62.さてと
「さあ、どういう事か話して貰おうか」
レアがロバーツにそう問うと、震える声を絞り出し最後のあがきの様に問い直してきた。
「お、お、お前は本当に帝国軍の兵士なのか?しょ、しょ、証拠を見せてみろ」
「お前は愚か者か?俺の方が圧倒的に優位に立っている状況で、どうしてお前の言う事を聞いてやらねばならないのだ?そもそも、先程お前も言っていただろう『俺の質問だけに答えろ』と今度は逆に俺が言う番だ。お前は俺の質問だけに答えていればいい」
レアの言葉にロバーツは言葉を失いガタガタと震え出した。そしてレアは更に追い打ちをかける様にロバーツの傍にある大木をかまいたちの様な風魔法で切り刻んだ。それは先だってロバーツが行った手刀による風魔法よりもかなり強力な魔法だった。粉々に切り刻まれた木片を見てロバーツは更に青ざめる。
「な、な、何でも話す。頼むから乱暴なことは止めてくれ……お、俺は帝国軍第七研究部の化学技術者だ。て、生物兵器作成の実験中に爆発が起こってこの星に飛ばされたんだ。あちこち探しては見たが、この星に飛ばされたのは俺だけで、他に帝国軍の仲間は居ない」
ロバーツは必死になって話し始めた。レアは頷きもせずに黙って聞いていると、奴は更に話を続けた。
「この星を調べると大した強者は居なかったので、万が一帝国軍が俺を助けにこの地を訪れた時にこの星を献上しようとしていたのだ。そ、そうさ、これは帝国軍の為にやっている事で、決して俺が本気でこの星の王になんてなろうとは思ってはいない」
いいわけが始まった。だが、残念な事が分かった。この男もレアと同じでいきなり飛ばされた奴だったのだ。つまり宇宙船は持っていないという事である。
生物兵器を作っていたという事だから魔物を喰らう『黄魔』を作っていてもおかしくは無いという事か。そしてこの反応からすると奴の言うあいつとはヴァンダーヴォートの事ではないな。一体誰の事だ?
「……だから、帝国軍にとって、この星を制圧して拠点とする事は……」
なんだ、こいつまだしゃべり続けていたのか。
「ああ、もういい。俺はヴァンダーヴォート様直属の偵察隊副官のレクサスだ。覚えておくがいい、俺はこの星の住人に紛れてこの星の事を調査している所だったのだ。魔物に不穏な動きが合った為にここに来た。それがお前の仕業だったわけだ。お前の行動は邪魔だ。これ以上余計な事をしなければ死罪だけは免れるだろう」
「し、死罪って……お、俺は帝国軍の為に……」
嘘つくな、何が帝国軍の為にだ、それが口から出まかせだという事は百も承知だ。本当にそうなら自らが王になるなどと言えるはずないからな。
帝国軍の為と言えば何でも許される。そう考えていると思っているからこそレアは適当な名前を作って話をでっち上げた。ロバーツを殺すのは簡単だが『黄魔』を元の魔物に戻す方法や、他に魔物を使役できる方法は奴しか知らない可能性が高い。それらを白紙に戻させる必要があるのだ。
『回復』
「え?」
ロバーツの身体は淡い緑色の光に包まれた。回復を施したレアの意外な行動にロバーツは驚きを隠せない。
「お前に回復魔法と位置情報検知魔法をかけた。これで何処に行こうともお前の居所は判る。一切余計な事をするなよ。不穏な行動だと俺が感じたらその場で反逆行為とみなし断罪する」
位置情報検知魔法をかけたというのも嘘だ。そんなものを掛けなくとも俺の感知魔法でこいつの居場所など何時でも判る。ただ、そうでも言っておかないと何をするか判らないからな、こいつは。
「か、感謝いたします……レクサス様」
ロバーツはそう言いながら片膝をつき俺に屈服したかの様に振舞っているが、伏せた顔から僅かに見える口角が少し上向いている。何か企んでいそうではあるが、レアにとってはこいつが操作した魔物をどうにかする方が先なのである。
「ところで、お前が作った『黄魔』は何体いるのだ?そいつらは前の指示で動くのか?」
「……五十体くらい、種族は様々です。まだ実験段階なので私の指示通り動く魔物は二割程度です」
五十体も居るのか、好き勝手やってやがる。ここに来るまでに『黄魔』は居なかった、という事はその五十体はここより深いエリアに居るという事か……ここより前のエリアに居たヒドラも冒険者達にとっては相当厄介な代物だった。それ以上の『黄魔』となると……
早く何らかの対策を立てないと街がやばい事になる。
「ところで、どうやって作ったんだ?種を明かしてみろ」
俺がそう尋ねるとロバーツは顔を強張らせた。
「や、薬品を使いました。研究所から持ってきたもので、もうありません。丁度無くなったのです。これ以上あの魔物を作り出すことは出来ません」
都合のよすぎる話だ。先ほどのダークバイソンも全ての奴に金縛り魔法をかけていた。どう見てもあそこにいたダークバイソン全てを『黄魔』にしようと考えていたとしか思えない。つまり、手の内を見せたくなくて隠しているということか。
「まあいい、今からその五十体を狩に行く、場所へ案内しろ。そいつらに街を壊されたり住民を惨殺されたりするのはヴァンダーヴォート様の意に反する」
レアが今までみた中での最強の『黄魔』は第二層の終わりに居るベヒモスだった。
一体や二体位ならまだしも、十体以上が固まって来るとなると相当な攻撃力の広範囲魔法が必要となる。出来なくはないが、森を砂漠に変えかねない。それに地形を変えてしまうのは生態系そのものも変えてしまう恐れがある。この星の予測できない変化を考えると地味ではあるが一体一体倒すことが望ましい。
厄介な事は第二相、第三層辺りの魔物は生命力が高く、生命力で検知しているレアの魔法でも普通の魔物と『黄魔』との区別がつきにくい。
本当に面倒な事をしやがったものだ。
「おい『黄魔』を元の魔物に戻す手段は有るのか?」
本当はこの問いかけはしたくはなかった。この問いかけがロバーツの命を守る切り札とされる可能性がある為だ。
「で、出来なくはないのですが、色々な素材が必要でありまして……」
ロバーツはレアの目を見ずにそう答えた。
胡散臭い、直ぐに解答を言わない所が「その事を伝えない限り自分は生かされる」と、根拠のない期待を持っているという事だ。それに加え、こういう時は隙あらば寝首を搔いてやろうという一発逆転の何かを企んでいる時だ。
レアはロバーツに気付かれない様に、念のために攻撃反射魔法を自身にかけた。
「先ずは、その方法を教えて貰おうか」
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