第22話 死者に踊らされる生者の戦場
「敵襲だーっ!」
戦いが始まった。
カロマナの騎士団にレキサランの騎士団が奇襲を仕掛けたのだ。
カロマナの騎士団は巡回の兵士を別動隊に殺されていたので、敵の接近に気づくのが遅れたのが痛かった。
「レキサランの連中、ここまで堂々と!」
ようやくカロマナの騎士団が反撃に転じるんだけど、初動が遅れたせいで押されている。
「さて、それじゃあまずは双方の数が減るのを待つとしますか」
私はすぐに戦いに参加せず、静観を選ぶ。
最初こそ押されたものの、カロマナの騎士団側には救援部隊として町の先行調査をしていた冒険者達が居たことで数の不利はそこまででもなかった。
連携はいまいちだけど、遊撃部隊として動く冒険者達がレキサラン騎士の別動隊に気付いて対応しているおかげで更なる不意打ちを阻止している。
「あの冒険者達良い仕事するなぁ。でもちょっともったいないかな」
レキサランの別動隊は特別な訓練を積んだ兵士っぽいし、できればアンデッドにして私の眷属にしたいな。
「大分激戦になって来たし、そろそろこっちも動こうかな」
私は手に持っていた石を、レキサランの騎士団の最後尾に投げつける。
前世じゃノーコンだった私だけど、吸血鬼になったことでピッチャー並みの強い肩とコントロールを手に入れている。
そして石がコーンと最後尾の騎士に当たると、合図を受け取った彼等は動き出した。
かつて仲間だった騎士を襲う為に。
「ぐわぁ!?」
「なんだ!? 敵襲か!?」
「馬鹿な! 俺達の後ろからだと!? いや誰もいな……おい、何のつもりだ!?」
後方の騎士達が敵の奇襲かと驚くが敵の姿が無いことに困惑する。
そんな彼等に仲間の騎士が真横から襲い掛かる。いや、仲間だった騎士だ。
「うわぁぁぁぁ!!」
突然攻撃してきた仲間に驚いたものの、騎士達はすぐに我に返ると反撃をする。
しかし攻撃を受けた騎士は傷をものともせず立ち上がると再び攻撃を再開してくる。
「ぐわぁぁぁぁっ!」
そんな中、騎士の一人が襲ってきた騎士達に数人がかりで拘束されて首筋を噛み付かれていた。
「なっ!? まさかコイツ等アンデッドか!?」
後方はパニックに陥っていた。
何しろ仲間だと思っていた騎士がアンデッドだったのだから。
しかし混乱は後方だけじゃなかった。
「うわぁぁぁ!」
「お、おいお前何してるんだ!」
「うわぁぁぁぁ! 仲間がアンデッドに!?」
戦闘が始まった際に最後尾にいたアンデッド達を何体か隊列の真ん中あたりに紛れ込ませたのだ。
それが元仲間達を襲いだし、騎士達がパニックに陥る。
何しろついさっきまで一緒に行動していた仲間が突然アンデッドになったようにしか思えなかったのだから。
更にここでカロマナの町の騎士団の後ろからもう一つ部隊が動く。
「う、うわぁぁ! アンデッドだぁぁぁ!」
ここで温存していたアンデッド軍団を投入。
レキサランの騎士団に集中していたカロマナの騎士と冒険者達の間に動揺が広がる。
よし、これでカロマナ側はまた浮足立った。
私は彼等がアンデッドに意識を向けている間にレキサランの特殊部隊の背後に忍びよると、そのうちの一人の口を塞いで空高く飛びあがる。
「モガッ!?」
そして空中で特殊部隊の血を頂く。
「ガッ!」
おお、これは中々。普通の騎士と鍛え方が違うのか、味変として丁度いい血の味だね。
さて、この調子で他の特殊部隊の血も頂こうかな。
「くそっ、なんて時に!」
「いくら何でもタイミングが良すぎる! はっ、まさかあのアンデッド共はレキサランの連中が操っているのか!?」
戦場に紛れてよさげな騎士達を襲っていると、察しのいい騎士達がアンデッド達の出現をレキサランの仕業ではないかと疑い出した。
「じゃあ町にアンデッドの姿が無かったのは連中が戦力として隠していたからか!」
「かもな。って事は調査に割り込んできたのも演技か! 連中の狙いは最初からフェネシアの町を襲撃する事だったって訳か!」
おお、なんか良い感じに勘違いしてくれてる。
こっちとしてはカロマナに部下を攫われたと思ったレキサランに襲わせてお互いの敵意を暴発させようとしただけなんだけど……まぁ都合が良いから良し!
「くっ、アンデッドまで使役してるとなるとますます持ってマズいな! ここはなんとか逃げて領主様に報告しなければ!」
あっ、マズい。カロマナの騎士団が逃げようとしている。
「「「「ウォォォォォン!!」」」」
けれどそのタイミングで獣の雄たけびが響き渡った。
ウルちゃんズの遠吠えだ。
ウルちゃんズは戦場に姿を現すと、二つの騎士団を包囲する。
「あれはサウザンドウルフ!?」
「本当にいたのかよ!」
「だが襲ってこないぞ? まるで俺達を監視しているようだ」
「まさかあのサウザンドウルフもレキサランの連中が操っているのか!?」
疑心暗鬼に陥ったカロマナの騎士達はウルちゃんズ達のこともレキサランの騎士団の仕業じゃないかと疑い出す。
「どうするんだよ、サウザンドウルフまで襲ってきたらどうしようもないぞ!」
絶体絶命の状況に騎士達の間に絶望が広がる。
「うろたえるな!」
戦場に大きな声が響き渡る。どうやらカロマナの騎士の隊長のようだ。
「この状況がレキサランの仕業なら、向こうにはアンデッド達を操っている術者かマジックアイテムがある筈! それを破壊すれば状況は変わる! そうなれば連中は自分が利用していた魔物共に報復されるだろう!」
おお、これは良い演説だね。
憶測ではあるものの、明確な目的を与える事で浮足立っていた騎士達に冷静さを取り戻させる。
まぁアンデッドを操っているのは私なんだけどね。
あとやたらと響く声に魔力を感じるんだけど、もしかしてあれ魔法で声を大きくしてるのかな?
だとしたら私にも同じこと出来るんだろうか? 今度こっそり練習してみよう。
「全軍突撃! 目的はレキサランの指揮官とその取り巻きだ! 連中を倒さねば夜明けを見る前に全滅だぞ!」
「「「「「おおおおおおっっ!!」」」」」
全滅するくらいならやってやるとばかりにカロマナの騎士達が突撃する。
冒険者達もウルちゃんズの恐ろしさをよく理解しているからか、騎士達に続いて突撃に加わる。
こうして戦場は更なる混戦の様相を呈してゆく。
突然アンデッドになった仲間に襲われるレキサランの騎士団、敵対する騎士団とアンデッドに襲撃されたカロマナの騎士団、そしてそれら両軍を混乱させて殲滅しようとする私達アンデッド軍団の三つの軍勢が戦場に混ざり合ってゆく。
「さーて、この隙に眷属を増やすぞー!」
誰が敵で誰が味方かも分からない地獄のような戦場の中で、一人私は仲間を増やすべく暗躍するのだった。
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