第38話 コウモリ軍団の偵察大作戦
「「「「行ってくるでちゅ、ご主人ちゃまー」」」」
夜の空を、無数の吸血コウモリ達が飛び立つ。
「気を付けてねー!」
彼等は私が生んだ眷属の吸血コウモリ達だ。
割とポコポコ生み出すことが出来たので、色々と仕事を任せる事にした。
ちなみに総指揮はソルフィに任せてある。
「私に任せるでちゅご主人ちゃま! しっかり監督するのでちゅ!」
吸血コウモリ達の仕事は主に二つ。
一つはフェネシアの町周辺を偵察し、敵対勢力の発見や仲間達の狩りの手伝いをする事。
そしてもう一つは国中に散って貴族達の動向を調査する事だ。
吸血コウモリ達は色んな町に潜ませ、人々の話し声に耳を傾ける。
残念なことに吸血コウモリ達は戦闘力がかなり低いので、万が一見つかって戦闘になったら勝ち目がないので、基本は物陰に潜ませて会話を聞くことが仕事になる。
「それでは我々も向かいます」
「うん、よろしくね。危ないと思ったらすぐに逃げてきて良いから」
「お任せください!」
次いでダークエルフとその護衛のアンデッド達が各地に散ってゆく。
「吸血コウモリ達はあんまり頭が良くないから、皆には苦労かけちゃうなぁ」
残念ながら吸血コウモリ達に手に入れた情報を取捨選択する能力は無い。
何せ試しに近隣の町に偵察に出したら、最近野菜が高いとか、近所の奥さんと若い旅商人が浮気してるとか言った戦いに無関係な情報を拾ってきちゃうのだ。
「ですが全くの無意味という訳ではありませんね。食べ物の値段などはその土地がどれだけ裕福か否かが分かります。平民の貴族への恨みを煽るもよし、弱っている領地を狙って襲うも良しです」
だけどアドルネルにとってはそんな情報でも利用価値があるようだった。
そこで吸血コウモリ達が集めた情報は、地上経由で現地に向かったダークエルフ達に伝えられ有用な情報のみを選んで手紙にしたためて貰うことにしたのである。
そうして出来上がった報告書を、連絡用の吸血コウモリが運んで来るという仕組みだ。
なので吸血コウモリには「偵察」「諜報」「連絡」の三つの役割に分けて運用する事になる。
更に各地に飛んだ彼等には他に重要な役割があるんだけど、まぁそれについてはおいおいという事で。
「さて、情報が届くようになるまで時間がかかるし、その間にこっちで出来る事もしておかないとね」
◆
「ご主人ちゃまー! 報告を持って来たでちゅー!」
あれから数週間。各地に送った吸血コウモリ達から報告が届いた。
「へぇ、全然攻めてこないと思ったら、主導権争いをしてたんだ」
私に敗北した人間達は、あのあと戦力の立て直しと更なる戦力を集める為に奔走しているようだった。
ただ、そんな危機的状況でも彼等は権力争いを始めてしまい、それが原因で足並みがそろっていないようだった。
「あー、外国がちょっかい出してるのか。そりゃあ面倒なことになるわ」
どうやら国内だけじゃ足りないからと外国にも協力を要請したのが更に状況を悪化させているらしい。
「他人事だからとこの国の足元を見ているようですね。愚かなことを。高位吸血鬼が相手の場合は迅速に対応しなければ被害は広がるばかりで、立地によっては自分達にも深刻な影響が出るというのに……ああ、だからこそなのね」
「ん? どういう事?」
各国の貴族の欲深い行動をあざ笑っていたアドルネルだったけれど、ふと何かに納得をする。
「はい、周辺国の危機感の無さはこの町の立地が原因だと思われます。この町は我が国の中央に近い位置にあります。ですので周辺国からすると今すぐの危険はないんです」
ああ成程、自分の国から近いのなら、こっちに危険が迫る前に倒せるだろって余裕が出ちゃうのか。
「ですから彼等は自分達の国にとって危険と判断する距離まで諍いが広がらない限り、交渉を引き延ばして少しでも有利な取引を目指すでしょう。最初に大きく吹っ掛け、その後刻むように要求を下げていくでしょうね」
ということはまだまだ時間的余裕はありそう。
「なら、周辺国が気づかないようにもっと戦力を増やしておきたいねぇ」
「ええ、そうですね」
ニヤリと私達は笑い、新たな作戦を実行する事を決めた。
◆
「お姉様、連合軍がそろそろ動きそうです」
結局人間達が動いたのは年が明け、更に春の農作業を終えてからだった。
「冬場は雪が降って軍を出せないからとゴネて、春は畑に種を植え付けるので忙しいからとか言って随分引き延ばしたよねぇ。まぁそのおかげでこっちも準備万端なんだけどさ」
さーて、それじゃあ私達の戦争を始めようか!
「まぁ、負けたら負けたでその時は逃げれば良いだけだしね」
なにせこちとら負けても命さえあればいくらでも戦力を再建してやり直せるからね!
ああ、そう考えると吸血鬼って反則的存在なんだなぁ。




