第44話 最近影が薄かったもんね……いえなんでもないです
なんか、ミイラ一号が凄い。
シュパン、スパン、サクッ、シュピッ
軽快な音を立てて向かってくる騎士や聖騎士達を真っ二つにしながら敵に向かって歩いてゆくミイラ一号君。
身体強化で漫画みたいな速さで襲ってくる彼等を、しかしミイラ一号君は普通の人間の速さで躱し、更にすり抜けざまに切り裂いてゆく。
「なにアレ」
その動きは見えるのに理解できない。
いやよく見て観察すればああ成程ああやって動いているのかと分かるんだけど、それでも最小限かつスレスレの回避なので、よく見てないと彼が全く動かずに攻撃がすり抜けているようにすら見える程だ。
ただギリギリで避けてるだけじゃない。動きが異常に滑らかなんだ。
なんていうか、レースのコース取りみたいに、体を動かす為の最短ルートを通っているようなコンパクトな動きって言えばいいのかな?
これ多分吸血鬼の動体視力だから見えてるのであって、普通の人間には理解できないんじゃないかな……
「ならば!」
と騎士達が距離を取って一斉に魔法を攻撃を放つ。
更に時間差で騎士達が剣を構えて突撃する。
魔法の同時発射かつそれを回避した直後を狙った時間差攻撃!
「不味い、避けて!」
それが無理なのは言った自分が一番理解している。
しまった、あまりにもミイラ一号君の戦いが凄いから傍観してたけど彼自身はただのグール。物凄く早く動けたり防御力が凄く高いわけじゃない!
あんな一斉攻撃を受けたら……
「チャキッ」
ミイラ一号君が剣を斜めに構える。
その構えは被弾覚悟で当たったらヤバイ攻撃だけを防ごうとしているのか。
だとしてもその後の騎士達の一斉攻撃には耐えられない。
「スッ」
パァン!
何かが爆ぜるような音と共に、ミイラ一号君に命中した魔法がはじけ飛んだ。
「「「「え?」」」」
思わず声が出た。
私も、騎士達も。
更にミイラ一号君はくるりと回りながら剣をユラユラと震わせると、何故か全ての魔法がパァンパァンと音を鳴らしながらはじけ飛んだ。
「え? え? え?」
何今の!?
あまりの事に私だけでなく騎士達も動揺する。
そしてそれがいけなかった。
動揺で一斉攻撃のタイミングがずれてしまったのだ。
シュッ、スパン、シャッ、ズサッ、ドシュ!
タイミングのずれた攻撃を一つずつ対処しながら騎士達を切り裂き、更に切られてバランスを崩した騎士が正反対から向かってきた騎士にぶつかって攻撃を不発に終わらせる。
中には切られた事で動きを誘導され、互いの剣で同士討ちする騎士達まで現れた。
「……うわぁ」
そうしてお互いの体や攻撃が邪魔をしあった結果、騎士達は半壊状態。
急ぎ立て直そうとしているところをミイラ一号君がユラリユラリと歩きながら止めを刺してゆく。
そんな彼の動きを見ながら、私は今の一連の流れを思い出し何が起きたのかを推測する。
「最初の魔法の一斉攻撃、同時に消滅するんじゃなくて、順番に音が鳴ってた。って事はあれ、実際には同時じゃなくてズレがあったって事?」
おそらくだが、騎士達の魔法攻撃はタイミングがずれていたんだろう。
それぞれが使った魔法の種類によって、発動のタイミング、発射後の速度など。
火の魔法と風の魔法と氷の魔法なら、風の魔法が一番早く届くんじゃないかな。
だから早い魔法から順に対処したんだろう。
「でも魔法自体はどうやって消滅させたんだろう。彼は魔法を使えないし……あっ、魔剣!」
なるほど、魔剣を使ってどうにかして魔法を消したんだ。
凄いな魔剣。確かに不思議な力を持った魔剣なら魔法を打ち消すことが出来てもおかしくない……おかしくないよね?
「いやでも騎士達も驚いてたし、もしかして普通の技術じゃない?」
だとしたらミイラ一号君の技術がヤバ過ぎって事? いや実際にヤバいけど。
「っていうかさ、相手はさっきの崩落で生き埋めになったにもかかわらず生還するような化け物なんだよ。それを剣技だけで圧倒とかどんだけ!?」
そういえば、あの時の騎士がミイラ一号君に対して剣聖って言ってたし、本当にそのくらい凄い剣士だったって事?
「ますます謎が深まるなぁ」
その強さを知れば知るほど、何故彼が仲間に裏切られたのか気になる。
グールになってる今の彼は明らかに弱体化してるはずだ。
そんな今でさえこの強さなら、敵対しないように懐柔する方が賢くない?
結局、生き残っていた騎士と聖騎士達はほぼ全員がミイラ一号君一人に倒されてしまったのだった。
「って、私の出番なかったじゃん!?」
いや楽できるし痛い思いしなくていいのは良いんだけどね!
でもなんかちょっとモヤモヤするーっ!!




