。
そしてオリヴィエは顔を真っ赤にし、赤くなった顔を右手で必死に隠している。
あれ?
わたくし、なにか変なことを言っちゃったかしら……?




