魔法使い3
偵察任務は、時に辛かった。
ただ戦場で敵兵の動きを探るだけならよいのだけれど、時には村などに入り込んで敵国の民間人と関わらなければならない事もあった。
民間人には手出ししない不文律があるから、彼らを直接傷つける訳ではない。けれどそれでも、戦争の影響は確実に受けるだろう。知り合いや親族が戦場にいる人だっているだろう。
親切にしてくれた人たちが、私がもたらす情報の所為で辛い目に遭うと思うと苦しかった。
だから背が伸びてからは、なるべくローブで全身を隠すようにした。亡くなった師匠と同じように。
そうすれば、子どもだからと優しくしてくれる人が減ったから。
人を殺すのは嫌だったけれど、戦場に行った。私が逃げても、他の誰かが代わりにやるのだ。他人を傷つけ殺すのだ。
ならばせめて早めに決着がついて、最小限の被害で済むように。
いつの頃からか、そう考えるようになっていた。
だからひとたび戦場に立てば、容赦なく命を奪った。抵抗する気力を打ち砕く為に。抵抗するだけ無駄だと思わせる為に。彼らも殺し殺される覚悟で戦場に立っているのだからと自分に言い聞かせて。数えきれないほど殺した。
もちろん私も毎回攻撃を受けた。死にかけた事も一度や二度ではない。けれど
生き延びなさい
師匠の最後の言葉が、胸にずっと残っていた。
だから私は、自然治癒力向上の魔法を毎日自分にかけ続けた。
おかげで今では多少の傷ならすぐに消え、深い傷も何もせずともそのうち治る体になった。そのせいか、私を不死身だと思っている人もいるようだった。
そして私の名前は知られるようになっていった。
名前というか、二つ名が。
戦場の銀狐
それが私につけられた二つ名だった。
フードから覗く髪と身のこなしから、そう呼ばれるようになったらしい。
名が広まるにつれ、私が戦場に立つと敵の降伏や退却までの判断が早くなった。
幸い私を使う指揮官は理性的な人間が多く、降伏すれば受け入れ、退却するなら物資を破壊して継戦能力を奪うだけで済ませていた。だから、その所為もあったのだろう。
私の身柄はいつしか、私を買った貴族から国そのものに移っていた。私の力が強くなり過ぎた為、私を所有していた貴族が叛意を疑われるのを恐れて差し出したのだ。
「良い買い物をしたと思ったが、私には少々すぎた買い物だったようだな」
私を送り出す時、皮肉げに肩をすくめていたけれど、それでも慣れ親しんだ道具に対する愛着めいたものを感じた。
任務で一般的な奴隷に対する扱いを見る機会が何度もあった私は、それが破格の扱いだと知っていたので黙って頭を下げた。
「無口なのも師匠譲りか」
と苦笑されてしまったけれど。