第21話 暗闇の襲撃者
夜、太陽が沈み月と暗闇が支配する時間。
人間達は魔物や犯罪者達を恐れ、壁で守られた建物の中に隠れ潜む時間帯。
けれど、彼らは違った。
彼等、レキサランの騎士団は、平原のど真ん中で大量の薪を燃やし周囲を昼間のように照らしていた。
更に中心から一定の距離ごとに焚火を円形に置き、暗闇から近づくものを見逃さないようにする徹底ぶりだ。
真上から見たらたいまつで出来た幾つもの円が出来上がっていることだろう。
見張りの騎士達は中心のたいまつと内側から二番目のたいまつの間くらいの位置に立ち、これまた円を描くように等間隔に立って外を見つめる。
たいまつの灯りに照らされて近づいてくる敵がこないかと。
はい、つまり真上を警戒している人は誰も居ません。
「はいごめんなさいねー」
私は空から1体のゾンビと共に舞い降りると、背後から騎士の兜を外して口を塞ぐ。
「むぐ!?」
驚いた騎士が私の手を外そうとするけれど、吸血鬼である私の力に勝てる訳もなく、彼はなす術なく地面へと押し倒され……血を吸われた。
「ぐっっっ!?」
突然仲間が倒れていたら驚くと思う人も居るかもしれないが、その為に私はダミーとして鎧を持ったアンデッドを連れてきたのだ。
よく見られたら鎧の形が違うことでバレるだろうけど、夜の薄暗い場所で短時間なら誤魔化せる筈。
いくら大量のたいまつで照らしていたとしても、夜の暗闇はそう簡単に誤魔化せないからね。
「……ガクッ」
そうして、騎士は体から力を失ってぐったりうなだれる。
けれど次の瞬間、ゆらりと体をふらつかせながら立ち上がった。
「はいアンデッドいっちょあがりー。それじゃ次いこうか」
そんな感じで同じことを繰り返し、私は数人の騎士をアンデッドにしたのだった。
◆
「騎士の数が減っているだと!? ゴホッ! ゴホッ!」
翌朝、レキサランの騎士団の隊長は朝食をしている最中に驚くべき報告を受けた事で飲みかけの水にむせてしまう。
「ゴホッ、どういう事だ? 魔物対策はしていなかったのか!? ゴホッ」
「し、していました! 本陣に大きな焚火をいくつも焚き、周囲にも等間隔で焚火の円を広げて設置し、遠方からくる魔物を確実に誰かが見つける事の出来るようにしてありました!」
「ではなぜ見つからんのだ!」
それは空から降って来たからだよ。
私は近くの岩の下に潜り込んで、暗闇の中から音だけを聞いていた。
その両隣には今まさに彼らが捜している騎士の姿があった。
「魔物が原因でないというのなら……まさかカロマナの連中か!?」
よしよし、うまく引っかかったね。
「しかし連中であっても魔物除けのたいまつの陣を避けてやってこれるとは思えません。ましてや周囲にいる騎士達に気付かれないように攫うとなれば相当の実力者でも困難かと」
「だが奴ら以外に考えられん。おそらくフェネシアの町を手に入れる為に何らかのマジックアイテムを用意したのだろう。もしかしたら救助などただの名目で、本当の狙いは領主一族を殺して領地を横取りするつもりだったのかもしれんな。卑劣な連中だ」
それ、貴方たちも同類じゃないです?
でもこれで人間同士で争ってくれそう。そこまでうまくいかなくてもお互いに足を引っ張り合って調査を遅らせてくれるだろう。
「ではどういたしましょう。連中に部下の返還を要求しますか?」
「ふん、しらばっくれられるのが関の山だろう。連中がその気なら我々もそのつもりで対応するだけだ。昼間の調査に関してはそれらしい振りをする程度で良い。それよりも部下達には今夜動くと伝えておけ」
「はっ!」
その言葉と共に足音が遠ざかってゆく。
うーん、これだけの会話で伝わるって事は、やっぱりアドルネルの言った通り最初からチャンスがあれば領地をブン獲るつもりだったみたいだね。
アンデッドを警戒しているのに夜に町の調査をするとは思えないし、なら間違いなく別の目的があってここに来たって事だよね。
やれやれ、人間はやっぱり欲深くて醜いなぁ。
私は魔物に転生できてよかったよ。ははははっ。
アドルネルも、いずれはご飯から同じアンデッドにしてあげたが方がいいかもだね。
あの子も人間の醜さには辟易しているみたいだし。
でもまぁ、しばらくはあの血を堪能したいのでもうしばらく我慢して欲しい所存。
私も魔物なので食欲という本能には勝てないのだ。
うん、本能ついでに睡眠欲にも負けておこう。
吸血鬼にとって朝は夜なので。いい加減眠いんだよね。
それじゃおやすみー。
◆
そして夜が来た。
まだちょっと眠かったんだけど、周囲から聞こえる騒がしい音にたたき起こされちゃったよ。
うむ、私の睡眠を妨害した罪は後でしっかり償ってもらおう。
「隊長、準備が出来ました」
「うむ、では予定通りカロマナの連中には退場して貰う。アンデッドに襲われてな」
んん? アンデッド? どういう事?
私達は岩の下に隠れてるのに?
疑問に思っていると、ザッザッザッザと沢山の人の足音が聞こえ、それが遠ざかってゆく。
そして音が聞こえなくなったところで私は岩をずらして地上に出る。
既にキャンプ地には誰もおらず、遠くにレキサランの騎士達の後ろ姿が見えた。
私は一緒に隠れていたレキサランの騎士アンデッドにみんなと合流するように指示を出すと、空からレキサランの騎士団を追いかけることにした。
空から彼等を見ると、その動きがよく分かった。
彼等は隊列を組んで行進しているんだけど、その進路上にあるカロマナの騎士団野営地周辺で動く者達がいた。
「んー、カロマナの騎士団に見つからないようにこっそり動いてる? もしかしてレキサランの騎士達なのかな?」
夜の闇に紛れて動く彼等だったけれど、吸血鬼である私は夜目が凄く利くので丸見えだ。
そして彼等は哨戒中の二人組の騎士に暗がりから数人がかりで襲い掛かる。
しかも襲っている連中の動きは暗闇の中でも凄く滑らかで、おそらくだけどそういう仕事を専門にしている部隊なんだろう。
「ああなるほど、アンデッドに襲われるってそういう意味ね」
つまり彼等を不意打ちで数を減らして襲い掛かるって寸法か。
で、敵を全滅させたらアンデッドにやられたんだろうってカロマナの領主にはしらばっくれるつもりと。
「うーむ、アンデッドの身としては風評被害だね。という訳で嘘は本当にしないとだ」
私は一度みんなの所に戻ると、レキサランの騎士アンデッド達を連れてこっそり背後に回る。
アンデッド達の鎧がガチャガチャなるけど、その音はレキサランの騎士達自身が鳴らしている音で打ち消される。
「それじゃあいただきまーす」
そっと背後から忍び寄り、騎士達を一人ずつお仲間にしてゆく。
血を吸う隙にアンデッド騎士が入れ替わり、また次の騎士の血を吸うときに今お仲間にした騎士が入れ替わる。
うーん、意外とバレないもんだね。
まぁしゃーない。だって今は作戦行動中だから彼等は月明かりだけに頼って行軍している。
しかも兜で周囲の視界も悪く自分達の鎧が鳴らす音で小さな音はかき消されてしまう。
こうして、レキサランの騎士団は誰も気づかぬうちに死人の騎士団へと変貌していったのだった。
「うっぷ、けどやっぱ沢山血を吸うのはキツいな。カロマナの騎士の血でも吸って味変したい」
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