第39話 史上最大の連合軍と王様の胃
◆国王◆
「ようやくか」
余は集結した軍勢を見て、万感の思いではなくようやくかという呆れの感情を抱いていた。
「何が時間との勝負だ。むしろ敵に時間を与えたのではないか?」
フェネシアの町を支配した吸血鬼との戦いに挑んだ王国貴族の連合軍が大敗を喫した事で、余は周辺国を巻き込んで複数国家による連合軍を作り上げる事を決意した。
全てはあの恐るべき呪海大公の娘を討伐する為に。
王国の歴史を語るうえで呪海大公の名は避けては通れぬ。
我が国の領土を含む大陸西部の土地では多くの国が興っては滅びた。
だがその滅びは侵略や内乱よりも、報復で滅びた数の方が圧倒的に多い。
それが、大陸西部に広がる大呪海を領地とする吸血貴族呪海大公ヴォイラード・クロムシェルに戦いを挑み敗北した事が原因なのだ。
たった一人の吸血鬼とその配下達によって、いくつも国が滅んできたのだ。
歴史書によれば、今の我が国よりも遥かに大きな国が滅んだとの記述もある。
「だからこそ大呪海には触れぬようにしてきたというのに……」
呪海大公は自分の領地から出る事はない。それだけが唯一の救いだったというのに、まさか娘が存在していたとは……
「それでも、これ以上吸血鬼の専横を許すわけにはいかん。各国に貸しを作ることになっても、やるしかないのだ!」
幸い、呪海大公による災害が起きた時は各国で強力するという盟約が我等にはあった。
だが今回の対象は呪海大公本人ではなくその娘と言う部分が交渉を困難にした。
本人ではないのだから、それよりは弱いだろうと言ってきたのだ。
そして各国はここぞとばかりに我が国の足元を見ていた。
「ああ、思い出すだけでも腹立たしい」
そして物凄く胃が痛かった。
連中はあの手この手で交渉を遅らせる事でこちらの譲歩を引き出そうとした。
そんなことをしている間にも相手は着々と戦力を蓄えているというのだ。
おかげで余の胃も更なる痛みを蓄えてしまったわ。
理由は分かる。連中は呪海大公の娘が領地の範囲を定めるかもしれないと考えているのだ。
親である呪海大公は何百年も自分の領地を広げるそぶりを見せなかった。
だからその娘も現在制圧した領地よりも領土が増えないのではないかと期待しているのだ。
もしそうなれば損をするのはわが国だけで、他国にとっては同盟国という名の仮想敵国の国力が下がって攻めやすくなるという事なのだから。
「そんな期待をしてよい相手ではないと何度言わされた事か!」
業を煮やした余は教会にも協力と仲介を申し出た。
教会は死してなお活動するアンデッドの存在を認めておらん。
だからこそ強大なアンデッドが居るとなれば率先して討伐に赴くのだが……
「呪海大公の縁者と知った途端尻込みはじめおった」
話を聞いた当初はどんなアンデッドだろうと神の威光を示してくれると息巻いておった連中だったが、相手が呪海大公の娘と聞いた瞬間、及び腰になりおったのだ。
結局教会総本山に時間と金をかけてでも弱腰な姿勢を告げ口する事で、近隣の教会はしぶしぶ腰を上げた。
「にもかかわらず連合軍に参加しているのは若手の司祭や聖騎士ばかりか」
熟練の司祭が居ない辺り、協力したという体を示したいだけなのだろうな。
「そうしてほぼ1年、ようやく戦力が集まった」
改めて余は集まった軍勢を見つめる。
同盟国三国と教会戦力、そして国の正反対側からくる同盟国二国の合計五カ国+一勢力による大作戦だ。
「現状用意できる最大戦力。ただしまともに指示に従うのは我が国の軍だけか」
他国の軍はあくまでも自分達の総指揮官の命令にのみ従うという態度を崩さなかった。
「我が国の兵士を流れ矢を装って襲ってこなければよいが……」
はぁ、それでもいないよりはマシと思おう。
全ては呪海大公の娘、白蛇公女を打ち倒す為!!
「よし、全軍に出撃命令を出せ!」
「はっ!」
傍に控えていた騎士に出撃命令を出すと、眼下の軍勢から大きな楽器の音が鳴る。
「「「「国王陛下に勝利をっっっ!!」」」」
頼もしい騎士達の雄たけびと共に軍勢が動き出す。
それに伴って同盟国の騎士団と教会の聖騎士団も動き出す。
更に同盟国の騎士団から小さな塊の騎士団が飛び出し、明後日の方向に馬を走らせて行く。
「って、なんだアレは!?」
何でフェネシアの町に向かわないのだ!?
最初は偵察か伝令かと思ったのだが、それにしては塊の数が多いし、明らかに軍勢から離れて行っている。
「どういう事だ!? 説明をさせろ!」
まさかこの土壇場で我が国を裏切って侵略するつもりかなのか!?
戦々恐々とした思いで報告を待っていると、使いに出した騎士が戻ってくる。
「陛下、同盟国から離脱の理由を問いただしてきました」
「うむ、それでどうだったのだ?」
「はっ、それが軍勢に参加した領主達の領地がアンデッドの軍勢に襲われ、領土を守る為に慌てて撤退したとの事です」
「…………はぁっ?」
同盟国の領土が襲われただと!?
これが、王国史に刻まれる最悪の事件の始まりであった。
ああ、また胃が痛くなってきた……




