魔法使い1
私は魔法で生計を立てている。それも商人や貴族相手ではなく、国に直接雇われている。
私は……多分この国一番の魔法使いだ。
周りからそう言われているし、今まで会った魔法使いに、私より魔力量の多いやつも魔法の展開が速いやつもいなかった。戦場で出会った敵国の魔法使いにも負けた事はない。
……そう、戦場。強いと、どうしても駆り出される。戦場に。
この国は、何代も前の王の頃から飽きもせずに国境を接する国々との戦争を繰り返している。何度も停戦を挟みながら。
そうなると、どの国にも互いの国に親族を殺された者が多すぎて止められないらしい。それと国内の不満を外へ向けさせるという支配者側の理由もあるのだとか。
人は攻撃する対象があれば、そちらに気をとられるものだから。
悪いのは、国内の支配者層ではなく攻めてくる敵国だ。食料が足りないのも税金が重いのも、全部敵の所為だ。戦争に勝ちさえすれば暮らしはよくなる。平和になる。幸せになれる。だからこの戦争に勝たなくては。
国の上層部は、そう思わせるのが上手い。
国境沿いの町は、取られ取り返され何度も属する国を変えてきた。最早元々どちらの国に属していたのか誰にも分からない。
それでもどちらの国も主張する。そこは自分の国の土地だと。父の代は、祖父の代は、百年前は、もっと古い文献上は自分の国の領土だったのだからと。互いにそう言って譲らない。
私は正直、そんなのはバカバカしい事だと思っているのだけれど。
でも、力ある魔法使いとはいえ学のない私ごときの意見が通る筈もない。たとえ私が支配者層を全員殺したとしても、指導者を失った国は統制をなくし、他国にたやすく攻め入られて蹂躙されるだけだ。攻めてきたその国の支配者を殺しても、今度はそのまた隣の国が……。
キリがない。
私にはどうにもできない。
私はいわゆる戦争孤児だ。
国境沿いの町で育った私は、当たり前のように戦火に巻き込まれ当たり前のように親を亡くした。自分の命まで無くさなかったのは、まだ幸運だった。
腹を空かせていた幼い私は、これまた当たり前のように奴隷商につかまった。
いや、本当によくある話なのだ。
それでも運が良い方だったのだ。少なくとも、奴隷商の元にいれば餓死することはないから。
更に運のいいことに、私の魔力量は当時から人より多かったらしい。
それに目をつけた貴族に買われ、私は魔法の訓練をさせられるようになった。他の、同じように買われてきた子どもたちと一緒に。普通の子どもならば泣いて逃げ出すような厳しい訓練を。
奴隷に選択の自由などない。他に行き場のない私たちは、その訓練を大人しく黙々と受けるしかなかった。
幸い私は、師の与える課題を大抵は何とかこなす事ができた。そのお陰で罰を受けることはほとんどなく、私を買った貴族のお気に入りとなっていった。