第13話 封じられた塔と幽閉令嬢
「やっぱり居ないなー」
領主の館を隅々まで探して生きている人間をアンデッドにした私だったけど、やはり領主らしき人間達の姿は無かった。
「町の中にも見当たらないし、何処に逃げたんだろう?」
真っ先に教会に逃げたのかと思ったけど、教会の跡地には神官と市民の死体しかなかったらしいし。
「ウゥゥ」
するとミイラ一号君が何かあったとジェスチャーで教えてくれる。
「おっ、領主一家を見つけたの?」
しかしミイラ一号君はそうじゃないと首を横に振る。
はて、それじゃあ何だろうと付いていくと、領主の屋敷の端っこにある塔に連れてこられた。
「こんな所に塔があったんだ」
でもこの塔妙だなぁ。
髙いは高いけど、微妙な高さだ。
領主の館より低いから、見張りの為の場所って感じでもないし、倉庫にしては屋敷から離れすぎている。
それどころか屋敷と塔の間には背の高い木々が植えてあり、まるで隔離しているようにすら見えた。
「もしかしてここに領主一家が逃げ込んだのかな?」
もしそうなら精鋭の護衛を控えさせているだろうし、念には念を入れてアンデッド達を偵察に向かわせる。
けれどアンデッド達は塔に近づこうとすると寸前で困惑する様に止まってしまった。
「どうしたの?」
アンデッド達はまるで塔に入りたくないかのように一定の距離から動かないでいる。
「んー、なんか魔力を感じる? でも何か魔法で攻撃しようとしてるって感じじゃないよね?」
よく見ると塔の周りをモヤモヤした魔力が覆っているのが感じ取れた。
といっても本当に薄いモヤ程度なんだよね。アンデッド達はこのモヤが嫌なのかな?
でも私には何も感じないんだよなぁ。
しゃーない、私が入るか。
領主一家を放置するのも厄介だしね。
何らかの方法で外に助けを求められたらマズいし。
塔の扉に開くと、ガチッという抵抗があり扉が開かない。
「あれ? 鍵がかかってる? でもまぁ」
バキンと力づくで扉ごと外す。
吸血鬼にはこんなチャチな鍵など無駄なのだ。
という訳で私は塔の中へと足を踏み入れる。
すると塔の中は更にモヤモヤに満ちていて、凄く視界が悪かった。
「むぅー、邪魔だなぁ」
私は魔力を操ってこのモヤモヤを拭き飛ばすイメージを作る。
湯気をふーっと吹き散らす感じだ。
するとモヤモヤはふっと掻き消える。
「ん、見やすくなったね」
するとアンデッド達も大丈夫になったのか、私に続いて塔の中へと入って来る。
「よーし、それじゃあ塔の中を探検だ!」
と思ったら塔の中は階段だけで、あっさり最上階の部屋までたどり着いてしまった。
道中の階段にも扉の前にも見張りや兵隊はいなかったし、この奥で待ち構えているんだろうか?
扉にはやはり鍵がかかっていたので力ずくで破壊すると、ミイラ一号君がまずは自分からと中に入ってゆく。
ミイラ一号君が襲われる様子がなかったので他の護衛アンデッド達も入っていき最後に私が中に入る。
意外にも中は何もない部屋だった。
いや、ベッドとテーブル、それにイスが一個と随分殺風景だけど部屋の体は成していた。
そして……
「あら、こんな夜中に何の用かしら? 朝食にはまだ早いけど? それとも、ようやく私を殺す気になったのかしら?」
ベッドに腰掛けた少女の姿がそこにはあった。
少女はこちらに身を向けながら、しかし私の顔を見ずに尋ねてくる。
へぇ、アンデッドを見ても驚かないなんて肝が据わってる子だね。
っていうかあれ? この子前髪がものすっごく長い。
目が隠れる程長くて、強いて言うならメカクレっ子? それでこっちが見えるの?
見えても目に悪くない?
それにしてもこの子は落ちつき過ぎている。
町の惨状に気付いていないのかな?
確かにここは周囲から隔離されているし、塔を包む木々で音がある程度吸収されているのかもしれない。
「領主一家を探しに来たんだけど知らない?」
私が尋ねると、少女は驚いたような顔になる。
「女の子? 私を殺しに来たんじゃないの?」
なんかさっきから殺す殺すって物騒だなこの子。
「貴女の事はこの部屋に来て初めて知ったよ。私が探しているのは領主一家」
すると少女は不審そうな顔で、けれど顔を見られたくないかのように絶妙に逸らしつつこちらを見る。
もしかしてこの子、何かの理由で領主一家に誰かから匿われていたのかな?
私達を追手か何かと勘違いしている?
「その人達に何の用なの?」
情報を知りたいから警戒されるのも困るんだけど、この子じゃ領主達の居場所を知ってそうにないからいいか。
「領主一家を始末しに来たの。私がこの町を支配する為に」
「は? 始末? 支配? どういう事?」
と少女は私達に視線をさ迷わせるように顔を動かして尋ねてくる。
んー、この子の挙動なんだろこれ? まるでこっちが見えてないみたいな……。
「あっ、そうか」
私は慌てて魔法で小さな光の玉を作る。
すると室内が淡い光で包まれた。
「キャッ……あっ、白……綺れ……キャアァァァァ!?」
突然の灯りに一瞬驚いたものの、少女は顔を開けてこちらを見てもう一度悲鳴を上げた。
「し、死体、ア、アンデッド!?」
はい、その通りです。
「うん、この町は私達が壊滅させたんだよ。後は領主一家だけ。素直に教えてくれるのなら貴女だけは見逃してあげてもいいよ」
今度は嘘じゃないよ。この子一人じゃ大変だろうし誰かが追ってるかもしれないから、かなりハードモードだろうけど。情報に見合ったチャンスをあげるくらいはしても良いと思うんだよね。
「この町を、貴方達が……? 騎士団は? 教会は?」
「壊滅させたよ。町全域が私達の支配下。あとは領主一家だけなんだけどどこにいるか知らない?」
「ホントに……?」
少女の呼吸が浅くなり、体がプルプルと震える。
ごめんねー、でも今の私は魔物だからね。
魔物の倫理観で生きているんだ。それに人間にはいい思い出が何も無いからね。
私が無言で微笑むと、少女は身体を固くしてこれが事実なのだと理解する。
「ああ、それじゃ私は見捨て……じゃあ、もうこの町は……」
「完全に崩壊したよ。もう二度と元に戻らない」
「領主が戻ってきても……?」
「瓦礫と死体の町があるだけだね。私達をどうにか出来ても、治める民も居ないから国に罰せられて貴族でいられなくなるんじゃないかな」
この世界の貴族制度はよくわからないけど、まぁ普通に考えれば民を見捨てて自分だけ生き残った領主の末路は悲惨だろうね。
物語では生き残った子孫が故郷を悪の帝国や貴族から取り戻してハッピーエンドみたいな話はあるけど、現実じゃ領民0の領地の再建は相当難しいんじゃないかな。
「そう……そうなの。それじゃあの男は破滅するのね……」
フルフルと少女が震える。ってあれ? 何か妙なこと言わなかった?
「あははははははははははっ! アイツが破滅するんだ! あははははは、あはははははっ!!」
「うぉ!?」
突然狂ったように笑い出した少女にびっくりする。
あれ? この子領主一家に匿われてたんじゃないの? 違うの?
「私をこんな所に閉じ込めて、無かったことにしたアイツが破滅するのね! あははははははっ!!」
少女はイヒヒ、アハハと感情の全てを吐き出すように笑い続ける。
そして息が切れ、肩で呼吸するようになってようやく落ち着きを取り戻す。
「えーと、貴方と領主ってどういう関係なの?」
なんか聞くのも怖いけど、聞かないのは聞かないで気になる。
「私は……アドルネル、アドルネル=フェネシア。このフェネシア領の領主の娘よ」
なんとこの少女は領主の娘だった。
アドルネルは語る。自分が何故こんな場所に閉じ込められていたかを。
「私はフェネシア家の後継者として生まれたの。でも私は呪われた証を持つ娘だった」
「呪われた証?」
アドルネルの見た目は長い黒髪の可愛い女の子だ。
肌が白いけどそれはこの塔に閉じ込められたからだろう。
窓は高い位置にあって、さらに小さいからから光もたいして入ってこないように見える。
この子の言う通りなら多分脱走防止なんだろうな。
ともあれ、ぱっと見呪われた証とやらは見えない。見えない所にそれっぽい形の痣とかがあるのかな?
「呪紫眼、呪われた力の証であるこの紫の目が不吉と言われているのよ」
と、アドルネルは長い前髪をかき分けて自らの目を見せる。
灯りに照らされたその瞳はまるでアメジストのようにキラキラと輝いていた。
「綺麗……」
思わず声が出る。
本当に綺麗な瞳だ。
「ふふ、お世辞でもありがと」
お世辞じゃなくて本当なのに。
「でもあの男はそう思わなかったわ。私の事を汚らわしい目の持ち主と忌み嫌った。それでもたった一人の跡継ぎだから貴族として育てられたけど、アイツは一度も私の目を見ようとしなかったどころか話しかけてすら来なかったわ。それは母親も同じ。私に話しかけるのは教育係と用事がある時のメイドだけ。だれも私から目を逸らしていたし、必要なこと以外話そうとはしなかった」
うわぁ、そりゃあ酷い。
「そして弟が生まれた日、私はこの塔に閉じ込められた。その時生まれて初めてあの男の声を聴いたわ。『後継者が生まれたからお前はもう用済みだ。死ぬまでここにいろ。殺されない事を感謝しろ』ですって」
これには言葉も出ない。魔物だってもっと情があるよ。
「塔にはご丁寧に逃亡防止の呪いまでかけられていたわ。私を利用しようとする人間が入れないよう結界も仕掛けてあったみたいで、食事を運ぶメイドだけが専用のマジックアイテムで入ることが出来るようにしてある徹底ぶりよ。多分弟に何かあった時の予備だったんでしょうね。なんなら子供を産ませる為に生かしておいたんじゃないかしら?」
あまりにも酷い内容を淡々と語るアドルネル。
その目にはこの世への絶望しか映っていなかった。
「貴女、あの男が何処に逃げたのか知りたいのよね?」
「え? あ、うん」
「以前教育係から聞いた事があるわ。領主の館には何かあった時の為に抜け道が用意されているんですって。私はこの通りの身の上だからどこにあるのか教えて貰えなかったけど、屋敷のどこかにあるはずよ」
成程、隠し通路か。確かにお約束だよね。
「教えてくれてありがとう。皆、屋敷の敷地内を探して隠し通路を見つけて!」
私が命令するとアンデッド達が動き出す。
さて、それじゃああとはアドルネルの処遇だね。
「じゃあ貴女は逃げて良いよ」
この子は重要な情報を教えてくれたからね。
アンデッド達にも彼女だけは襲わない様に指示を出して、なんならこっそりウルちゃんズを付けて近くの町まで護衛させても良いだろう。
あの冒険者達のような憐れなミスは犯さないよ。
「さ、どうぞ」
私が横に下がって扉までの道を開けると、アドルネルはベッドから降りて歩き出す。
けれど彼女は私の前まで来ると歩みを止めた。
「どうしたの? 逃げて良いんだよ? 私の目的は領主一家なんだから」
「私も領主の血を引くのに?」
「でも家族じゃないんでしょ?」
「っ! ……うん!」
世の中には血がつながっていても家族と言えない、いや言ってはいけない相手がいる。
彼女の場合は領主がまさにそれだ。
「お願いがあるの。アイツを、あの男、ううん、アイツ等を絶対殺して! 私を捨てて自分達だけ幸せに生きてきたアイツ等に、私の苦しみを味あわせてやって!」
「いいよ」
それで貴女の気が晴れるならね。
この子の気持ちは凄くよく分かる。
前世の私も、この子とは違う形で肉親の悪意に晒され続けて来たからね。
「それともう一つ……」
と、アドルネルが私に身を預けてくる。
髪の隙間から間近で見る紫の瞳は小さな灯りに照らされて、潤むように揺れている。
そんな幻想的な色を湛えながら彼女は言った。
「私を殺して」
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