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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第六章 新たな課題

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92.ヴィーラの長

「ここは人族の世界とは何ら変わりがないな」


 周囲を見渡しながら独り言の様にそう言うと、リンクが俺に目を向けた。


「ほんとだよ。それに、全然村じゃないじゃん。街だよ街」


 アリスは大きな瞳を更に大きくさせる。


「ああ、そうだな。昔から村と言っていたからそれが今でも続いているのだよ」


 リンクはフフッと笑い、立ち並ぶ石造りの建物や、洒落た店を改めて見直す。


「人も多いしさ、私の住んでいるサンプールの街と全然変わんないよ」


 アリスは道行く人の仕草一つ一つに目を傾ける。


「ああ、人族との違いと言えばピンと立っている耳くらいだ」


 リンクは茶色の長髪を搔き上げ、自身の耳をアリスに見せた。


 リンクの言う通り村道を歩くヴィーラの人たちは服装も髪型もそれぞれで皆お洒落である。


 サンプールに居る人族となんら差はないが、ただ、行きかう多くの人たちの視線は常に俺達を捕らえている。


 特に気になるのは、ヴィーラ人以外他の種族が一切目につかない事だ。


「人族との事は聞いたが、ヴィーラ族は他の種族との交流は有るのか?」


「いや無い。この村は生産から販売までほぼすべての事を我々ヴィーラ族だけでまかなっている」


「なるほど、ヴィーラ族の独立国家ってわけだ。だからチラチラと俺達の方に目を向けて来るのか」


「ああ、自分たち以外の種族が珍しいのだよ」


 確かに全く悪意は感じられない。それに気さくな感じで、時折微笑みながら「こんにちは」と挨拶をしてくる人も居る。


「警戒されている割には気さくに話しかけたりして来るのだな」


 俺は思った疑問を直ぐに口にした。あまりにもあの戦士風の男たちと村人の態度に温度差があるのだ。


「ここに人族が入って来るのはお前たちが初めてだ……特に村の若い者は噂でしか人族の事を知らない。それに人族と距離を置いている事は一部のヴィーラ達しか知らない事だ」


「余程人族を警戒しているのだな。確かにここで生活をしている限り子供が人族に攫われることは無いものな」


 リンクの義理堅さに改めて感心するが、ある意味危険さも感じる。


(そんな所によく俺達を招き入れたものだ)


 だが、それもまたリンクの良い所だなと俺は納得した。


「という事は、子供が攫われかけた話はずいぶん昔の話なんだね」


 アリスのため息交じりの声を潜めた囁きは、「最近の話じゃなくて良かった」と安ど感が漂う感じがする。


「ああ、だから『人族は悪者だ』と変な固定観念を与えないように、今ではその話は伏せられている」


 話題のせいか俺を含めたそれぞれの口数が減り、空気が重くなる。なんとかこの雰囲気を変えようと、俺は気になっている事を口にした。


「ところで、ここは隠蔽魔法で隠された村ではないと言っていたが、それはどういう事だ?それにリンクが村の外に出る理由はなんだ?」


「……俺の口からよりも、その事はおさに話をして貰う。もう間もなくおさの所へ着く」


 俺の振った話題が悪かったようだ。リンクは目を伏せ、話す唇も重そうだ。


 何やら含みのある言い方だが、突っ込みを入れられる様な雰囲気ではない。


 アリスは自分の髪を指で丸めながら、何度もリンクに視線を送るがリンクはひたすら前を向き黙って歩き続けた。


(頼むから早くおさの屋敷に着いてくれ)


 目の前に和風の大きな平屋が見えてきた。どうやらここがおさの屋敷らしい。屋敷の玄関に着くとリンクが大きな声をあげた。


おさ!リンクです。只今戻りました」


 リンクがそう言うと屋敷の扉が開き、中から髪を団子の様にひとまとめにしている割烹着かっぽうぎを着た中年の女性が現れた。女性は俺達を見て少し眉をピクリと動かしたがそれ以上は特別な反応をせずリンクに話しかけた。


「お帰りリンクさん、おさは奥でお待ちですよ。その様子じゃあ……何かあったんだね、ささ、お客さんも一緒に入ってくださいな」


 見知らぬ人族が一緒について来ているにも関わらずおさの元に招いてくれるとは、リンクの信頼は相当なものである。


 だが、アリスの眼はまだ泳ぎ握った拳には力が入っている。


 あくまでも想像に過ぎないが、成長著しいアリスは徐々に相手の生命力が分かるようになってきている。この女性、見た目には女中の様に見えるが明らかに人族のそれよりも生命力が溢れている。


 彼女は生命力の差を感じ取るたび、胸の奥で小さなざわめきが広がっていっているのだろう。


 中年の女性の後をリンク、そして俺達が続いて歩く。


「ねえ、本当に大丈夫だよね?いきなり囲まれて捕まったりすることなんてないよね?」


「ああ、女性からもこの屋敷からも嫌な感じの潜在的エネルギー(オーラ)は感じない。きっと大丈夫だ」


 その会話がリンクに聞こえていたかどうかは判らないが、女性は黙って二人の前を歩き和風の開き戸の前で立ち止まった。


おさ、リンクさんがお客さんを連れて帰ってまいりましたよ」


 女性がそう言うと開き戸の奥から「入れ」と野太い声が聞こえた。女性が開き戸の前で中腰になり、スーッと開き戸を引くと中では顔だけ見れば老人、見た目は筋肉隆々の若人が上半身裸で右母指だけの指立て伏せをされている所だった。


「ちょっと、待ってくれよ……299……300……っと、ふぅ」


「もう、おさぁ……客人の前でおやめください。驚いておられるではないですか」


 その姿を見た女性は直ぐに苦言を呈するが、目の前の老人は汗を拭いながら「ガハハハ」豪快に笑いながらも俺達に鋭い視線を向けた。


 そしてふぅと一息ついた後ゆっくりと立ち上がった。人族との過去の因縁の為か、むき出しになった筋肉は俺達への警戒を解いてはいない。少しの沈黙があり、ゆっくりと胡坐をかいたおさは女性から手渡された手拭いで汗を拭った。


「……」


 おさの目つきは少しでも怪しい動きがあったなら直ぐにでも拘束するとでも言わんばかりのものだ。


「お、おさ、この者達は私の命を救ってくださり……その……村の教訓により……」


 リンクはおさの態度に焦ったのか、しどろもどろになりながら必死に事情を説明しだした。


 二人の間に張り詰めた緊張感が見て取れる。空気を読んだ俺は「ここは黙って様子を見るのが得策」と寡黙を貫いた。おさの一連の動きを食い入るように見つめていたアリスはと言うと一切そんな事にはお構いなしに、目を丸くしながら感嘆の声を上げた。


「わぁ、凄い筋肉!リンクさん、おささんって凄いおじいさんですね。おさって言うものだからよぼよぼのおじいさんを想像していましたよ」


(何を言い出す!いきなり失礼だぞ)


 周りに聞こえるほどのリンクと俺の固唾を呑む音が響く。アリス以外の全ての人に更なる緊張が走った瞬間だ。


 だが当のおさはその言葉により、いきなり表情が崩れた。


「ほっほっ……おじいさん何て言われたのはいつぶりかの」


 アリスの見事な一言でその場の空気がひっくり返った。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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