第36話 種族の力を測ってみよう
「ごちゅじん様、ゴブリン部隊が第三拠点まで進行ちました!」
吸血コウモリのソルフィの報告を受け、私は眼下の町を見る。
「へぇ、結構、というかかなり早いね」
「ええ、まさかゴブリン達がここまで優秀だとは思いませんでした」
私達は街中で戦う皆の戦いを見ていた。
と言うのも、アドルネルのある発言がきっかけだったからだ。
「各種族の能力を確認したいんですが」
「能力?」
「はい。お姉様の威光に縋って幾つもの種族がお姉様の下に集まってきました。しかし私達は彼等がどの程度戦えるのか分かりません、なので彼等を戦力として組み込む場合、その実力を把握しておく必要があります」
「成程、それは確かに」
という訳で新たに仲間となった種族達による市街戦をしてもらうことにしたのである。
流石に真剣で戦うのは危険なので、騎士団の訓練場にあったものを使う事にした。
幸い3種族とも、自分達の実力を示す良い機会だと快く了承してくれた。
「ここで勝てば組織内での格付けに繋がりますからね」
うーん世知辛い。
「内容としては町の中を利用した陣取り合戦です。城の役割をした建物の中にある旗を先に取った方の勝ちです。適性を確認する為、一つの種族だけで構成された『接近戦闘』『遠距離戦闘』『斥候』『防衛』の4つの役割のチームを3つずつ作ります。各チームは4人1組にしましょう」
つまりダークエルフなら4人で構成された3チーム計12人が4兵種で合計48人って事だね。
で、それが3種族分だから144人と。
「結構な大人数だねぇ」
「今後の戦争を考えると全然少ないですけれどね」
という訳で彼等の戦いを見ていたんだけど、意外だったのがゴブリン達の動きの良さだった。
彼等はガレキや木箱などを利用して軽業のように建物の屋根に上ると俊敏な動きで街中を動き回り、一気に敵陣営の城に近づいてゆく。
なるほど、小柄な分ああいったサルみたいな動きが得意なんだね。
「逆にオークは一番遅いね」
まぁ見た目が太ってるからなぁ。スピード勝負で勝つのはちょっと難しいよね。
そしてダークエルフは二番手といった感じ。
「ただ単純な足の速さはダークエルフの方が早いですね。ゴブリン達の進みが早いのは彼等は身の軽さを利用して他の種族が使えないルートを利用できるからですね」
しかし当然ながらゴブリン優勢のまま終わる事はなかった。
城に忍び込もうとしたところを巡回していたダークエルフの防衛部隊に見つかってしまったのだ。
更にゴブリン達が戸惑っている間に援軍を呼ばれ、オークの部隊もやってきてしまった。
「こうなると体格で劣るゴブリンは辛いですね。軽い武器しか使えない彼等では体格の良いオークを倒すのは難しいです。毒でも使えれば話は別ですが」
実際、ゴブリン達はオークとダークエルフの部隊にあっさりやられてしまった。
「やはりゴブリン達を直接的な戦力として使うのは現実的ではありませんね。ただ進行速度の速さから障害物のある場所での密偵には非常に向いていますね。体が軽いですから騎馬兵として教育するのも良いかもしれませんね」
「ならウルちゃんズに乗せてみる?」
サウザンドウルフのウルちゃんズなら、ゴブリン達の小柄な体を乗せる馬役にぴったりだろう。
「ああ、それは良いかもしれませんね。それなら平原でも騎馬兵相手に逃げきれそうですし、弓を持たせれば戦力としても期待できるでしょう」
なんて話をしている間にも戦闘は進んでゆく。
「やっぱ接近戦だとオークは強いね。筋肉と脂肪が天然の鎧になってるし、なによりパワーがある」
3種族の中だとオークが一番力があるね。下手に攻撃を喰らったら危ないからダークエルフもゴブリンも真正面から戦うのを避けている。
「彼等は人間では装備できない重装甲の鎧と盾を纏った主力部隊と防衛部隊になってもらうのが良さそうです。足の遅さをものともしない鎧に守られて確実に近づいてこられるのは恐怖でしょう」
確かに、堅牢無比な要塞に足が生えてやってくるようなものだもんね。
「ただやはりダークエルフが総合力で優れていますね。バランスの良い身体能力、魔法による遠近問わぬ攻撃力は素晴らしいです。何より、戦場での作戦立案能力が一番優れています」
高所からの俯瞰で戦場を見ていると、各部隊の動きが分かる。
一番単純に動くのはオークたちのチーム。
どの部隊もとにかくパワー&突撃って感じ。
当然そんな考えだと他種族のチームの囮行為に引っかかって見事につられて部隊を動かしてしまう。
「それでもゴブリン相手なら全然勝てちゃうね」
「こればかりは単純にオークの方がゴブリンよりも強いから仕方ないですね。罠などの事前準備ありならまた別の結果だったかもしれませんけど」
次いでゴブリン達のチームは自分達の弱さを知っているのかやや臆病に相手の様子を見るような動きを見せている。
この臆病さが上手く働いて偵察部隊の進行速度の速さやオーク相手の囮作戦が上手くいっているけど、単純な戦闘力の低さが邪魔するのと臆病さが他の兵種の行動にも出ていて、いまいち活躍できない。
「城に侵入する部隊を2つ用意して、片方を囮にすればゴブリン達が速攻で旗を手に入れるチャンスもあったんですけどね」
そんな中、ダークエルフの部隊だけは職種を問わず隊の動きを状況に合わせて柔軟に変えていた。
「やはりBランク冒険者相手にも勝てる種族なだけあります。格付けという意味では彼等が筆頭ですね。私以外では」
何故そこに自分を入れた? 君戦えんでしょ?
ともあれ、見事旗を手に入れたのはダークエルフのチームだった。
「負けはしたけど、もう1方の軍でも旗に一番近かったのはダークエルフの部隊だったね」
「はい。各種族の強みと改善が必要な個所もおおかた見つかりました。これをもとに正式な部隊分けと訓練を行おうと思います」
「うん、よろしくね」
これで更に戦力が強くなるといいんだけどね。
「ごちゅじん様~、皆に戦いが終わったって伝えてきたでちゅ~!」
「お疲れ様~。偉い偉い」
「えへへ、余裕でちゅ」
伝令役を終えて帰って来たソルフィの額を指でコリコリと掻くように撫でてやるとると額を細めて嬉しそうな声を上げる。
「ところでソルフィなんか言葉使いが流暢になってない?」
舌ったらずなのは変わんないんだけど、イントネーションがはっきりしてきた気がするんだよね。
「でちゅ! 美味しいご飯をたくさん食べて成長してるのでちゅ!」
吸血コウモリのご飯って言うと私と同じ血だよね。
でもソルフィが生まれてまだほんの数日しかたってないのにそんな急激に成長する事ってある?
「あーでも私の時もふっと気が付いたら自分が『そう』なったんだって気付いたっけ」
吸血コウモリ時代の私に転生したての頃の記憶はない。
ふと気が付いたら自分がコウモリに転生してるって自覚したんだよね。
それはきっとソルフィが言ったように美味しいご飯をたくさん食べて成長したからなんだろう。
まぁ魔物の生態を前世の動物の成長スピードの感覚で考えるのもナンセンスか。
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