表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第六章 新たな課題

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/109

90.ヴィーラの村へ

 俺とアリスが自身の名前と冒険者ワーカーである事を告げるとリンクと名乗るヴィーラは助けてもらったからと言って、ここに至るまでの経過を話し出した。


 ヴィーラと言う種族は竜をも含む獣を扱う事を得意とする妖精の仲間で、当然魔法も使えるのだと。確かに傍に居る小竜はリンクにじゃれついていた。その小竜の名はノアと言うそうだ。


「必要に応じて小竜に乗りこの森の調査と、魔物を狩り魔石を採取している」


 すっかり回復したリンクは小竜を撫でながら穏やかな口調でそう話す。回復した小竜ノアもリンクに首をもたげゆっくりと羽を動かしている。


「それにしてはリンク達ヴィーラとは会った事がないわね」


 アリスは笑顔のまま「どうして?」と首を傾げる。


「……私達は人族との接触を避けている。この近辺でしか活動をしないのだ」


 俺達には語りたくない一言だったのだろう。リンクの顔を伏せがちで声のトーンも沈んでいる。


「確かに、この辺りは魔物が強いので、余程でない限り冒険者ワーカーが来ることは無いな」


 試しにリンクを検知してみると、確かに彼が言う通り生命力は2万5千。基礎能力はアリスよりもかなり高い。


(こいつの実力ならもう大丈夫だろう。関わるのはここまでだな)


「そうか。怪我が治って良かった。気を付けて自分の村へ帰れよ」


 俺はリンクにそう言いながら小竜の頭を撫でた。小竜が目を細めペロッと舌を出し俺の手を舐めると、アリスも嬉しそうに「じゃあ元気でね」とリンク達に手を振った。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。何故、人族との接触を避けているのか問うたりしないのか?」


 リンクは少し声を荒げ、何かを掴むように右手を出した。


「いや、別に言いたくない事を言う必要はない」


 俺の返答にリンクの肩は強張り、体全体が小刻みに震えた。


「わ、私達ヴィーラ族は受けた恩に恥じない行動をとる事を誇りにしている……」


「いいのよ、そんなに重く考えなくても。私は気にしていないから」


 アリスはリンクに近寄り、目の前に出された彼の手を両手で握った。優しく握られた手にリンクの険しかった表情が緩む。


「すまない。恩人に対して私は不義理を行うところだった……」


 しっかりとアリスを見つめ直したリンクは「全て話をする」とはっきりとした口調で答えた。


 なかなか義理人情に厚い奴だと感心していると、ついつい俺の口から言葉が漏れでる。


浪花節なにわぶしだな……」


 俺の一言でリンクは口を開けたまま言葉を失い、何度も瞬きを繰り返す。


「……すまない、なんだろうそれは……鰹節かつおぶしなら知ってはいるが……」


「……すまん、聞かなかったことにしてくれ」


「ねえねえ、なになに?なにぶしって?よく聞き取れなかったわ、教えてよレア」


 アリスが急にぐっと俺の方へ身を乗り出し、食い気味な声には弾みが混じる。


「少し黙ってくれるか……アリス」


 俺がアリスの口を塞ぐと、彼女は目を吊り上げ大きく地団駄を踏むのだった。


  ◇ ◇ ◇


 リンクいわく、遠い過去に人族の冒険者ワーカーから政治的理由でヴィーラの子供をさらわれそうになったらしい。


「そんなに強いヴィーラ族なのに人族に子供をさらわれるの?」


 アリスは首を傾げ不思議そうにリンクに問いかける。


「ああ、ヴィーラ族の子供は人族よりも弱いからな」


 リンクによるとヴィーラ達は人族よりも圧倒的に強いが、人口は人族よりも圧倒的に少ない。


「数で圧倒されるとお互いただでは済まない事は判っている。俺達は争いを望まない」


「なるほど、幸いここには人族はあまり入ってこない。村を隠してしまえばほぼ関わる事はないってことか」


 鋭い目で森を見渡しながらリンクはゆっくりと歩き出す。


「そんな大切な事を私達に話していいの?」


 静かにそう話すリンクが一息ついた時、アリスはそう呟いた。


「私達ヴィーラは恩人に対して、偽る事はしない。それに私は悪人かどうかを身体からでる潜在的エネルギー(オーラ)の色で判断できる。それと……」


(それとどうした?)


 リンクの言葉が急に詰まり、横を向いたと思うとゆっくりと立ち上がり傍に落ちている自身の弓と矢を拾い出した。


 じっと自分の弓を見つめるリンク。


「こいつも役には立たなかったな」とリンクは寂しそうに微笑んだ。


「あの魔物は……」


 俺が『黄魔おうま』の説明をしようとすると、リンクは首を横に振った。


「いや、気にしないでくれ。さあ、恩人たちよ、私の村に案内しよう。付いて来てくれ」


 リンクは小竜の頭を優しく撫でた後、首元についている手綱を引いた。小竜はゆっくりと立ち上がりリンクの身体に顔を擦り付けた。


「よく馴れているのね」


「ああ、小竜ノアとは幼少の頃からの付き合いだ。戦士希望のヴィーラは10歳になると小竜を与えられるのさ」


 アリスの温かい眼差しで見つめられる中、リンクは黙って茂みの中をゆっくり進んで行く。


 後に付いて来る俺達の為に立ちはだかる木や草を避けながら進むところから、かなり気遣いの出来る男だという事が伺える。


 20分ほど歩いただろうか、「ねえねえ、私達何処に連れていかれるんだろう」とアリスは落ち着きなく周囲を見渡す。


 突然リンクと小竜ノアが立ち止まった。そしてリンクは周囲の気配を感じ取る様に両手で耳に手を当てて、その場で立ち竦んだ。


「ブツブツブツブツ……」


 リンクが聞き取り難く意味不明な言葉をつぶやいたかと思うと、目の前に直径2メートル程の黒っぽい揺らぎが現れた。


「さあ、こっちだ」


 そう言って小竜の手綱を引いたリンクが揺らぎに入って行く。俺達もそれに続いた。


 どこかのお店の暖簾のれんをくぐった後の様に、目の前に全く違った光景が現れる。リンクは村と言ったが、目の前に広がる石造りの建物や、お洒落を決め込みながら行き交う人々に、市場の香辛料の香り。


 ここは間違いなく街だ。

いつも読んで下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ