オムライス
初投稿です。
変なところがたくさんですが、読んでいただけるとうれしいです。
「お邪魔します」
俺は、恐る恐る足を踏み入れた。
「どうぞ~。そんな怖がらないでよ、おそったりはしないから」
美沙が笑って言う。そんなに顔にでてるのだろうか。
美沙の部屋はピンクにまとめられていて、とてもきれいに片付けられている。さすが女の子の部屋だ。
本当は、俺――井本一政と友達の坂田美沙、田端興起の3人で集まってご飯でも食べながら語ろうということになってたんだが、興起がまさかのドタキャン。美沙はもう下ごしらえまでしてきたからということで、俺が食べに行くことになった。
「じゃあ作ってくるからちょっと待っててね」
そういうと美沙は台所に向かっていった。
部屋を見渡すと1枚の写真があった。それは3月1日の卒業式。俺たち3人ともう1人、池田雪子の4人での写真だった。
雪子は俺の初恋の相手だ。初めて会ったのが高三の春だった。
それまで“恋”とか“恋愛”なんがが全く分からない男だった。みんなの話についていけない自分が悔しかった。
だけど、雪子を見たとき、俺は今まで味わったことのない感覚になった。なんだか胸が少し痛むような、それでもいやではなく心地よいような、そんな気持ち。興起と美沙に話すとそれが恋というものだといわれた。
興起と美沙も高3になってからの友達だ。学年1の美男美女で有名なのだが本人たちは全く気づいていない。そんな2人と、俺。周りから見ると絶対にありえない組み合わせなのだが、妙に話があった。話していて楽しかった。
そんな楽しい日々はあっという間にすぎていき、卒業式の日を迎えた。最後に写真を撮ることになった。興起は気をきかして、雪子を呼んできて俺の隣にしてくれた。一瞬手が当たって、顔が真っ赤になった瞬間を撮ったのがあの写真だ。
今思えば、このときが一番幸せだった。
俺は、最後に雪子に気持ちを伝えることにした。口で直接言っておけばあんなことにはならなかったのかもしれない、だけど恥ずかしがりやの俺はそんなことなどできるはずがなく、結局メールで伝えるしかなかった。
送ったのはちょうど夜の8時だった。突然送ったわけではない、7時くらいからずっとメールをしていた。ただ一言「ずっと前から好きでした」それだけ。あのときの俺には何にも考えられなかったから。
だが、雪子から返信が来ることはなかった。俺は寝ずにまった。そしてちょうど24時間がたった。もう振られたとはわかっていたつもりでいたけど、もしも… そんな気持ちでもう一回メールを送った。「昨日は変なこと言ってごめんなさい」と。2分後、携帯がなった。すぐには見れなかった。5分くらいたってやっと、携帯を開いた。しかし、それは「送信できませんでした」のメールだった。
そのまま俺は意識を失った。
気づいたらそこは病院だった。肺炎になってしまって入院だった。興起と美沙はなんどかお見舞いに来てくれたけど、雪子は連絡すらくれなかった。
入院していたせいで春休みはほとんど終わってしまい、集まったり、遊んだりできなかったからこうして美沙の家に集まることになっていたのだ。
「一政……」
気がつくと美沙がオムライスを持って立っていた。どうやら俺はいつの間にか泣いていたらしい。まだ引きずっているんだな。
「ごめん…… わぁ!おいしそう。 冷めないうちに食べようよ。」
「そ、そうだね。これでも頑張ったんだから早く食べて。」
見た目はあまりよくはなかった。だけど、とてもいいにおいだった。
唾液が盛んに分泌されている。
「どう?」
一口食べた俺をみて、美沙が心配そうに聞く。
「これ、本当に美沙がつくったの?」
「そうだけど……」
「すごくおいしいよ、、こんなおいしいもの食べたことない。」
もっと気のきいたことを言ってあげれないのか、俺は。
「ほんとに? ありがとう」
俺の言葉にうそはない。本当においしかった。だけどスプーンが動かせなかった。これ以上胃が受け付けなかった。
「あれから何にも連絡ないの?」
美沙が気を使ってくれている。でも、その話はもうしたくなかった。早く忘れたかった。
「うん。俺振られたんだから、嫌われたんだから」
「そんなことな……」
「そうなんだよ!」
ついカッとなってしまった。ほんとは俺だってそうは思いたくない。だけど早く認めないといけないんだ。
「ごめん」
美沙が謝ってくれた。
「俺のほうこそ、ごめん」
スプーンの音だけの沈黙。それを破ったのは美沙だった。
「私じゃだめなのかな?」
「えっ?」
あまりに突然だったので思わず聞き返してしまった。
「私が雪子の代わりじゃ、だめなのかな」
何を言ったらいいのか分からなかった。きっと冷やかしに違いない。学年1の美女が俺なんて、絶対にありえない。だけど美沙の顔は本気だった。今まで見たことのないくらい赤い顔だった。そんな顔を見てどきっとした俺がいた。ちょうど1年前と同じような感じだった。
「ずっと一政のことが好きだったの。だけどね、雪子のことを聞いてあきらめようとした。でも無理だった。忘れようと思えば思うほどますます思いが強くなっていったの。
一政が振られたことをきいて、私喜んでた、これで私のものよって。最低でしょ。今日だって興起にはいろいろうそ言って来ないでもらったの。本当に悪いやつだとわかってるけど我慢できなかった。
雪子の代わりでも、次に好きな人ができるまでのつなぎでもいいから」
「たぶん、もう好きな人ができたと思う」
「えっ?」
今度は美沙が驚いた。
「ちょうど1年前と同じ感覚だった。まだ、2ヶ月しかたってないのに浮気性なやつだっていわれるかもしれないけど」
「そうなんだ」
美沙は今にも泣きそうだった。
「俺は美沙が好きだ。今さっきの赤い顔を見て一目ぼれしたんだとおもう。それに美沙は悪い人なんかじゃない。俺のことを思って今まで言わないでくれたんだから。美沙はとっても優しいよ。一緒にいると心が和むというか癒される。だから俺はもっとそばにいたいんだ。自分勝手な考えだけど、だめかな?」
なんてことを言ってるんだよ。自分でも気持ち悪い。だから振られるんだよな。
「一政!」
美沙がばっと抱きついてきた。みるみるうちに顔が赤くなっていく。俺もゆっくりと美沙の背中に手をまわす。
「ありがとう…… ありがとう……」
美沙は泣きながらそういっていた。俺はもっと強く抱きしめる。
「お邪魔するよ~。美沙、さっきは俺が悪かったから許してくれ、ほんとにごめん。これからはちゃんと空気を読める男になれるように努力するから。頼むから一緒に食べさせてくれよ、俺の分はもってきたか……」
興起は二人をみて、持ってきたコンビニ弁当を落として、その場に立ちすくんだ。