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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第六章 新たな課題

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81.私の剣

 あっという間に俺達はバルディーニの工房に着いてしまった。相変わらずデカい玄関だ。


 前回訪問した時には呼び鈴を3回鳴らして漸く使用人が顔を出してくれた。それも3回目は『リンリンリンリン』と何度も鳴らしたのだったな。


「前回直ぐに出て来てくれなかったから、今回はいきなり何回も鳴らしてみよう」


「ちょ、ちょっと止めなよレア。迷惑だよ」


 アリスは顔を引き攣らせて俺の服を引っ張るが、そんな事は一切気にしない。『リンリンリンリン』と何度も鳴らしてやった。すると、前回と同じように初老の使用人らしき男性が玄関の扉を開けてぬっと顔を覗かせた。


 ほらこれが正解だったのだ。この爺さんとはもう顔見知り、今回は拒否されるまい。


 俺は意気揚々と玄関に近づいたが……


「どちら様か判りませんが、旦那様によると本日は誰ともお約束をされておられないらしく、速やかに帰って貰えとの事でして……」


「な、なんでだ?んん?」


 思わず声が裏返り、言葉が喉で途切れそうになる。前回と全く同じ対応である。


 俺は一呼吸おいて息を整える。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺の事を覚えていないか?ほら、前に細剣レイピアを見て貰って剣を作ってくれるって約束していたではないか、じいさんもその時居ただろう?」


「はて、わたくしは細かい事など覚えないたちでして……」


 首を傾けて他所の方向に視線を向ける爺さん。漫画の一コマならキョトンという吹き出しが確実に出ている。


 現実感が霧散し、理解が追いつかない。俺は不信感満載で眉を寄せていると、アリスがこっそり耳打ちをしてきた。


「ほら、レア、前の時あのおじいさんにチップ渡していたでしょ?今回もチップが要るんじゃないの?」


 全く考えていなかった。まるで頭を鈍器で殴られたような衝撃だ。


 くっ……そういう事か。おれは渋々懐から1,000ピネル銀貨を取り出し、爺さんに差し出した。


「これは手間賃だ。これで巨匠に取り次いでくれないか」


 爺さんは1,000ピネル銀貨を受け取ると、本当にほんの僅かだけ口角が持ち上がった。そしてコホンと一回咳払い。


「そうまで言うなら仕方がありませんなぁ。まあ、一度旦那様にお尋ねしてみますが、期待はされない方がいいですよ」


 そう言って奥に引っ込んでしまった。やはりそれを狙っていたのかよ。小賢しいじいさんだぜ、全く……


「なあ、アリス。ここでバルディーニに会おうと思ったら毎回1,000ピネル銀貨が必要なのか?どう考えてもおかしいだろう、俺達は客だぞ?」


「もう、仕方がないじゃないの。ここではきっとそういうものなのよ」


 アリスは完全に他人事である。


「なら仮に今後剣の調整とかでアリスが此処に来たとして、その時にも1,000ピネル銀貨が必要になるんだぞ?それでもいいのか?」


 俺がそう言ってもアリスはあっけらかんとこう答えた。


「全然かまわないよ。だって私はレアと一緒じゃないとここには来ないもの。レアだって巨匠とはいえ男性の家にうら若い女性を一人で向かわせたりはしないでしょ?それに……」


「それに?」


 アリスは少し言葉を詰まらせ、モジモジしながらスカルサーベルを取り出した。


「……私にはこのスカルサーベルがあるから、別に新しい細剣レイピアは必要ないかも」


 なんてことを仰る。


「それはダメだな」


「えー何でよー」


 そう言って口を尖らせるアリスだが、俺が否定するのにはちゃんとした理由がある。そもそもスカルサーベルは刀身を出しているだけで魔力を吸われ続けるのだ。


「長期戦になるとアリスの魔力は確実に枯渇する。それに、エルザから他の冒険者ワーカーに広域魔法をかける様に言われているのだろう。同時に行えばあっという間に底を突く。つまり何が言いたいかと言えばだな……スカルサーベルを使うにはお前はまだ弱っちい」


 これを言うと不貞腐れると思っていたが、案の定アリスは顔を赤くして目一杯頬を膨らませた。


「……じゃあどれくらい強くなればいいの?」


「お前の魔法量7,000では全く足りぬ、そうだな。目安としては10万は欲しい。井戸一つ分の水と、水瓶の水ぐらいの差がある。水瓶が空になれば命だって危ういんだぞ」


「……」


 自覚が有るのかアリスはそのまま唇を噛み黙ってしまった。


「そんな顔をするな、作って貰っているアリスの剣はオリハルコン製だ。オリハルコンはすこぶる魔法との相性が良い。攻撃力が足りないと感じた時にはその刀身に魔力を纏わせたらいいのだ、その方がずいぶん魔力を節約できる」


 一応俺なりにフォローをした。アリスも納得のいかない部分はあるだろうが、魔法量が足りないのは事実だし、如何せん折角バルディーニが彼女の為に一生懸命剣を作ってくれているのだ、そんな事を言うのはバルディーニに対して大いに失礼である。


 アリスは目を伏せスカルサーベルに両手を添えて俺に差し出した。


「ダメな事を言ったね。私……」


 そんなやり取りをしている時に再び玄関が開いた。


「旦那様がお入りになってくださいと言っておられます」


  ◇ ◇ ◇


 二人が案内された先は二十畳以上ある畳の間。そこに地球で言うところの和風っぽい着物で身なりを整えたバルディーニがどっしりと畳の上で胡坐をかいて座っていた。


 この星にも畳が有るのか、初めて見たな。


 俺は地球に居た頃を思い出し、視線は畳に釘付けとなる。すると、バルディーニはゴホンと咳払い。どうやら早くそこに座れと言っているのだ。


 おっと、いかんいかん。感傷にふけっている場合ではない。


 俺達がバルディーニの前に座ると、彼は一本の剣を差し出した。それを見てアリスは目を光らせた。


「私の剣?」


巨匠がニヤリと白い歯を見せた。


「そうだ。このわしが作ったお前だけの剣だ」


いつも読んで下さりありがとうございます。

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