第26話 王国戦勢騎士団
「騎士達の数もだいぶ減ったし、そろそろ予定通り片方の戦力にアンデッド達を投入して一掃する?」
「そうですね。よほどのことが無ければこれで片側の戦力は壊滅。勝った方もアンデッドを従える邪悪な者として味方から狙われることになります。仮にアンデッドの力を良しとしたとしても、当の本人にはそんな力は無いですから、交渉次第で我々の良い傀儡になってくれるでしょう」
ニッコニコで今後待ち受けるであろう大惨事を語るアドルネル。
ホント人間に期待も愛情もないんだなぁ。まぁ無くて当然だけど。
けれど、ここで私達の予定になかった事態が起きる。
ドォォォン、ドォォォンと突然天井が震え出したのだ。
「え? なになに?」
「これは大規模な魔法攻撃? 戦況の不利を察して一気に勝負を決めに行ったのかしら?」
「ッッッ!」
すると連絡係のアンデッド達が通路の四方八方から飛び込んできて、慌てて何かのジェスチャーを始めた。
同時に彼等から感じるイメージは『襲われている』というものだった。
「襲われてる? 私達が?」
アンデッド達は思い出したように手にした紙束を私達に差し出してくる。
「ええと……地上に出ていた動物アンデッド達が襲われほぼ全滅。更に監視アンデッド達の隠れている場所が攻撃されて……ここが見つかったぁーーーーっ!?」
どどどどういう事ぉーーっ!?
「何で夜に岩の細い隙間から覗いてたアンデッドが見つかってんの!?」
いやそんな事考えてる場合じゃない。
敵はもうこのダンジョンに入ってきてるんだから。
「つってもここはアンデッド達を陽の光から隠すための倉庫みたいなもんだから、まともな罠とかも設置してないし……」
どうする? 逃げる?
敵は普通なら見つけることも出来ない私達を察知して侵入してきた。
多分普通の相手じゃない。ならヘタに戦うよりも逃げた方が良いだろう。
外にはまだまだ騎士達も残ってる。そいつらまで殺到して来たらとてもじゃないけど捌ききれない。
「よし、ここは……」
引こう、と言おうとした瞬間、ドガァァァンという派手な音と共にアンデッド達が吹き飛んだ。
「うわぁぁぁぁ!? 何事!?」
そして土煙の向こうから、カシャンカシャンと金属のぶつかる音が聞こえてくる。
「いたぞ。コイツ等が裏で糸を引いていた連中か」
土煙の中から現れたのは4人の騎士だった。
ただしその鎧は地上で戦っていた騎士達とは違い、実用性よりもビジュアルを優先したかのようなデザインだ。
「全身が白い娘?……ただの人間ではないな。一体何者だ?」
彼等は私達を見ると、獰猛な眼差しを向けてくる。
うわー、もう最初からやる気満々じゃん!
「……ふふ、淑女に尋ねる前に自分から名乗ったら?」
私は時間を稼ぐために精いっぱいの虚勢を張ってどうしのぐかを考える。
「おっと、これは失礼した。我々は王国戦勢騎士団。私はその5番隊隊長のカームウェル。こちらは部下のドムロックとバートラン、そしてラムゼイだ」
意外にも相手はこちらの引き延ばしに乗って来た。
っていうか戦勢騎士団ってなに?
「王国戦勢騎士団!?」
しかし彼等の名を聞いたアドルネルが驚愕の声を上げる。
「知ってるのアドルネル?」
「……お姉様がご存じないのも無理はありません。彼等は王国の切り札とされている者達です。普段は他国との戦争であったとしても出てくることはなく、彼らが表舞台に出るのは、王国の存亡がかかった戦いのみ。しかしその強さは凄まじく王国の歴史に名が残るほどです。ただあまりにも謎に包まれ過ぎている為、貴族達の間では戦勢騎士団などただの戦場の噂と疑う者がいるほどです」
ほえー、なんか凄い連中なんだ。
「ははは、ご令嬢にまで名が知れているとは光栄だね。その通り、本来我々は領主同士の小競り合いになどに出る事はあり得ない」
「じゃあなんで来た訳?」
「この争いがあまりに不自然だったからさ。ただの地方領主同士の小競り合いが異常なほどに広まり、国中の貴族達を巻き込んでいった。まるでこの国中の貴族をこの場に集めるかのようにね。こんな異常な状況、自然に起きるものではないさ」
いや、普通に起きたんだけど。
寧ろこの状況が起きたのはお宅の大貴族達の所為みたいなんですけど!?。
「我々は注意深く戦場を探っていた。フェネシアの町の残る血と瘴気からアンデッドが潜んでいるのは間違いない。しかし周辺には潜んでいるアンデッドはおらず、カロマナの町にもアンデッドが隠れ住むことのできるような地下施設はない……筈だった」
カームウェルと名乗った騎士はここで言葉を切ると、周囲を見回す。
「まさかこれほど広大な地下空間を作り上げていたとはね。いや、それともフェネシアの領主が作っていたのか」
あー、フェネシアの領主の娘が作ったんで、どっちも半分ずつ辺りって感じだね。
「でもそれにしても出てくるのが遅すぎない? もう結構な被害が出てたと思うんだけど。貴方達がそこまで凄い騎士なら被害が出る前に私達の作戦を潰せたでしょうに」
「おお、敵対するものとはいえ、レディにそれほどまでに我々を評価してくださるとは光栄の至り」
うーわー、なんか妙に演技がかってるんだよなこの人。自己主張が激しすぎる。
もしかして戦勢騎士団が秘密組織だから、自己顕示欲を拗らせてるのかな?
「それは簡単な事。上で戦っている者達の顔を立てたからだよ。我々が強引に指揮系統を握れば真の敵を見つけて殲滅する事は容易。だがそれをしては貴族達の反発を招く。彼等が無能であると知らしめることになってしまうからね」
ああ、グループ会社とかで支社の人間が主導で進めていた計画に、いきなりやってきた本社の人間が計画のかじ取りを横取りしようとしてきたらそりゃ反発されるだろうしね。
だから失敗するまで待ってて逆らえなくなるタイミングで行動に移したって訳かぁ。
それはそれで性格悪いなぁ、犠牲も出てるってのに。
まぁそうなるような事をしてる私に言えた義理じゃないんだけど。
「さて、それではそろそろ貴女がたのお名前をお聞かせ願えるかなお嬢さん」
おっと、名前はちゃんと聞いてくるんだ。
でもこれはチャンスかもしれない。ここでお父様の関係者だと名前を出せば、コイツ等もビックリして隙を見せて逃げ出せるかもしれない。
私としてもここを見つけるような連中に無策で挑みたくないからね。
なにより、ここにはアドルネルがいる。ただの人間であるこの子が戦闘に巻き込まれて怪我でもしたら大変だ。
だって美味しい血がこぼれちゃうんだもん。
「いいよ、教えてあげる。私の名前はメルリル・クロムシェル」
「……クロムシェル!? 呪海大公の縁者か!」
私の名前を聞いた騎士達がどこかで見た事のあるリアクションを見せる。
やっぱりお父様のネームバリュー凄いなぁ。
これならいけるかな? と思ったんだけど、騎士達は警戒を強めるばかりで残念ながら隙を見せる事はなかった。うむむ残念。
「あら、お父様を知っているんですね」
「父と呼ぶという事は、最低でも3階位あたりにはいる吸血鬼という事か。なるほど、それならば国一つを巻き込むような大事件を起こせるわけだ」
いや、それは君らが勝手に身内を巻き込んだだけなので無実だよ。マジで。
「それで? それを知っても私とやり合うつもり? 素直に逃げるなら見逃してあげてもいいけど?」
寧ろ逃げてください。っていうか私が逃げたい。
だって国の切り札になるようなトンデモ戦力なんだよ? 絶対ヤバイ連中だって。
「そうはいかない。ここまでの事態を引き起こしただけではなく、数百人規模の騎士達をたった一晩で毒によって戦闘不能に追い込んだ貴女はまさしく脅威だ。メルリル・クロムシェル嬢、いやこの静かなる毒蛇のごとき手際、白蛇公女とでも呼ぶべきかな」
なんか厨二病全開な二つ名付けられたんですけど。
というかそんな名前秒で思いつくこの隊長凄いな。妙に演技がかったリアクションするし、本当に厨二病なのではないだろうか……
違う意味で危険な男に思えてきたぞ。
「もうお喋りはいいだろ隊長さんよ」
そんな中、突然見知らぬ男の声が私の後ろから聞こえてきた。
「っ!?」
振り返ればそこには新たな男の姿……それがアドルネルの背後にあった。
「アドルネル!?」
「お姉様っ!」
「おーっと、動くんじゃねーぞ。この嬢ちゃんがどうなってもいいなら別だがな」
男がアドルネルの首筋に淡い光を放つ剣を押し当てる。
しまった、カームウェル達と別行動してた奴が居たのか!
ということはカームウェルのあの大げさなリアクションも、私の注意を引くための演技だったってことか。
「たとえ吸血鬼でも魔剣で首を切られたらただじゃ済まねぇだろ」
「止めて! その子は人間だよ!」
「何?」
男は私の言葉に目を見開くと、アドルネルの首に指をあてる。
「マジだ。コイツ脈があるぜ隊長」
「ふむ、しかし我々に助けを求めないということはおそらく吸血鬼に魅入られた者でしょう。ただ魔法で魅了されている様子もない。己の意思で従っているようなら人類の敵だ。人間なら人質としても使えんな」
「なら殺してもいいって事だな!」
「なっ!?」
男はアドルネルの首筋にあてていた剣を引くと、切っ先を彼女の心臓に向ける。
「裏切者は死にな!」
「止めっ!」
ギィン!
アドルネルの心臓に剣が突き刺さると思ったその瞬間、もう一本の剣が横から現れ男の剣を弾いた。
「……」
ゆらりと、暗闇から姿を現したのは一本の剣を持った……
「ミイラ一号君!」
んもー! 登場の仕方が男前過ぎるでしょ!
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、「楽しい!」などの感想や評価、またはブクマなどをしてくださると作者がとても喜びやる気が出ます。




