第50話 建国前のお引越し
「うっひゃー、めっちゃデッカイなー」
眼下に広がる広大な城下街を、そしてその中心に聳える城を見ながら私は呟く。
私達はフェネシアの町を出て、王都へとやってきていた。
その目的はお引っ越し。
「復興もかなり進んでいますね。これならもう移住しても大丈夫でしょう」
そう、王都へのお引越しである。
建国式典を行うにあたって、城と式典会場が必要になったんだけど、流石にフェネシアの町に新しく城と会場を作るのは流石にアンデッド達の作業速度があっても難しい。
というか大規模な建物を建てられる建築家が居ないからね。
そういうところはやっぱり勢力の大きい人間の領分なんだよなー。
「せめてドワーフでもいれば話は別だったんだけど」
残念なことにドワーフはエルフと並んで親人間派の種族だ。アンデッドの所には来てくれませんでした。
だから最初からある施設を再利用する方向で引っ越しが決まったのである。
といっても王都は人間達の内乱でボロボロになっており、修復が必要だった。
あと王城も日光の通りが良い為、アンデッドである私が暮らしやすいように遮光を考慮した建物へと改築をすることになった。
一から作るのは大変だけど、増改築くらいならダークエルフや亡命してきた種族達でも問題ないらしい。
「不格好な部分にはアラクネ達の作った高品質なタペストリーで隠すみたいです」
アドルネルの言う通り、城下町で作業している住民達の中には遠目で見ても人間とはかけ離れた異形の種族の姿が見える。
下半身が蜘蛛の種族アラクネだ。
他にも下半身が蛇の種族ラミアなども見える。
「いろんな種族が居るから、道はしっかり舗装しないとだね」
「そうですね。人間と足の構造が違う種族は特に道の影響をうけますから」
他種族が共生することになった王都は、増改築の影響で面白い構造になっていた。
例えばアラクネ達は蜘蛛の特性がある種族だから、家も蜘蛛の巣を張るのに便利な形になっている。
彼女達の巨体が入る様に入り口のドア自体が大きく、中は部屋ごとに区切られる事無く支柱だけが建っている。代わりに壁や支柱を利用して部屋代わりの蜘蛛の巣がそこかしこに張られているのだ。
ラミアは半水棲の種族なので、彼女達の生活エリアは用水路の近くになっていた。
彼女達の家には床と水路が交互に入り組んでいて、外の水路と繋がっている。
船のドックみたいな感じの家と言えば通じるだろうか?
ゴブリンやオークは大家族で暮らすので、大きな家に多人数で住んでいる。
こちらもやはり家の中の仕切りはなく、共同生活をする種族ならではの家って感じだ。
寧ろ人間が特別パーソナルスペースを大事にする種族なのかもしれない。
まぁオークは体が大きいから、小さな部屋は逆に不便だからかもしれない。
ともあれ、ゴブリン達もしっかりした構造の自分達の家を持てる事にはかなり喜んでいて、他種族の指示をしっかり聞いて自分達の家を改築していた。
「こうしてみると、教育を受けていないだけで魔物と呼ばれていた他種族も知的な種族なんですね」
と、眼下で楽しそうに働く多種多様な住民を見てアドルネルが感慨深そうに呟く。
「まぁ人間だけが知的種族って訳じゃないからね。文明の進み方が早いか遅いかの違いだと思うよ」
現に前世の世界でも私達が電車に乗って電気の付いた家で快適に暮らしているなか、今も原始人みたいな暮らしをしている部族は居たからね。
「まぁ、実際にはそういうのはヤラセで、実際には観光地のスタッフよろしく原住民演技してるらしいけど」
テレビであの民族の本当の姿みたいな番組を見た時、定時になったらTシャツとジーパン来てスマホ片手に本当の家に帰る原住民の人が映された時はお、おう。まぁそうだよねって思ったもんである。
ともあれ、かつて人間達の町であった王都は、多くの異形種族達の町へと変貌を遂げていた。
そして中心に座する王城は、私が暮らす為に窓と言う窓が蓋され、ついでになんか城の外壁も真っ白に塗られていた。
「吸血鬼の城って言うんだから、黒とか赤かと思ったのになんで白?」
寧ろ白って聖なる存在の色だと思うけど。
「お姉様が純白の吸血鬼ですから、人間達への嫌がらせも兼ねて純白に塗りました」
「成る程」
そういえば私って真っ白だったわ。
自分の姿ってなかなか見る機会無いから、うっかり忘れてたよ。
吸血鬼は魔鏡で見ないと姿が映らないしね。
◆
「それにしても王城はよいですね。書庫の蔵書量が屋敷とは比べ物にならないくらいあります」
王城の書庫を見上げながらアドルネルがうっとりした眼差しで無数の本達を眺める。
実際、書庫は前世の県立図書館並みの量の本が所蔵されていた。
「内乱でこの書庫が焼かれずに済んで本当に良かったです」
どうもアドルネル、家族からないがしろにされていたこともあって、唯一の外的刺激だった本が趣味といえるものだったらしい。
もっともこの子の場合、読む事を許される本の種類がかなり限定されていたっぽいんだけど。
それも影響しているのか、どんなジャンルの本も自由に読めるようになった今、すっかりアドルネルは立派な読書っ娘に成長していた。
王都の運営をしている時以外は常に本を持ち歩き、私と居る時も本を手放さない。
そんなに本を読むのが楽しいのなら、わざわざ私の傍に居なくてもいいと言ったんだけど、それは嫌だと断られてしまった。
「本を読むのは私の趣味ですが、お姉様の傍に侍るのは私の生きがいですので」
なんだ生きがいって。
まぁアドルネルがそれで良いならいいけどさ。
ともあれ、そんな感じで私達の新生活は大きなトラブルが起きることなく流れたある日のことだった。
「商人?」
国の外から商人の集団がやって来たと報告が入った。
「はい。我が国の建国式典の話を聞き、是非救い主様に御目通りがしたいとの事です」
「商人ねぇ」
人間と敵対的な種族の国に来るとか、絶対普通じゃないよね。
「どう思う?」
考えるのも面倒なのでアドルネルに振ってみる。
「そうですね。この状況で接触してきたのですから、間違いなくどこかの国の機関のものか、何かしらの後ろめたい組織の人間でしょう」
「あー、裏社会の人間とか?」
「その可能性が高いかと」
まあ魔物や邪悪な種族とつるむと言ったら、悪党と相場が決まってるもんね。
「どうしようねぇ」
「会ってみても良いのでは? お姉様を倒せる者などそうそういるとは思えませんし、そのつもりであったとしても夜の吸血鬼相手に真正面から挑む愚を犯すとも思えません」
まぁ普通はベリーハードモードで命を懸ける奴なんていないよね。
「おっけ、んじゃその商人達と会ってみようか」
この商人達との出会いが、私を新たな騒動に巻き込む事になるとはこの時の私は思いもよら……いや、嘘です。まぁなんか起こるだろなって思ってました。




