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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第五章 混沌を引き起こす者

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65.マイクの修行

「馬鹿たれか。あの刀身を素手で触りにいく奴が何処に居る!」


 ミラージュの『回復ヒール』によって、何事もなかった様に掌を治療してもらった後、マイクはこれに至った経緯を話すと大いに叱られた。


 青く光る細い糸を見た時には綺麗でとても切れるような代物には見えなかったが、よくよく考えれば自分が切れなかったベヒモスを、スカルサーベルを使ったアリスが切っていたのだから、細くてもそれなりに鋭い切れ味があってもおかしくはない。要は自慢ではないが腕力では絶対にアリスよりも上回っている自信のあるマイクはスカルサーベルの切れ味をあなどっていたわけだ。


「まさか、触るだけで手がパックリ開くくらいに切れてしまうとは……」


 感心するように呟くマイクを見て、ミラージュはやれやれとため息をついた。


「あのな、お前さんはそれなりの強さがあって、ギルド内では英雄的な扱いだったかもしれんが、その浅薄せんぱくな考えは改めた方がいいぞ。思慮深くなれとは言わん、だがな、もう少し物事を考えながら行動した方がいいぞ」


 俺はそんなに浅慮せんりょか?とマイクは首を傾げるが、ミラージュはそんなマイクに構わずポリポリと頭を掻きながら「おい、お前さんの言っていた糸みたいな刀身を出して見ろ」と言った。


 ミラージュにとっては『そんなもん、あの刀身が危ない事なんて見りゃわかるだろう』ってとこである。魔物を食う魔物が今後、この街いや、この世界にとって脅威になる事は判っている。だからこそ浅薄な行動は自分の命を削る事にもなりかねない。だが、ミラージュもレアが訪れた時に闇雲に攻撃をした男である。決して人の事を言えたものでは無い。


 でも、それはそれこれはこれ。人の行動は目につきやすいものなのである。その自覚はないわけではないが、あくまでもマイクを思っての事、そこは寛大な心で許してもらえるはずだと身勝手なミラージュは浅薄せんぱくに考えるのである。


 勿論、その事をしっかりとマイクは覚えているわけで『ミラージュさんだって……』と思いながらも、こちとら教えて頂いている身である。当然そんなつまらない事で口答えなど出来ようはずはなく、言われた通り糸の様な刀身を出現させた。最初に出すときにはあれほど苦労した刀身だったが、コツを掴むと思ったより簡単だった。ただショボいのは否めないのだが。


「ほほう、確かにショボいが刀身を出せたな。この色からすると水をイメージして出したんだな」


 ミラージュは顎髭をもしゃもしゃと触りながら、風前の灯火の様な刀身を見てそう言った。


「ええ、そうなんです。水分を欲して冷んやりとしたコップの水を想像したらこれが出てきて……」


「フムフム……水を欲してとな」


 ミラージュは少し考え込んだ後、拳をポンと叩いて思い立ったようにその場を離れた。そして、暫くして隣の部屋から戻って来ると、ぐい飲みに入った妙な飲み物を持ってきてマイクに差し出した。


「おい、これを飲んでみろ。一気に全部飲み込むんだぞ」


「これなんですか?何か凄い色をしていますね、もしかして爆発的に魔力が上がるとかなんかのやつですか?」


「まあ、そのようなもんだが……ええい、うだうだ言わずにさっさと飲め!」


 強めの口調でミラージュからそう言われたマイクだが、持たされたぐい飲みの中にはドロッとして赤い液体が入っている。どう見ても旨い飲み物とは思えない……が、ミラージュが睨みを利かせているこの雰囲気……とても断ることは出来ない。マイクはそれをじっと見つめた後、目を瞑りゴクッと一気に飲み干した。


 ん?少し舌がピリピリするが少し甘みがあって、苦みもあるが別に飲めないわけではな……


「★△×※〇!ぎゃああ!」


 その液体が喉を通過した後、口腔内に広がる強烈な辛さと、焼ける様に熱くなる食道と胃、一体何を飲まされたかはさておき、とてもじゃないがじっとしている状況ではない。何か飲まないと死んでしまう。


「水!水をくれぇ!」


 必死に喉を押さえながらマイクがそう叫んだ時、左手に握っていたスカルサーベルの刀身が糸から本当の青い刀身へと変化した。だが、当のマイクはそれどころではない。苦悶様の表情を浮かべ、のたうち回った後、水を求めて井戸のありそうな炊事場に向かおうと一歩踏み出した時、意識を消失してその場に倒れ込んだ。


「おやおや、魔力の枯渇かの。折角ちゃんとした刀身が出たというのに仕方が無いのぉ、ほっほっほっ」


 完全に意図的である。ミラージュはマイクの喉が渇いたら刀身が出たという言葉からヒントを……いや、悪知恵を思いつき極めて辛さの強い唐辛子を煎じた水液をマイクに呑ませたのだった。


 激痛の走る喉を潤したくて、猛烈に水分を要求することによって思考は水で満たされた為に、マイクは立派な水の刀身を出現させることが出来たわけだが、そもそも魔力のキャパが少ない為、一瞬で魔力が枯渇してしまったわけである。


 ミラージュはマイクに口の中にボトボトと水を流し込んだ。口の中にも水は大量に入ったのだが冷たい水をぶっかけられているのとほぼ同じ。無意識にマイクはグビグビと水を飲んだ後、続けてミラージュは魔力回復の液体を口に流し込んだ。


 ようやくその辺りでマイクの目がパッと開く。


 マイクは濡れた顔を手で拭いながら「もう……勘弁してくださいよ」と涙目でそう言った。


(よしよし、今のでちゃんと魔力が増えておるのぉ。後二、三回は頑張ってもらうかな)


 ヒイヒイ言いながら口を水で洗い流しているマイクとは裏腹にミラージュはとても満足気である。


「うむうむ、刀身を10分間出し続けることが出来れば次の修行に移ろうかの」


 無慈悲な修行はもう少し続くのであった。


いつも読んで下さりありがとうございます。

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