第17話 産声の叫び
夜、吸血鬼にとっての朝を迎え私は目を覚ました。
「んー、良く寝た」
棺桶から起き上がると、そこはカビの匂いがする石造りの通路。
領主一家を追いかけた時に通った隠し通路だ。
「よっと」
棺桶から出た私は棺桶の蓋を閉める。
すると棺桶は手のひらサイズの大きさに縮む。
これこそお父様から餞別として貰ったアイテム、携帯式棺桶!
どこでも棺桶で寝れる吸血鬼必携のマジックアイテムなんだよ!
しかも携帯式にも関わらず中の寝心地は最高で、まさに持ち歩ける高級ベッドなのだ!
「ん……んん」
カビ臭い洞窟に不釣り合いな声に視線を向けると、そこには可愛らしいドレスの少女がスゥスゥと寝息を立てて座り込んでいた。
領主の娘改め私のご飯になったアドルネルだ。
アドルネルの目元は昨夜の事もあってまだちょっとはれぼったい感じになっている。
「もう少し寝かせてあげよう」
周囲を見回すと、ミイラ一号君を始めとしたアンデッド達の姿がそこにはある。
更に奥には新しい姿があった。
鎧を身に纏った騎士達のアンデッドだ。
彼等は領主の護衛をしていた騎士達で、寝る前にささっと血を吸って眷属にしておいた。
「これからよろしくね騎士君達」
騎士達がややバラバラの動きで騎士の礼を見せる。
『――はっ、我等が命、主様の為に――』
昨夜まで殺し合ってたのにどういう気持ちで忠誠を示すんだろう?
生前の人格はもう死んじゃって、アンデッドの人格になってるのかな?
「って、あれ?」
そこでようやく私は違和感に気付いた。
「アンデッドと会話出来てる?」
いや、厳密には会話というより意志が伝わるって感じ?
はっきりした言葉として伝わるんじゃなくて、だいたいこんな事を言ってる気がするぐらいのニュアンスだ。
「なんで分かるようになったんだろう?」
これまでは眷属になったアンデッド達と意思疎通は出来なかったんだけど。
私が吸血鬼の力に慣れて来たから? もしくは眷属になったアンデッド達と心が繋がって来たからとか……いやそれなら騎士達と会話できるのはおかしいか。
私はそばでユラユラしているミイラ一号君に視線を向ける。
「ねぇミイラ一号君、私に何か言いたい事ある?」
「……」
けれど一番古株のミイラ一号君からは特になんの感情も伝わってこない。
やっぱわからん。あとは何かアンデッドの感情が伝わるようになるきっかけがあったとか……
「んん……」
記憶を掘り起こしながらそのきっかけを探していた私は、寝息を立てるアドルネルに視線を向ける。
正しくはその首筋に。
「呪紫眼……」
そう呼ばれる特殊な目を持つアドルネルの血はこれまで飲んだ事が無いくらい美味しいものだった。
その芳醇な味わいはお父様の城でも味わった事が無い程だ。
いやもしかしたら私に内緒で隠していたのかもしれないけど。
「アドルネルの血が何か関係している可能性もある……か」
ふむ、呪紫眼に関しても調べておいた方が良さそうだね。
「ふぁ……くぁっ、お姉様……?」
と、私の独り言が聞こえてしまったのか、アドルネルが目を覚ます。
「おはようアドルネル」
「おはようございますお姉様」
まだ完全に目覚めていないのかアドルネルはトロンとした目つきで立ち上がると私に抱きついてくる。
「よしよし」
「うふふ」
生まれて初めてと言って過言ではないスキンシップにアドルネルは幸せそうな笑みを浮かべる。
「それじゃあ町に戻ろうか」
「っ……はい」
けれど町と聞いてアドルネルがハッと目を見開き、長い髪の隙間から紫の輝きがのぞく。
「自分を閉じ込めていた所に戻るのが怖い?」
「……いいえ、お姉様がいるのなら怖くはありません」
自分にとって嫌な思い出しかない町に戻ると言われて身をこわばらせたアドルネルだったけれど、キッと決意の表情を浮かべると首を横に振って大丈夫だと宣言した。
「よーし、それじゃあ町に戻ったらまずはあの塔をぶっ壊そうか!」
「ええ!? 壊すんですか!?」
「うん! アドルネルが嫌なものは景気よくぶっ壊しちゃおう! それで領主の館を乗っ取ってザマァ見ろって言ってやるんだ! きっとすっごくすっきりするよ!」
「そ、そうですね」
ふふふ、少しは気がまぎれたかな?
◆
「そりゃー!」
思いっきりスピードを乗せて、私は吸血鬼パワーで塔に蹴りをかます。
ドゴォンという派手な音と共に塔が傾き、そして倒れた。
「凄い……」
蹴りの一発で目の前の塔が倒れる光景にアドルネルが呆然とする。
ふふふ、私は有言実行の女なのだよ。
町に戻って来た私は、速攻でアドルネルを閉じ込めていた塔を破壊したのだ。
そしてアドルネルを塔ごと隠していた木を引っこ抜いて屋敷の外に放り投げる。
「瓦礫の撤去と投げた木の処理はよろしくね。適当に建材に利用していいから」
アンデッド達に指示を出すと、私はアドルネルの手を引いて領主の屋敷へと入ってゆく。
「……」
辛い思い出しかなかった屋敷に向かうアドルネルの手が強張っているのが伝わって来る。
「大丈夫だよ。私がいるからね」
「は、はい」
屋敷に入ると私は近くの部屋から順番に覗いてゆく。
これから自分が住む屋敷の構造を確認する為と、もう一つはアドルネルの為に。
そして全ての部屋を回った私は、領主の執務室へとやってくる。
そこは隠し通路の扉が開いたままで、かび臭い匂いが通路の奥から漂ってくる。
私は換気をするように部屋の窓を全開にすると、アドルネルを抱き寄せて叫んだ。
「この町は私の物だー! 最低の領主から奪い取ってやったぞー!」
思いっきり叫んですっきりした私は、横に立つアドルネルに向き直る。
「……」
アドルネルは突然叫んだ私に目を白黒していた。
「ほら、今度はアドルネルの番。思いっきり本音を叫んでみなよ」
「ほ、本音ですか? でも何を言えばいいか……」
「難しく考える事ないよ。領主のクソ親父ーとか、お前の物は全部奪ってやったぞざまーみろとか、何でもいいから叫んじゃいなよ」
「さ、叫ぶ……何でもいい……」
ブツブツと呟きながらアドルネルは何を言えばいいのかと悩む。
そして言いたい事が決まったのか、キッと強い表情で息を吸い込んだ。
「お父様の最低男ーっっ! こうなったのも自業自得よー! 貴方の物は全部全部お姉様の物になったんだからーっ! えーっとえーっと、ざ、ざまーみろーっ!! ば、ばーかばーか! 死んじゃえー! あ、もう死んだんだった。ええと、罪人の獄におちろー!」
悪口を言い慣れていないのかなんとも微笑ましい感じの罵倒を夜空に向けて叫ぶアドルネル。
言いたい事を言い切り肩ではーはーと息をするアドルネルの顔は、とても晴れやかだった。
「すっきりした?」
「はぁはぁ……っ、はいっっ!」
それは、私が見た……ううん、きっと彼女が生まれて初めて浮かべた年相応の笑顔だった。
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