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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第五章 混沌を引き起こす者

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69.パトリツィオ

「さあ姉ちゃん、俺達と一緒に来て貰おうか」


 手下1がアリスに手を伸ばすとその腕をパシッと跳ねのけた。顎髭を蓄え、色黒で筋肉隆々の手下1、アリスの1.5倍はありそうなその体格。見かけだけならゲルダよりよほど強そうなその男は、跳ねのけられた手をチラッと見てアリスを睨みつけた。


「おいおい、あしらわれてんじゃねえか。へへへ」


 茶髪でチャラそうな手下2が手下1を見てあざ笑う。ゲルダは少しイラっとしながら「チッ」と舌打ちをした。


「おい、何してやがるんだ。さっさと掴まえてこっちへ連れてこい」


 ゲルダの怒号が響くと、手下1は「おとなしくしやがれ」と再びアリスに掴みかかる、それも先程よりも勢いよく。


 アリスは手下1が伸ばした腕を掴み、クルリと自身の身体を回転させ男の身体を背負い込むと、勢いよく後方へ投げ飛ばした。


 10メートルは飛んだろうか、遠くの方でドンと地面に何かが打ち付けられた音がして、手下1のうめき声が聞こえた。


「こ、こいつ何か武術をやってやがる」手下2がアリスを見て構えた。


 だがそれはとんだ間違い、アリスは武術の心得など無い。圧倒的な生命力の差によって、手下1の動きが止まって見えるので、伸びてきた腕を掴んで放り投げただけだった。


 ちなみにアリスの生命力はこの時点で7000は超えている。ゲルダの生命力は345位なので、仮に手下1と手下2が彼と同等の生命力であったとしても、アリスは彼らの20倍の強さだ。


 勿論それほどまでに自分達とアリスの生命力に差が有るなどとは考えもしない。


 冷静に考えれば、10メートルも人を投げ飛ばせることが出来る相手は、自身よりも圧倒的な力の差があると分かりそうなものだが、手下2はただ単に『何らかのタイミングが合って手下1は飛ばされた』つまり、たまたま起こった出来事だと解釈をしたのだ。


 ところがゲルダの方は、拳法のような構えを取った手下2の後ろで驚愕の表情を浮かべている。アリスを見て圧倒的な力の差を感じ取ったのだ。思い出すのはあのレアと出会った時に受けた鼻骨骨折。圧倒的な強者に初めて抱いた恐怖感。まるでアリが象に挑んだくらいのあの恐ろしさと言えば、この仕事から足を洗いたくなるほどの事だった。


 ゲルダが今連れている手下1と手下2はあの時の手下ではないので、この二人はあの時の恐怖を知らない。よって、格闘技を得意とする手下2は「小柄な女相手に自分が負けるはずは無いと」根拠のない自信を持っているのだ。


 手下2が構えを取ったままステップを踏み、「アチョー」とか言いながらアリスに攻撃を仕掛けると、彼女はそれらを見事にかわしていく。相当な手数を繰り出してはいるが、アリスには全くかすらないのだ。


 アリスにとっても格下の対人戦はドナルド以来で、自身のあまりの強さに酔いそうになり、ついつい戦いを楽しんでしまっていた。


 その戦いを見てゲルダは確信した。やはりこのアリスも自分達と比べ物にならないくらい格段に強いと。


(な、何か対策を立てないと……このままでは俺もやられちまう)


 それに高みの見物をして、今戦っている娘に指示をしていたあの小娘は、もしかしたらそれ以上の強さかも知れない。


 恐ろしくなってジリジリと後ずさりをすると、何かにぶち当たった。


 有るはずのない障害物に驚いたゲルダはビクッと身体を震わせ、後ろを振り向くとそこにはパトリツィオが無表情で立っていたのだ。それもお供もなしでひとりだ。


「ぼ、ぼ、ぼ、ボス……いつの間に……な、何故こんな所へ……」


「ハハハ、情けねえな。いい様にあしらわれているじゃねえか」


 口では笑ってはいるが、鋭い目つきがアリスを睨みつけている。オールバックの髪に真っ黒なスーツを身に着けた身長は170センチメートル程度の中肉中背の男。見た目からしてさほど強そうには見えないが、存在感は半端ない。


 ボスにみっともない所を見られたことで、自身の命の心配をしなくてはならないゲルドは即座にその場へ座り込んだ。完全に板挟み、彼にとってはボスもそれ程までに恐ろしい存在であった。


「も、も、申し訳ございません。あんな小娘一人に手を焼いてしまって……」


 ガタガタと震えるガルダに対してパトリツィオは思いもよらない言葉を発した。


「ああ、お前らはあいつらは無理だ。だが、お前らのお陰で面白いもんが見つかった。フフフ、今回の失態は目をつぶってやる」


「え?どういう事で?ボスはあの長いブロンズの娘が気になっているんですかい?」


「いや、あんなのはどうでもいい。面白いもんというのはあの黒髪の娘だ。フフフ、この街にあんな奴が居たとは」


 パトリツィオは独り言の様にそう言うと、その場から姿を消した。いや、姿を消したというより、誰にも見えないくらいのスピードでその場を離れたのだ。


 丁度アリスのアッパーカットが決まった頃、なんとエルザの目の前に男が立っていた。


 全く気配を感じ取れなかった。エルザは目の前に居る男の膨大な生命力を感じ取った。


(こいつはやばい……)


 エルザは直ぐに距離を取ろうとしたが、時すでに遅し。気が付いた時には腕を掴まれていた。


「こ、こいつ……」


 エルザは掴まれていない方の手で、強烈な炎の魔法を目の前の男に放った。が、男は掌でそれを払い除けた。少し衣類が焼けはしたが、肝心の男には傷一つ付いていない。


 ドーンという強烈な音を聞いて、アリスはエルザが見知らぬ男に掴まれているのを初めて知る。


「師匠に何をする!」


 アリスは大急ぎでエルザに駆け寄ろうとした時、エルザの掌がアリスに向けられた。重くて速い空気の塊がアリスにぶち当たり、そのまま何百メートルも飛ばされてしまったのだ。


 私は逃がされた……師匠が危ない。アリスはエルザの危険を悟った。


いつも読んで下さりありがとうございます。

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