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ワガママ王女、死に戻って全人類から愛されます!~今度の死因は絶対、老衰ですわ!~  作者: 八星 こはく


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第10話 少しでも生存率を上げたいもの!

「剣術の稽古……ですか?」


 イヴァンは目を丸くし、口を大きく開いた。あまりにも間抜けな表情だが、それでも隙があるようには見えない。


「ええ。だから今日は、動きやすい服装できましたの」


 華やかなドレスではなく、乗馬服を着てきた。

 新しく運動着を仕立てようかとも思ったが、無駄遣いは避けるべきだろう。


「……いったい、どういうおつもりなのですか? その、イレーヌ殿下が剣の稽古など……」


 王族や貴族であっても、男子であれば剣術の訓練を受けるのは当たり前のことだ。

 剣は紳士の嗜みと言われることもあり、模造刀での試合が行われることもある。

 しかし、イレーヌは女だ。剣術の稽古を受けたことは一度もないし、その必要もない。


 でもわたくし、考えたの。

 もしなにか危険なことがあれば、わたくしだって戦えた方がいいに決まってるわ。


 普段、王女であるイレーヌが剣を振るう機会などないだろう。しかし宮殿に敵が攻め入ってきた時、なにも武器を扱えぬより、少しでも剣を扱えた方がいい。


 その方が、わたくしの生存率が上がるわ!


 などという本音を言えるはずはない。そんなことを口にすれば、騎士団の力を疑っているのかと勘違いされかねないからだ。


「わたくし、考えたのです。ただ訓練を視察するだけではきっと、騎士団の方々の苦労は分からないと」


 健気な表情と、はっきりとした物言い。少々アンバランスに見えるかもしれないが、おそらくこれが最も効果的だ。


「もちろん、稽古を受けただけで完璧に想像できるなんて思ってはいませんわ。でも、想像はしやすくなるんじゃないかしら、と思って」

「……殿下、そこまで我々のことを……!」

「今まで、ろくに視察もせず申し訳ありませんでしたわ。母に代わって、わたくしが謝罪いたします」


 深々と頭を下げると、顔を上げてください! とイヴァンが焦った声で言った。

 言葉通り顔を上げると、柔らかい笑みを浮かべたイヴァンと目が合う。


「やはり殿下は素晴らしい御方です。オリヴィエの言った通りですね」

「……オリヴィエの?」

「ええ。殿下の話は、オリヴィエから聞かせていただきました」


 嘘。あのオリヴィエが、わたくしのいないところでわたくしの話を!?

 っていうかオリヴィエ、他人と雑談するコミュニケーション能力があったの!?


 イレーヌの頭の中にあるオリヴィエは、いつも仏頂面で退屈そうにしている。

 しかし彼も、親しい騎士団の団員たちには違った顔を見せているのかもしれない。


 意外とおしゃべりだったりして。いや、それはないわね。


「殿下のお望みの通り、稽古を受けていただきましょう。ですがまず、我々の訓練を見ていってください。皆、殿下がくるからと気合を入れているのですよ」

「もちろんですわ!」


 絶対に、騎士団の皆に嫌われるわけにはいかない。

 彼らは宮殿の警備を務めている。つまり、もし宮殿でなにかがあった際、イレーヌを守ってくれるのは彼らなのだ。


 なんとしてでも、好感度を上げまくって帰らなきゃ!





 イヴァンの案内で訓練場の中へ入ると、整列した騎士たちに迎えられた。揃いの隊服を着た彼らは、ほとんどが貴族の次男以下である。


 オリヴィエは……あっ、いたわ!


 二列目の端に、オリヴィエは姿勢よく立っていた。若年の彼は、騎士団の中でまだあまり立場が強くないのだろう。

 伯爵家という家柄で言えば前列にきてもいいはずだが、騎士団内の地位は家柄で決まるわけではない。


 目が合うと、オリヴィエはすぐに頭を下げた。俊敏な動きに、イレーヌはわずかに戸惑う。


 オリヴィエって、あんな感じだったかしら……?


 最低限のマナーは守ります、というスタンスだった気がする。それも、イレーヌへの好感度が低かったからなのだろうか。


「お前ら! 殿下がいらっしゃったんだ。いいところを見せろよ!」


 イレーヌに対する時とは異なり、イヴァンはやや乱暴な言葉を使った。だが、騎士団の中ではいつも通りなのだろう。


 野蛮だ……なんて、お母様が思うのも仕方ないわね。

 でも、野蛮だからってなんなのよ。上品さじゃ敵を倒せないんだから、そこにこだわる必要なんてないのに。


 イヴァンの指示に従い、団員たちは訓練所の中央に集まった。そして二人組を作り、腰に帯びた剣を抜く。

 窓から差し込む陽光を浴びて煌めく刀身は、どう見ても本物だ。


「イヴァン殿、訓練は模造刀でするものじゃありませんの……?」


 慌てたイレーヌが問いかけると、まさか、とイヴァンは豪快に笑った。


「模造刀じゃ訓練になりませんよ。使い勝手も違いますし、緊張感もないでしょう。あれを使うのは、剣の扱い方を知らないお坊ちゃんたちだけですよ」

「……そうなのね……」


 知らなかった。てっきり訓練は模造刀で行われるものと思っていたから。

 イヴァンが合図をすると、団員たちは二人組での試合を始めた。実力が拮抗している者同士で組んでいるのか、どの組もいい勝負だ。


 斬撃の音が訓練所に響き渡り、時折団員たちの荒っぽい声も聞こえる。


 こんな風に毎日、彼らは訓練をしているのね……。


 模造刀での試合なら、イレーヌも見たことがある。騎士服を着た貴族の子弟が、格好良く戦うだけの試合だ。

 優雅な戦いぶりに見惚れる貴婦人たちも多いし、イレーヌも感心していた。


 でも、全然違う。本物の騎士って、すごいのね。


 つい前のめりになって試合を見てしまう。たくさんの騎士たちがいる中で、自然に目がいってしまうのはオリヴィエだ。

 オリヴィエの相手は年上の大男である。互角にやり合っているように見えるものの、心配になってしまう。


 もし剣が当たったら、怪我してしまうんじゃないの?

 っていうかオリヴィエって、他の団員と比べて強いのかしら?


「殿下。それほどオリヴィエが心配ですか」

「えっ!?」

「大丈夫ですよ。オリヴィエは真面目で優秀な騎士です。それに……」


 イレーヌの目を見て、イヴァンがくすっと笑う。


「最近は特に、訓練に気合が入っているようですから」


 ほら、と促されて視線をオリヴィエに戻す。大きな一振りが相手の手から剣を奪い、バランスを崩した相手が地面に尻もちをついてしまった。

 剣先を相手に向け、空いた手でオリヴィエは額の汗を拭う。


 勝ったの!? あんなに大きな人相手に?


 剣を下ろしたオリヴィエが、対戦相手の手を掴んで起き上がらせる。その後、ゆっくりと視線をイレーヌに向けた。

 勝利の笑みを浮かべることなく、オリヴィエは黙ってお辞儀をする。あまりにも彼らしい様子に、イレーヌの頬は自然と緩んだのだった。

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