第34話 なんか異種族が来ました
今日は朝(夜)から騒がしかった。
というのも謎の一団が町にやって来たからだ。
「あれは……エルフ?」
アンデッド達から報告を受けた私達は、近づいてくる集団の姿を確認する。
彼等が全員が遠目で見ても分かるくらい長い耳をしており、いかにもエルフといった様相をしていた。
「ですがおかしいですね。騎士団にしては統一されていません。武具を纏っている者は、遠目から見える範囲ではですが少数ですし、あきらかに子供も混じっています」
うん、私の吸血鬼アイならハッキリわかるけど、彼等は大人だけでなく子供やお年寄りもいる。明らかに戦えそうにない赤ん坊を背負った女の人もいる事から、攻め込みに来た敵と言う風情じゃない。
何より彼等は……
「皆怪我してるね」
そう、誰も彼もが傷だらけだったのだ。
ここからでも私の吸血鬼ノーズに臭いが漂ってくるくらいに。
とはいえ何が目的か分からないので、アンデッド達は武器を構えて待機させている。
『町の支配者殿に告げます! 我々は敵ではありません』
「おお!? あんな遠くから聞こえて来た!?」
まるで拡声器を使ったような大きな音に私はビックリする。
「魔法で声を大きくしているんでしょう」
ああなるほど、この世界は魔法があるんだもんね。そりゃ戦闘以外の魔法も開発されてるか。
「我々は見ての通り手負いの集団です! どうか保護を願います! 対価として我等ダークエルフは貴方様の手足となって働きます!」
どうやら保護を求める難民だったみたいだ。
「というかダークエルフ? ダークエルフって黒いんじゃないの?」
大体ゲームとかだと全身真っ黒なんだけど、彼等は普通の肌の色をしていてエルフにしか見えない。
「ダークエルフの特徴は耳の黒さにあると言われています。エルフは種族的特徴である耳を誇りに思うそうで、耳だけが黒いダークエルフを良く思っていないのだとか。それにダークエルフは邪悪な種族として人間から疎まれています。そういう日常的な行いも彼等の悪名に繋がっているのだそうです」
言われて確認してみると、成程確かに耳が黒い。
でも彼等の表情を見た感じ、邪悪な種族って感じはしないんだよなぁ。
普通に救いを求めて必死でやって来たって感じに見える。特に子供がね。
「って事は私達を騙す為にやって来たスパイ、密偵じゃないって事だね」
「少なくとも人間やエルフと手を組んでいない事は確実かと」
ふむふむ、ダークエルフという種族が私達を騙そうとしている危険はあるけど、今まさにやり合ってる人間の味方ではないと。
「ダークエルフってどのくらい強いの?」
「具体的な強さは分かりませんが、敵として相対するとBランクの冒険者でも負ける事があるという話を聞いたことがあります」
成程、一流の冒険者が負けるのなら、結構ヤバイ戦力がいる種族っぽいね。
「おっけー、それじゃあ代表だけを招いて話を聞いてみようか」
一人だけなら迂闊な事はしてこないでしょ。
◆
「お招きいただき感謝する。私はダークエルフ、マブ士族の長ヨウガと言います」
ヨウガと名乗ったダークエルフは、私を見て一瞬ビックリするような表情を見せたものの、しっかり90度に腰を曲げて私に挨拶をしてくる。
しかし若いな。前世の感覚で見たら社会に出たての新成人って感じじゃない?
一見すると礼儀正しい青年。でも、私はそんな彼をじっと見つめる。
「……」
「……あ、あの?」
何も言わない私に対し、彼は居心地悪そうに戸惑う。
その目の奥に、後ろめたさを隠して。
「陰の中にいる誰かさん達は挨拶なしって事は、私達を闇討ちするつもりで来たって事でいいの?」
「「「!?」」」
私の言葉にヨウガと、更にそれ以外の誰かが動揺する気配が生まれる。
「も、申し訳ございません! 二人共出ろ!!」
ヨウガが慌てて頭を下げると、彼の陰から二つの影が飛び出す。
そして飛び出した影が盛り上がると二人のダークエルフが現れた。
「うわっ」
ビックリした、何か居るなって感じたけど、ダークエルフが潜んでたのか。
なんかそういう魔法なのかな?
おっといけない、威厳を保たないと。
「一人でって言った筈なんだけどね」
「め、めっそうもございません! 我々は長の護衛の為についてきたのです!」
「お許しを! 我等が強引に長の陰に潜んだのです!」
と、現れたダークエルフ達は即座に土下座を始める。
異世界でも謝罪の最高位は土下座なんだなぁ。
「もう一度言うよ。私は一人で来いって言ったんだ。敵対する意思はないって話だったよね? なのに部下を影に潜ませてた。本当は私を倒してこの町を奪うつもりだったのかな?」
「滅相もございません! 全ては部下を御する事が出来なかった私の不徳です! ですが部下達は一族の者を守る為に必要なのです! どうか、どうか私の首一つでご容赦を!ついて来てくれた一族の者達にだけはお慈悲を!」
「何を仰るのですか長! 貴方に何かあったら長の血が絶えてしまいます! 首を差し出すのは長の命を聞かなかった我々がする事です!」
「「どうか、どうか我等の命で長をお許しください!」」
なんか勝手に命を差し出される流れになってるんですけどぉ。
「いやそんなんいらんから」
「で、ですが貴方様は高位の吸血鬼なのでしょう? 我々ダークエルフの死体ならば貴方様の戦力として申し分ないかと」
いやまぁ確かにそうかもだけど、だからって仮にも保護を求めて来た相手をいきなり殺したりしないってーの。
舐められない様に強気で出たのが裏目にでちゃったかな?
なんか思った以上にビビってるんだけど。
「というか長の血が絶えるってどういう事?」
「は、はい、先代の長は人間達との戦いで戦死され、まだ若いご子息が長を襲名されたのです!」
成程、新人リーダーだったから言われた通り一人で行こうとしたものの、心配する古参の部下達を制御しきれなかったと。
「お姉様、この辺りは向こうの問題ですので、私達は気にする必要はないかと」
と、アドルネルが小声でアドバイスをくれる。
まぁ確かに若いリーダーを血筋で選んだのも、部下を制御できなかったのも向こうの失策だもんね。
「まぁいいや。で、一族を保護して欲しいって話だっけ。その対価として働くって話だったけど、正直アンデッド達が居るから戦力も労働力も間に合ってるんだよね」
これは嘘だ。正直アンデッド個々の戦力は弱い。それに労働力という面でも自分の意志で考えて動く力が弱いので、真っ当にものを考えて働いてくれる人材はめっちゃほしい。
けれどそれを素直に教えるのは相手に足元を見られる事になるから、避けないといけない。
お城で色々教えてくれた先生も『高位の吸血鬼は他種族よりも優れた存在です。それゆえに貴族として気高い振舞いが求められるのです。決して下手に出る様な事をしてはいけませんよ。我々吸血鬼全体の品位が問われることになりますからね』って言っていたからなぁ。
ちなみにこれは単純に自分達が優れた存在だから偉い! と言っている訳ではなく、いやそういう気持ちはあるみたいだけど、もっとシンプルに他種族からあいつ等はとんでもなく強くて危険な種族だから迂闊に手を出すのは止めようといった感じで種族イメージが抑止力になってるから、そのイメージを崩して種族全体が舐められなように気を付けろって意味らしい。
「そこを曲げてお願いいたします! 我等の種族は他種族と接触しない様に秘境に隠れて暮らしていたのですが、人間達の活動範囲は広がるばかり。それ故我々の住処は何度も暴かれ、その度に住処を移してきたのです。とくに冒険者なる者達は我々がどのような秘境に隠れ住んでいても執拗に暴き立てる為、我々に心安まる日はありませんでした」
あー、成る程ね。冒険者って秘境に入って貴重な薬草を採取したり、人里離れた場所に隠された遺跡を発見してお宝を探すことが多いから、偶然ダークエルフの集落を発見しちゃってそれが冒険者ギルド経由で国に知られちゃうのか。
そんで人間に敵対的な種族の集落を放っておくのは危険だからって騎士団を派遣してきたと。
事情を知らないダークエルフから見れば、冒険者が血眼になって自分達を探してるようにしか思えないだろうなぁ。
しかも彼等は長寿種族だから、人間にとっては数十年スパンの稀な遭遇でも数年や数か月で見つかる感覚だろうし、そりゃあおっかない。
「しかしより人のいない土地に隠れ住もうにも、そうした土地は人間より恐ろしく凶悪な魔物の縄張り。もはや行くも戻るも出来ず我等は進退窮まっておりました」
あーなるほどね。確かに秘境に住むにしても他の生き物と縄張り争いする問題もあったか。
特にこの世界には魔物が居るからなぁ。
今まではそれでもなんとか対抗できる魔物の縄張りを選んでいたけど、そんな都合よく弱い魔物だけの縄張りがある訳じゃないだろうしね。
「そうして先代の長が人間との戦いで死に、もはやこれまでと思った時に奇跡が起きたのです!」
「奇跡?」
「はい。白き吸血鬼によって支配された町を奪い返すために人間達が戦力を引き上げたのです。白き吸血鬼とはまさに貴方様のこと!」
「ぶっ!」
え? つまりあれか。私がこの町で騒動を起こしたから、間接的にダークエルフを救う事になったてこと?
「我等はこの千載一遇の機会を逃す訳にはいかないと、包囲の強行突破を試みました。結果、多くの者が負傷しましたが、死者はほとんど出ることなくこの町までたどり着いたのです。我等ダークエルフの救世主様、どうか我等をお救いください!」
「「お救いください!!」」
な、なんというバタフライエフェクト。いや部下希望が向こうからやって来たから風が吹けば桶屋が儲かる理論かな?
「な、成る程ねぇ。そんな縁で繋がってたんだ」
「はい! まさに神の奇跡でございます!」
う、うーん。まぁ異世界に転生とかある意味神様の奇跡? と言えなくもないか。
「人間達はこの世界のあらゆる土地にはびこっております。ここを追い出されれば我等には死しか残っておりません! どうかお慈悲を!!」
思った以上に状況がひっ迫していて、彼等の必死さが伝わって来る。
でもアンデッドじゃない生きた異種族かぁ。仲間に引き入れて大丈夫かなぁ?
私こっちの世界じゃコウモリ生活が長かったから、どの種族が安全かとか分かんないんだよね。
「アドルネルはどう思う?」
なので軍師に判断をぶん投げることにしました。
うん、知識のない私よりもいろいろ知ってるアドルネルに任せた方がいいや。
ほら、適材適所。私は暴れてアドルネルが考える。
「そうですね。私は戦力が増えるので問題ないと思います。邪悪な種族と言われていますが、人間の感覚から見て邪悪であって吸血鬼であるお姉様にとっては大した理由でない可能性も高いです。万が一の場合はアンデッドにすればよいので、そう言う意味でも戦力の増強になります」
おおーい! 本人達の前でなんかあったらアンデッドにすればいいとか物騒過ぎでしょ!
「はっ、我々が信用できない時はいつでも下僕にしてくださって構いません。ですがどうか一族の戦えぬ者達だけはお慈悲を!」
そしてこっちは覚悟が決まり過ぎてる。
「では聞きますが、我々はこの国と戦争状態にあります。それはすなわち貴方達も争いに巻き込まれるという事ですよ」
そうだった。逃げはしたものの、人間達は絶対この町を諦めないだろうしね。
何せ自国の領土を占領されたんだ、素直に諦めたら自国の貴族にも他国にも舐められる。
王家としては絶対引けないだろう。
「承知の上です。どのみち我等だけでは滅ぶは必定。それならば我等を導く王の下で戦いたいと我等は決意しました」
いや、私は単に自分の領地が欲しかったから好き勝手やってるだけで、そんな種族の存亡をかけた戦いとかする気はないんですけど……
「成る程、承知しました。お姉様、この者達は既に追いつめられている状況です。ならば個別に滅ぼされるよりも私達の下で戦わせた方が生き残る可能性は上がるでしょう。同時に私達も有益な戦力が得られるので対価足り得るかと」
つまり部下にしても損は無いよと。
寧ろアドルネル的には部下にした方がいいって考えっぽいな。
「ん、じゃあいいよ。君達を私の町の住民として受け入れます」
「おお、ありがとうございます!」
「「ありがとうございます!」」
「ただし、ここに来るまでに見ただろうけど、この町は外部からの侵入を拒むように開発を続けているから、生活するなら完全な自給自足になるよ。そこは覚悟しててね」
「ご安心を。そもそも我々ダークエルフは一部を除いて他種族の里には行けませぬから」
そうだった。彼等は人間達から隠れ潜んでいるんだった。
「つきましては我等が救世主様。貴方様にお願いの儀がございます」
「お願い?」
保護以外にまだ何か望みがあるの?
「はい、長である私の血を、一族の者達の前で捧げさせてほしいのです」
「は「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
私が何故と声をあげようとしたら、何故か絶叫したアドルネルの声にかき消された。
「ななななな何を言ってるんですか! お姉様の食事は私の役目なんですよ!」
お前こそ何を言ってるんだ。
「お叱りは御尤も。ですが私が皆の前で血を捧げる事で、我等が救世主の庇護を得る事が出来ると安心させる事が出来るのです」
んー、ああそうか。皆の前で私が対価を受け取ればその代金分は助けて貰えるって安心して貰えるって事だね。
口約束だけじゃなく、ちゃんと報酬を支払ったから正式な取引ですよって。
「駄目です駄目です駄目です! お姉様、このような者達即刻追い返しましょう!」
「アドルネルは落ち着こうね」
「とにかく、私は反対ですーーーーっ!」
うーん、グダグダだなぁ。




