第28話 戦火の中で焼け落ちたもの
幾つもの太陽のごとき輝きの矢が私に命中する。
細かった太陽の矢は私という核を得た事で一つとなり、巨大な炎の球体へと姿を変える。
燃える、燃える、燃える
全身が瞬く間に灼熱に包まれ、悲鳴をあげる。
「あああああああああああああっっっ!!」
「お姉様っっっ!!」
全身が耐えがたい熱に襲われる。
「ああああああああああっっっ!!」
「魔杖の力で増幅された灼熱の魔法を連続で体内に叩き込まれたのだ! いかな吸血鬼と言えど耐えられるものではない! ふはははははははははっ!!」
「お姉様! お姉様っっ!!」
「あああああああああああっつーーーーーーーーいっ!!」
だから、私は慌てて炎の中から飛び出した。
「あちゃちゃちゃちゃ!」
ゴロゴロと転がって炎を消しつつ、すぐさま全身を吹雪で包む。
体に吹き付ける雪が炎の熱を奪い全身を冷ましてゆく。
「はー、危うく火傷するところだったよ!」
「ははははははははは……は?」
あー、焼け死ぬかと思った。
「ま、待て! 待て、どういう事だ!?」
「どうって何が?」
カームウェルが慌てた様子で声を荒げる。
「今のは魔杖で強化した対アンデッド用の切り札と言える火炎魔法の連射だったんだぞ! それを受けて何でピンピンしてるんだ!」
「全然ピンピンなんてしてないよ! 物凄く熱くて焼け死ぬかと思ったんだよ!」
「普通は焼け死ぬんだ! 上級の吸血鬼でも直撃したらタダでは済まない威力なんだぞ!! 」
「なんだぞって言われても全然ただでは済まなかったよ。マジで火傷するかと思ったんだからね!」
それなのにこっちがおかしいみたいに言われるのは納得いかないんですけど!!
「ありえない! 我々の魔杖はゴロウヴァの魔剣と同じく高難易度ダンジョンの下層で手に入れた高ランクの魔杖なんだぞ!いかに吸血鬼が魔法に強い種族とはいえ、無傷はありえない!」
「いやだからすっごく熱かったら無傷じゃないんだけど」
でもカームウェルのあの狼狽ぶりを見るに、今のがこいつらの全力だったって事?
王国最強の戦力だったんじゃないの?
それでこの結果って事はもしかしてこいつ等、実はたいしたことないとか?
「んー……」
私は自分の考えが正しいのか確認する為に一つ試してみる事にする。
えーと魔法のイメージは……よし!
「氷のスコール!」
私は猛烈な勢いの氷の雨を叩きつけるイメージで魔法を発動させる。
「「「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
するとカームウェル達はまともに防御する事すらできずに氷の雨に全身を貫かれ、そのまま壁まで吹っ飛んでしまった。
「ありゃま予想外」
「お姉様!」
その様子に拍子抜けしていると、アドルネルが私の元までやって来る。
そして私の体をペタペタ障りながら周りをグルグルしだす。
なんだかワンコが懐いてるみたいで可愛いな。
「良かった。お怪我はないみたいですね」
ああ、怪我がないのか調べてくれたんだ。
背中とか自分で見れないし、確認してくれて正直助かるかも。
「でもそうなるとこいつ等ってほんとは大したことないんだ」
外から見ても全然怪我がないって、熱いだけで大した攻撃じゃなかったんだね。
「い、いえ、国の切り札とされる部隊ですので、弱い筈はないかと。先ほどお姉様が炎に包まれた時は外からでも物凄い熱さを感じて本当に心配したんですよ」
「あー、そっか。心配させてゴメンね」
私はアドルネルを抱き寄せると、背中をポンポンと優しく叩いて安心させてあげる。
しかしこれはカームウェル達王国戦勢騎士団自体が弱いのか、それとも私が強いのか。
「間違いないのは、コイツ等の攻撃はたいして効かなくて、逆に私の攻撃は防ぐ事すらできなかったって事だよね」
カームウェル達は全身から血を流してうめき声をあげており、のたうち回る事すらできずうずくまっている。
「油断を誘っているって感じでもないか」
ちらりとミイラ一号君の方を見るとそちらでも……
「くっ! 何でそのナマクラを折れねぇんだ!」
ミイラ一号君は半ばまで折れた剣でゴロウヴァの攻撃をいなし、剣がこれ以上のダメージを受けないように攻撃をかわしては小さく傷を負わせてゆく。
明らかにミイラ一号君が剣の腕で優っている。ただ……
「このっ! 小賢しいんだよ!」
怒ったゴロウヴァの体が淡い光を帯びると、その動きが明らかに良くなる。
「あれも魔法?」
「身体強化魔法ですね。一時的に肉体の性能を上げて筋力や速さ、反応速度を上げる魔法です」
速度の上がったゴロウヴァが、ミイラ一号君に襲い掛かる。
けれどミイラ一号君はその攻撃を先ほどと変わらず折れた剣で捌く。
「馬鹿な!」
奥の手をもってしても攻撃を凌がれ驚愕するゴロウヴァ。
でも私には見えていた。ミイラ一号君はゴロウヴァの剣を凌いでいるものの、その手の中の剣が悲鳴を上げていた事に。
そして遂に、剣は限界を迎えた。
バキィンと音を立てて、ミイラ一号君の剣が根元から砕け散る。
もうこうなっては剣で受け流すことも出来ない。
「ヒャッハハハッ! そうだよなぁ! 俺の剣は魔剣だ! それも迷宮深部で見つけた特級の魔剣! 剣聖の魔剣と同等、いやそれ以上の最高級の魔剣なんだからよう!」
身体強化の魔法によって圧倒的なスピードとパワーを発揮したゴロウヴァがミイラ一号君に止めの一撃を放つ。
剣が完全に壊れたミイラ一号君の動きは先ほどまでとは比べ物にならないくらい落ちており、明らかに攻撃を防ぐことは出来そうもない。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「もう死んでる、よっっ!」
なので、私が思いっきり横から蹴っ飛ばしました。
「ぐぼぁっ!」
ミイラ一号君しか見えていなかったゴロウヴァに綺麗な一撃が決まる。
「そーれ!」
そのまま、脳天目掛けて勢いよくカカト落としを決める。
「ゴァッ!?」
いい音を立てて決まったカカト落としを受けて、ゴロウヴァが沈む。
「大勝利!」
天に向けてVサインを掲げると、早速私は勝者の報酬を得る事にする。
「さーて、それじゃコイツ等の血を頂こうかな。こいつらの襲撃ですっかりアンデッド達の数も減っちゃったから新しい戦力が欲しいしね」
こいつ等ならそれなりに強力なアンデッドとして役に立ってくれそうだし、期待してるよ。
「それじゃ、いっただっきまーす!」
「ぐわっ!」
ゴクゴクとゴロウヴァの血を吸うと口の中に照り焼きチキンの様な味わいが広がってくる。
なるほど、これまでの経験から察するに戦士系の人間の血はお肉の味なんだね。
お城で飲んだ血はスイーツ系だったから貴族令嬢の血は甘いのかな?
ゴロウヴァの血を堪能した後はカームウェル達の番だ。
「や、止めてくれぇ……」
そっちから攻めてきたんだし、今更止めてはないよ。
というわけでいただきます。カプリ。
「おっ、お魚味だ」
カームウェル達はお魚味の血だった。
ふーむ、同じ騎士でも鍛え方でまた違うのかな?
そういえばこの三人は魔法も使ってたし、魔法を使うか使わないかで同じ肉でも味が変わるのかもだ。
これはもっといろんな血を吸う必要が出てきたねぇ。
◆カロマナ領主◆
「一体戦勢騎士団はどうなったのだ……」
地上では敵味方双方の騎士達が戦いを止めて固唾をのんで地面に開いた地下への通路を見つめていた。
「この中に此度の争いの黒幕が居ると言って入っていったが……」
毒蛇による被害が激増して戦いが停滞するかに思えた時、彼等は正体を現した。
そして周囲を破壊をして隠れていたアンデッド達を暴き出し焼き尽くすと、地下に隠されていたダンジョンを発見し黒幕を討伐する為にこの中へと入っていった。
「残された我々は敵味方問わず待機を命じられ、彼等が帰って来るまで待つしかできないとはな」
突然現れた胡散臭い連中の命令に全員が素直に従ったのには理由がある。
彼等の指揮官が国王陛下からの勅命が書かれた書状を見せたからだ。
国王陛下の命令とあっては我々も逆らえない。
そもそも実力が違い過ぎる。
だが何より我々が恐れたのは、彼らが闇夜に潜むアンデッドを殲滅する際、利益を横取りされると考えてゴネた貴族達をアンデッドもろともに焼き殺してしまったからだ。
「国益の為とはいえ、まさか躊躇いなく同胞を攻撃するとは……あれが幻の王国戦勢騎士団。呪海大公に対抗する為に設立されたとも言われる王国最強の剣……」
あまりにも非情が過ぎる。
だが逆らうことなどできない。彼等の命令は国王陛下の命令に等しい。
下手に口出しして我々まで巻き込まれては溜まったものではない。
だから、誰もが戦勢騎士団の帰還を待っていたその時、それは地面を破壊して現れた。
「なんだ!?」
地面を吹き飛ばし、白い矢のごときものが天へと上ると、空中で弾けた。
いや違う。羽を広げたのだ。
「なんだあれは……白い、人?」
それは人間だった。
とても美しい、文字通り人外の美貌をもつ少女だ。
だが、それ以上に少女は異様な姿をしていた。
全身が真っ白な、服も、髪も、肌も、そして背中から生える人ならざる存在の証である羽さえも真っ白だったのだ。
「……」
白い異形の少女は何かを地面に投げ捨てる。
ドサリと音を立てて転がったそれは、我々も良く知るモノだった。
「カームウェル殿!?」
そう、王国戦勢騎士団の指揮官を名乗った人物だった。
それを見た全員の心に衝撃が走る。
彼は逆らった貴族達を無慈悲に、一方的に殺し尽くした圧倒的で非情な実力の持ち主だ。
そんな男が、見る影もない姿に変貌していたのだから。
「初めまして皆さん」
動揺する我々の上空から心を鷲掴みにするような美しい声が響いた。
我々は弾かれるように顔を上げる。
そこには先ほどまでと同じく白い異形の少女がほほ笑んでいた。
「私の名前はメルリル・クロムシェル。貴方がたにはヴォイラード・クロムシェルの娘と言った方が伝わるでしょうか」
「……クロムシェル!? 呪海大公の!?」
馬鹿な! 呪海大公の娘だと!? そんな者がいるなど聞いたことも無いぞ!
「この地は私の領地にすることにしました。おとなしく全てを諦めて立ち去るなら見逃してあげます。ですが戦うというのなら今すぐ皆殺しにします。好きな方を選んでください」
皆殺しだと!? この人数差を分かっているのか!? 数が減っているとはいえ、それでもまだ数万人はいるんだぞ!
たった一人でこの人数を相手に戦うつもりか! 正気の沙汰ではない!
だが、その傲慢で身の程知らずな発言に対し、私はこうも思っていた。
もしかして出来るのではないか、と。
相手は最悪の吸血貴族、呪海大公の娘を名乗る者。
本当にあの呪海大公の娘であるなら、我々と互角以上にわたり合えると言われてもあながち荒唐無稽とも言えない。
「だが……」
ここで分かりました、すぐに逃げますと言う訳にもいかない。
我々は貴族だ。貴族が格上に殺されたくないと逃げ出した事がバレたら、民の信用は地に落ちる。
それこそ危機感を持った領民の逃亡や反乱を招きかねん。
だからこそ、誰かが動かない限り我々も迂闊に動くことは出来なかったのだ。
「おいおいおい、俺達を皆殺しにする? 出来るもんならやってみろよガキが! 大口叩いて恥かくのはお前の方だぜ!」
そんな中、まさかの暴言を飛ばす男が現れた。
「あれはラッテ家の跡継ぎか」
おそらくは後継者に実戦経験を積ませる為に連れてきたのだろう。
だが、あまりにも愚かすぎる。
相手は戦勢騎士団を全滅させた相手だぞ!?
「ほらほらほら! やって見ゴハァッ!」
先ほどの戦勢騎士団とのやり取りの様な行いが繰り返され、ラッテ家の跡継ぎは心の臓に穴を開けられて地面に崩れ落ちた。
「どうする? まだやる?」
無理だ。これまでの戦いで消耗しきった状態で、万全の状態で出てきた黒幕に勝てる訳がない。
何より、我々にとって切り札と言える王国戦勢騎士団がとっくにやられてしまっているのだから。
「カ、カロマナはこの町から手を引く」
「レ、レキサランもだ!」
「ウ、ウチの領地もだ!」
「お、俺達もだ!」
次々に騎士が、領主が敗北を認めて撤退を宣誓する。
こうして、一人の勇気ある愚か者のお陰で我々は安心して敗北を宣言できたのだった。
同時に、栄光ある王国から一つの領土が失われ、新たな脅威が人々の心に刻まれることとなる。
白き吸血令嬢、戦場を翻弄した蛇を支配する者、白蛇公女メルリル・クロムシェルの名が世界に刻まれたのだった。
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