第35話 民と死者が集まってきました
「カプッ!」
「うっ」
ダークエルフの長ヨウガに頼まれ、私は彼の血を一族の者達の前で吸っていた。
うん。これはコーヒー味だね。お肉、お魚、スイーツときてドリンクが来ました。
次はサラダかな?
「……はぁ、見たか皆の者。我等は救世主様の庇護を得るが出来た。これで我等は救われる!」
「「「「おおおおおおおおおっ!!」」」」
ダークエルフ達から歓喜の声が上がる。
まぁこれでダークエルフ達が納得するなら別にいいか。
「ギリギリギリ、あの泥棒ダークエルフ……」
そして物陰からアドルネルが愛人を睨みつける正妻みたいなリアクションしてるんですけど……
後で甘やかしておいた方がいいかな。
◆
「え? また新しい種族が来たの?」
「はい、ゴブリンとオーク達が来ました」
ゴブリンとオーク、ゲームではお約束のモンスターだね。
「部下が接触したところ、我々同様に保護を求めております」
「保護かぁ」
というか、ダークエルフが来てから情報説明が楽になって良いなぁ。
独自判断で交渉もしてくれるし。
「バッバッ」
「パパパパッ」
そこのアンデッド達はジェスチャーの腕を磨かなくて良いからね?
というか妙な方向で自主性が生まれている気がする。
グールって最下級のアンデッドだから自我が無い筈だよね……?
「ともあれ接触してみるか。戦力になるなら保護してもいいし」
という訳で私はゴブリンとオーク達の下へと向かった。
◆
「オオ、偉大ナル白キ王よ」
「ドウカ我等ヲオ救イクダサイ」
私は眼前で平身低頭と言った感じで保護を求めて来るゴブリンとオークを見る。
ゴブリンの見た目はゲームでもよくある人間の子供位の大きさをした緑色の肌の人間だ。
ただ、半裸の衣装から見える体がヤバイ。
全身が筋肉に包まれていて細マッチョって感じの外見をしている。
これ、人間が素手でやりあったらヤバくない?
対してオークはデカイ身長2.5メートルくらいの大きさで、全体的に太い。
細めの相撲取りって感じで、武器なんてもう金属製の角材だよ。
武器としての性能が低くても当たれば一発って感じの金属塊。
うん、こっちも真正面から戦ったらヤバそうな感じだ。
こんなのが助けを求めて来るって、この世界の人間ヤバない?
「えーと、君達も人間に襲われて逃げてきた口?」
「ハイ、邪悪ナゴブリンは人間ヲ攫ッテ数ヲ増ヤスカラ絶滅サセナイトイケナイトカイワレテ」
「我々オークモ似タ様ナモノデス」
うえー、人間を攫って数を増やすのか。それは元人間としてヤだなぁ。
「ゴ、誤解デス偉大ナル白キ王ヨ!」
「我々ハ人間ヲ攫ッテ子ヲ産マセタリシマセン!」
私が嫌そうな顔をしているのを見て慌てたゴブリンとオーク達が弁解する。
「勿論デス! 人間ニ子ヲ産マセルナド犬ガ鳥ニ子ヲ産マセヨウトスルノト同ジデス!」
「産マレルハズモアリマセンシ、ナニヨリ我々ニ人間ヲ襲ウヨウナ悪趣味ナモノハオリマセン! アイツラ骨ト皮ダケデスシ」
ああうん、なんかファンタジー的な特別な力でもあるなら全然形の違う異種族とでも子供を作れるかもだけど、普通は種族が違ったら子供なんて出来ないよね。
「ソウソウ、緑ノ肌ジャナイトカ我々的ニ考エラレマセンシ」
更にシンプルにそんな気持ち悪い事出来る訳ないじゃんって言われてしまった。
まぁそれも言われてみれば当然だよね。人間だってそんな事普通しないんだから。
「でもそれならなんでゴブリンやオークは他種族に子供を産ませる事が出来るなんて話が出て来たんだろう?」
「サァ、人間ガ何ヲ考エテイルノカサッパリデス」
これは後に知ることになるんだけど、どうもこの異種族ハーフの問題って、人間社会の男女間のトラブルとかが原因だったらしい。
例えば何故か生まれたばかりの子供の目や髪の色が旦那や奥さんの色と違う時とかね。
はい、不倫相手との子供って事です。
古いご先祖様にそういう特徴を持った人がいたのならまだ誤魔化せるんだけど、それを証明出来なかったらそのご家庭はもう大変。
なもんで苦肉の策として異種族に襲われて子供が出来たという言い訳が出来たんだって。
ちなみにこれは女性側の言い訳だけでなく、男性側が高貴な身分でもあるらしい。
生まれた子供が男の子だと後々継承権の問題とか出てくるから、それを誤魔化す為にも利用されるんだとか。
つまりゴブリン達は人間の醜聞逃れのとばっちりを喰った形になった訳だ。
いやホント切ない真相だね。
「我等ハアナタ様ニ従イマス。ソシテ同胞ノ死体ヲサシダシマス。アンデッドトシテオ使イクダサイ」
そんな事を考えていたら、驚いた事にゴブリン達が仲間の死体を差し出して来た。
「ええ!? いいの? 仲間の死体でしょ?」
「カマイマセン。死ンダラタダの死体デス。弔イハシタノデ問題アリマセン」
ふむふむ、どうやらゴブリン達にとって死体の扱いそのものは重要ではないらしい。
大事なのは仲間の死を弔う事、つまりお葬式の方と。
「我等ノ仲間ノ死体モ使ッテヤッテホシイ。人間ノヒキョウナ策デマトモニ戦ウコトモデキズ無念ノ死ヲ遂ゲタ」
はえー、種族によって死との接し方が違うんだね。
オークはどっちかと言うと侍っぽい考え方かも。
そして仲間の死体までも交渉材料にするくらい彼等が追いつめられている事が伝わって来る。
ここまで覚悟が決まっているなら、彼等にも身を寄せる場所と戦う機会を与えてあげよう。
「いいよ。君達は私が保護しよう」
「オオ! アリガトウゴザイマス白キ王!」
「アナタに忠誠ヲ!」
「ただし。私の部下に人間がいるけど喧嘩しないと約束できる?」
うん、ゴブリン達が無意味に人間を襲わないと分かったけど、アドルネルを敵対種族として襲う可能性はあるからね。
「白キ王ノ部下ナラ問題ナイ」
「俺達モダ」
こうして、新たにゴブリンとオークが私の支配下に加わったのだった。
「そういえばさ、ゴブリンとオークは勘違いと分かったけど、ダークエルフは何で邪悪な種族って言われてるの? 見た目の違いは耳が黒いだけだよね?」
正直これだけで邪悪呼ばわりは流石にないと思うんだけど。
「人間達は我々ダークエルフの風習を嫌っているのです」
「ダークエルフの風習?」
何だろ、邪教の祭りみたいな事してんのかな?
「我等ダークエルフは一人前の戦士の証として儀式を行うのです」
へぇ、そんな事するんだ。成人式みたいなものなのかな?
「儀式を行う者は武具を持たず身一つで集落を出て、最初に出会った同胞以外の生き物を倒して持ち帰る必要があるのです」
「身一つ、って素手で戦うって事!?」
それは流石に厳しすぎない?
「いえ、集落を出る時だけです。集落を出たら自分で石を割って石器を作ったり、罠を仕掛けたりしてかまいません。何なら他種族と交渉して武器を手に入れるのもありです。そう言った臨機応変さも力の一つですから」
成程、結果として初めて出会った獲物を倒せたら良しって事か。
「……あの、その初めて遭った相手と言う部分ですが、それは人間が相手でもという事ですよね?」
と、アドルネルが困惑した様子でヨウガに尋ねる。
「その通りだ。今の我々の場合だと同じダークエルフだけでなく、我が主メルリル様とその眷属は全て同胞になる」
ああ、それなら今後ダークエルフが一人前の儀式を行う時に身内が巻き込まれなくて済むね。
「しかし交渉で武具を得るのも良いのですよね? という事は、交渉する相手とは……」
「ああ、最初に出会った相手という場合もあるな!」
「え?」
「やっぱり……」
え? どういう事? 交渉で武具を譲ってもらった相手を殺すって事?
「つまり集落を出て最初に出会った相手が人間の商人だった場合、武具を買うふりをして奪い取り殺す事があると」
ひえ! 完全に強盗のそれじゃん!
「いや、それは違う」
しかしヨウガはそんな事はしないと断言する。
だよね、流石にそれは邪悪な行い過ぎるわ。
「我々はそのような約定を破るような真似はしない」
「そ、そうなんですね。ごめんなさい。失礼な事を言いました。でもそれならどうやって相手を……」
「ちゃんと対価を支払ってお互い気分良く取引を終えてから、改めて手に入れた武具で殺すとも!」
「「……」」
それはそれでタチ悪いんよ……
笑顔で「良い取引だったね! じゃあ死ね!」とかされたらそりゃ邪悪な種族扱いされますわ。
異文化コミュニケーションって難しいなぁ。
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