第51話 策謀の商談
「お初にお目にかかります、偉大なる女王陛下」
やって来たのはいかにも善良そうな商人達だった。
けど、だからこそ怪し過ぎた。
「ようこそ、初の来訪者である貴方達を歓迎します」
私の代わりにアドルネルとダークエルフの長が応じる。
なんでも身分の差が大きいとき、偉い人は自分で喋らずかわりに家臣が間に立って受け答えするんだって。
人間社会のマナーって面倒だねぇ。
「歓迎して頂きまことに感謝いたします」
全然歓迎してないぞー。見ろダークエルフの長なんて顔は澄ましてるけど不機嫌な気配を隠そうともしてない。
凄いな、ただの商人がよくこれだけ堂々としていられるもんだよ。
本当にただの商人だったら。
やっぱりアドルネルの言う通り、正体は何かしらの組織の人間なのかな?。
「まずはこちらを。女王陛下の為に厳選した我々からの貢物でございます」
彼等は荷物を開けて幾つもの財宝を広げて見せる。
「これは!?」
「なんと!」
お宝を見てアドルネル達が驚きの声を上げる。
どうやら凄いお宝っぽい。
驚くアドルネル達に商人達はドヤァと自慢げだ。
そして私にどう? 凄いでしょ? という視線を向けてくるのだけれど……
「ふーん」
私にはどうもピンとこなかった。
うーん、金目のものっぽいんだけど、正直価値がさっぱりわからん。
魔物生活が長かったし、そもそも住んでいた世界が違ったので、異世界人の凄いお宝の価値観がさっぱりなのである。
あと前世じゃかなり貧乏だったので壺とか絵画とかの良し悪しも分からん。
唯一宝石だけは金目のものと分かるんだけど……宝石はなぁ。
あの頃私が目にした高級品といえば、どれもこれも偽物だったんだよねぇ。
父親が高額な芸術品を仕入れて高値で売るぞとか言って買った絵も、壺も、宝石も、びっくりするくらい偽物ばっかりだったんだよね。
おかげで仕入れに使った借金の返済に私がどれだけ苦労したか。
いやそれはいい。前世のカツカツな生活を思い出すと悲しくなってくる。
ともあれ、前世で貧乏だった私は、芸術やお宝と言われてもまったくピンとこなかったのである。
なのでぶっちゃけ凄いって思うよりそれ本当に本物なのかって思いの方が強くなっちゃうんだよね。騙された身としては。
「……す、素晴らしい財宝なのです……よ?」
そんな切ない経験が功を奏したのか、商人達は私の反応が芳しくない事に戸惑う。
「そ、そうです、貢物は財宝だけではありません! お前達、アレを!」
商人が声を掛けると、やたらとガタイの良い従業員が鎖に繋がれた人達を運んでくる。
「こちらの奴隷達は吸血鬼である女王陛下への貢物です。血を吸うなりもて遊ぶなり好きにお使いください」
う、うわー、そう来たかぁ!
確かに私は吸血鬼だから人間を食料として差し出すのは分からないでもないけどさぁ、同じ人間でしょ!?
悪党にとって他人、特に奴隷なんてどうなってもいいって価値観なんだろうけど、元人間としては実際に見るとドン引きですよ。
ほらー、アドルネルもめっちゃ軽蔑してる空気出してる。
「若い子供から見目麗しい女まで取り揃えてありますよ」
メニューが豊富とかそういう問題じゃないんだわー。シンプルにドン引きしてるんですよー。
うーむ、この商人達、完全に空回りしてらっしゃる。
いや、普通の悪辣な権力者や吸血鬼ならこれで喜ぶのかなも?
でも私とは完全に感性が違うんだよね。
どーしよっかなぁコレ。
「……価値ある貢物大義です。それで? 貴方達の要望はなんですか?」
私がどうしたもんかなぁって思っていると、アドルネルが機械的な対応を見せる。
「我々にこの国で商売を始める許可をください」
彼等の要求は思った以上にささやかなものだった。
「この国は人間と敵対的な種族、いえ、人間を憎んでいる種族が大半を占めています。それを分かっての発言ですか?」
「だからこそ商機があるのです。他の商人は誰もこのような真似はできないでしょう。女王陛下の許可を頂ければすぐにでも店を開きたいと思っております」
あーなるほど、私が許可したとあれば、ある程度は抑止力になるだろうって考えな訳か。
アンデッドは私が命じなければ襲わないだろうし、魔物達も私が許可したって言えば私の顔に泥を塗る訳にはいかないから迂闊に襲うことも出来ない。
安全の為に沢山の貢物を送って来たって事だね。
「では……」
「それは……」
アドルネルと商人達は互いの都合と要求を詰めてゆく。
聞いている感じではこちらを騙そうとしているようには思えない。
単純にいち早く店を開く事で先手を取りたいといったくらいだ。
「でも、堂々とし過ぎてるんだよなぁ」
そうなのだ。いくら護衛が要るとはいえ、相手は国を滅ぼした化け物だ。
たかが数人の護衛ごときでどうこうなる筈がない。
知恵を持つ相手なら交渉が出来ると判断したとしても、こちらはかつての住民をのきなみアンデッドにしたのだから、自分もそうなると警戒するもんだろう。
なのに、この商人達からはそういった普通の人間が抱くであろう恐れを一切感じさせななかったのだ。
要望に関してもアドルネルに詰められて「そ、それは……」とか「かないませんなぁ」とこちらの隙を付いて有利な交渉を得ようとして失敗してる空気を出したりしてるんだけど、どうにもおかしい。
なんていうのかな、余裕を感じるんだよね。
吸血鬼や人間を敵視する種族のど真ん中に来て、命の危機に晒されながらも商売をなんとか成功させようって言う必死さを感じないんだ。
「……これは舐められてるな」
多分これ、目的は国内での商売じゃないな。
そんな気がする。
「女王陛下、いかがなさいますか?」
「ん?」
一通りの話を終え、アドルネルが私に最終的な決定を尋ねてくる。
一瞬女王様呼ばわりにびっくりしたけど、そりゃそうか。他所からきた人間の前でお姉様呼ばわりするわけにもいかないもんね。
「んー、いいんじゃない?」
「おお! ありがとうございます!」
私の気のない返事に喜びの声を上げる商人達。
でも次の瞬間彼等は凍り付く。
「気に入らなかったら潰せばいいだけだからね。店ごと全部プチッと」
「え?」
それは店を取り壊すと、商売を禁止する意味かという視線を送って来たので、勘違いを正しておく。
「グチャッと何もかも綺麗に潰して整地するって事。疑わしいと思った時にいちいち調べるのも面倒でしょ? 最初から何も無かったことにすれば調べる手間も省けるから。そう思わない?」
「……は、はは。そうですね」
私の発言にようやくここが吸血鬼の懐だと実感した商人の空気が変わる。
表情こそにこやかな笑みを崩していないが、気配に怯えが混ざったのを感じる。
そりゃそうだ。後ろめたい事をしてもうまく隠せばいいと思ってるところで、疑った瞬間に問答無用でぶっ殺すね。証拠とかどうでもいいからと言われればそりゃ驚くよね。
でも、それが邪悪な吸血鬼とやり取りするって事だと思うんだよね。
うん、やっぱりお城の先生の言っていた事は正しかった。
吸血鬼は舐められたら駄目。殺意マシマシで威嚇しないとね。
「君達の商売が上手くいくと良いね」
私はにっこりと笑顔で商人達を応援する。
「せ、精いっぱい努力いたします……」
とまぁ、そんな感じで初の来訪者との交流は無事終わりを告げたのだった。




